第72章―7
そんなことがあった翌日、政治的に引退していると言って良い義理の伯母になる織田(三条)美子の下を、鷹司(上里)美子は訪ねていた。
さて、何故に政治的に引退していると言って良い、という枕詞が就くのかというと。
何だかんだ言っても織田(三条)美子は、それこそ辣腕の政治家として国内では近衛前久、国外ではローマ帝国の女帝エウドキヤを始めとする様々な面々と渡り合った存在である。
だから、70歳を過ぎていて表向きはほぼ隠居しているとはいえ、織田(三条)美子は、未だに貴族院の重鎮議員であり、日本の政界における最大の黒幕扱いを、陰では今上陛下や尼子勝久首相、労農党党首の伊達政宗他の面々から受けている存在であった。
この黒幕扱いについて、織田(三条)美子自身は、こんな好々婆を政界の黒幕扱いするとは、本当に神も仏も無い世の中だ、と口癖のように言っているのだが。
一昔前にもならない日本の植民地の多くが自治領となった際でさえ、それを陰で纏めた一人といえるのが織田(三条)美子なのは政界では公知の事実で、政敵の一人といえる尼子首相に至っては、
「あんな好々婆がいるか。本当に好々婆なら、自治領化法案が成立した筈が無い」
と陰で言っているのは、多くの国会議員の間では周知のことだった。
話が逸れすぎたので、鷹司(上里)美子が、義理の伯母になる織田(三条)美子を訪ねた事情を述べるならば、皇太子の政宮殿下の婚約とその相手になる徳川千江について、織田(三条)美子の予めの了解を得ておく必要を感じたことが大きかった。
鷹司(上里)美子が考える限り、織田(三条)美子はこの一件について反対するとは考えにくかったが。
そうは言っても事が事である。
織田(三条)美子に、自分に全く話をせずに事を進めたのか、とへそを曲げられては堪らない。
予め話をしておくべき、と考えた次第だった。
さて、鷹司(上里)美子が、織田(三条)美子の下を訪ねた際だが。
開口一番に織田(三条)美子から、鷹司(上里)美子は先制攻撃を浴びせられた。
「皇太子の政宮殿下に外国人相手の婚約を勧めるそうね。皇統を何と考えているの」
「えっ」
鷹司(上里)美子は絶句した。
「何で既に」
それ以上の言葉がどうにも出ず、しどろもどろの態度になった義理の姪を、織田(三条)美子は冷ややかな目で眺めながら、言葉を継いだ。
「私の情報網を舐めないで。昨日の会合の内容から、中院通村が貴方に話したことまで全て知っているわ。本当に私に知られていない、と貴方は考えたの」
「そんなことは」
と何とか鷹司(上里)美子は言ったが。
頭の片隅で考えざるを得なかった。
何で伯母が知っているのか、それこそ知られる筈が無いのに。
「皇統を何と考えているのか、私に言いなさい。その上で(貴方の話に)賛成するかどうか決めるわ」
「はっ、はい」
鷹司(上里)美子は、伯母の言葉に対して、懸命に弁じることになった。
皇統は男系男子で受け継がれるべきこと、そして、それが根本であること。
鷹司(上里)美子は、敢えてそれ以上のことは言わなかった。
本来は外国人の伯母である。
それ以上のことを、自分は言えない。
下手に口に出せば、それこそ伯母の地雷を踏み抜く事態が起きる。
それに私にしても、細かに言えば純粋な日本人とは言えないのだから、これ以上は言えない。
織田(三条)美子は、姪の言葉を聞きながら、考えた。
私に話せる範囲を弁えているわね。
それに政治的、感情的にはともかく、法的には通る話か。
「分かったわ。この件を黙認する」
話を聞き終えた織田(三条)美子は、姪にそれ以上のことは言わなかった。
鷹司(上里)美子も考えた。
伯母にしても、それ以上は言えないことだな。
以前にメッセージまで寄せられましたが。
好々爺という単語はあっても、好々婆と言う単語は無い。
新単語を造るとは烏滸がましいにも程がある、小説を全面削除して、なろうから退会しろ、と叩かれましたが、そこまで新単語を造るのは赦されないことなのですか?
私としては、登場人物の言葉としてアリ、と考えたのですが。
いや、それはネット小説家として烏滸がましいにも程があって、なろうから退会すべき、と言われるのなら、そうすることを考慮しますが。
ご感想等をお待ちしています。




