表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1474/1800

第72章―29

 とはいえ、今上陛下の御前から退出して、更に流石に余りの言葉に、皇后陛下が今上陛下を御諫めするような言葉が微かに聞こえるのが、風に乗って聞こえてくる内に、鷹司(上里)美子も今上陛下の言葉もあながち間違っていない気がしてきた。


 それこそ自らの父からすれば異母姉になる武田和子は、北米共和国独立戦争の3人の首魁の一人として、未だに名指しされる存在である。

 又、自らの父の義兄になる上里勝利は、本人に言わせれば、

「それこそ運命に流されただけで、自分の政治的才能は姉妹(美子と和子のこと)に及ばない」

と韜晦するが、結果的にローマ帝国の大宰相の印綬を先日まで帯びていた身である。


 エウドキヤ女帝の強烈な個性によってかき消されがちで、上里勝利の政治的才能は表立っては見えないが、それこそこういった辺りが良く見える人には分かる有能さであり、弟は狗ではなくフェンリルだと美子に教えたのは、それこそ自らの父の義姉になる織田(三条)美子である。


 そして、織田(三条)美子は、本来ならばシャム王国の国民で、更に12歳までその地で育った身である以上、シャム王国の為に尽くすべき身でありながら、実際には日本、更には皇室の為にと10代の頃から尽くしてきた。


 又、自分にしても、本来の生まれ故郷はオスマン帝国であり、更に実母の広橋愛は、そもそも論で言えばオスマン帝国人なのに、日本、更に皇室の為に働くのに疑問を覚えていない。


 更に(この世界の)上里家の祖といえる上里松一にしても、琉球王国を日本の属国にすることで、本来の祖国である琉球王国の独立を結果的に失わせる役目を果たすことになった。


 そうしたことからすれば、天下の不忠者が上里家に揃っている、という今上陛下の面罵も、あながち誤りではない気がする。

 そんな考えをしながら、美子は尚侍の印綬を返納して、宮中から去ることになった。

(尚、その路程で中院通村に会って、改めて皇太子殿下に、この縁談、及び自らの考え等を伝えるように依頼した)


 さて、この徳川千江との縁談、更には美子の尚侍からの罷免を聞かされた皇太子の政宮殿下は、文字通りに肝が潰れる想いがすることになった。


「何故に(美子を)尚侍から罷免する。断じて許されぬ」

「怖れながら、今上陛下の命令です。皇太子殿下と言えど、覆すことはできませぬ」

 政宮殿下の言葉に、中院通村は冷静に返した。


「それからこれを」

 中院通村は、政宮殿下に美子から託されていた3種類の干し肉を示した。


「この干し肉は」

「北米共和国、ローマ帝国、オスマン帝国の三国から送られた各国の野生牛の仔牛の干し肉です。又、尚侍の想いも入っているとか」

「どういう意味だ」

「お分かりになりませぬか」

「分かりとうない」

 政宮殿下と中院通村は、そんなやり取りをした末、政宮殿下は完全に横を向いて、中院通村の言葉を完全拒否する態度を、無言の内に示した。


 とはいえ、このままでは話が進まない。

 不敬とそしられることを覚悟しつつ、中院通村は敢えての言上を行わざるを得なかった。


「尚侍、鷹司(上里)美子としては、皇太子殿下の想いに応えることは、決してできない、ということです。尚侍としては、自らが夫がいる身であること、更には、皇太子殿下の義母(既述だが、本来は尚侍は今上陛下の御寝に侍る)という立場であることから、想いを拒まざるを得ないのです。だからこそ、仔牛の干し肉を選ぶように各国に言われたとか」

 中院通村は、懸命に奏上した。


「どういう意味だ」

「仔牛は極めて貴重なモノです。それを屠殺して、わざわざ干し肉にする。その意味をお分かりください」

「分かった」

 中院通村の言葉に、政宮殿下は遂には言わざるを得なかった。

 最後の中院通村の言葉が言葉足らずになっているので、補足します。


 鷹司(上里)美子としては、皇太子殿下は自らの義子である以上、想いに応えることはできない、という寓意も込めて、仔牛の干し肉を送りました。

 仔牛、つまり、皇太子殿下は私からすれば子どもなのです、という寓意です。


 ところが、中院通村は、皇太子殿下は鷹司(上里)美子の寓意を当然に分かられる筈と考えて、そこまで詳しい説明をせずに、本文中の説明で済ませました。


 そのために次話の事態につながります。


 ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 皇太子殿下も(きっと今上陛下も)無茶苦茶誤解していると思います。 「天皇家ではなく上里家が世界を牛耳っておりますのよ。」と。 事実、世界の事情通(深読みし過ぎ)は、そう思っていそう。
[良い点]  「三国のお肉」の寓意がなんか解釈違いを生みそうで波乱大好き読者はワクワク♪(´ヮ` )و  ひとつひとつを見ると故郷に仇なす振る舞いに見える上里の人々だけど自分が忠誠や親愛を抱くモノへ…
[気になる点] 皇太子殿下(後水尾天皇)は、別に側室を持っても良いなら、選択肢が狭まらないなら、大丈夫でしょう。 今作では、満州に居住する漢人と朝鮮人は代を経れば、自作農として自立できるし、子々孫々…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ