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第10章ー4

 そういったことが横須賀港ではあったが、そんなことが対馬の戦場で分かる訳が無い。

 島田豊作中佐は、朝鮮水軍の軍船が対馬沖合に現れ次第、対馬の住民を山中に誘導して避難させると共に、上陸後の迎撃戦闘準備に取り掛かった。


 島田中佐としては、本音では上陸阻止のための塹壕等を上陸適地と想定する海岸に張り巡らせたかったが、この時代に上陸作戦前の艦砲射撃等を朝鮮軍が行える訳が無い。

 それに、朝鮮軍を上陸させた後、海軍によって朝鮮水軍を殲滅、完全に退路を断って、全員を戦死、または捕虜にしようというのが基本作戦である以上、上陸阻止陣地を海岸に設置する訳には行かず、ある意味、指をくわえて朝鮮軍が上陸してくるのを迎撃するしかなかった。

 もっとも、その上陸作戦と言うのが。


「えらい、ゆっくりとした上陸作戦だな」

「時代が違いますからね」

「住民を山中に悠々と逃がす時間があったから有難かったが」

 そんな会話を島田中佐らは交わす羽目になった。


 なお、この時、島田中佐らの下にいたのは、士官級は皇軍関係者のみだったが、兵は完全にこの時代の者ばかりであり、下士官も過半数近くがこの時代の者だったので。

 下士官兵の多くが士官らの会話に戸惑う羽目になり、ある伍長が思い切って、上官に尋ねることにした。

「あのう、皇軍の方々の上陸作戦は違うのですか」

「おう、後10年もすれば、目にするようになるだろうが、帆も櫓も無しで移動する船で上陸作戦は行われるようになる」

 その上官は、大発動艇を念頭に置いて答えた。


「それは凄い。そういえば、皇軍の上陸作戦がそういった船で行われたそうですが、何故にここに持ち込まれなかったのです」

 はっきり言って、待つ間は暇である。

 伍長は部下の兵の待つ間を取り持つために、上官との会話を始めた。


「いずれは分かることだから、少し早めに話すと、それを動かすには、油がいるのだ。それも地中から湧いてくる油がな。それは南の方から運ばねばならず、今の日本ではほとんど採れない」

 上官は、少し嘆くような言葉を言った。

「そうなのですか」

 伍長は驚いた。


「石炭を使う機械(蒸気機関のこと)でもある程度は代用できるがな。それでは力不足になる。それに、今は修理は何とかできても、製造ができないのだ。だから、ここには持ち込めなかった」

 上官は、少し秘密を明かした。

 伍長らは、無言のまま、納得するような表情を浮かべた。


「さて、集落を捨てて、山中で遊撃戦を展開するぞ。明日の夜から明け方が愉しみだ。海軍が駆けつけてくれるからな。その後で、朝鮮軍を殲滅してくれる」

 上官は指揮下にある小隊に、そのように指示し、小隊の部下はその指示に従った。


 朝鮮軍にしてみれば、予想外の事態だった。

 対馬に上陸したものの住民の姿はなく、軍の姿も無かったのだ。

「恐らく、山中で遊撃戦を展開するつもりではないか」

「うむ、そうなると地理に不案内なので少し苦労しそうだが」

 そんな感じで、上陸早々に朝鮮軍幹部は会話を交わして、進軍を開始した。


 何しろ、民の姿が無いのだ。

 これでは略奪しようがない。

 一応、残されている家の中を覗いてみるが、中にはいわゆる金目の物は何もない。

 住民がいれば、奴隷として連行することもできるが、住民の姿が見えないので、どうしようもない。

 朝鮮軍の将兵は分散して、いわゆる山狩りをして、住民を探し出そうとしたが。


「何だ」

 いきなり銃声が響き、朝鮮軍の指揮官が死傷する。

 山の中の地形を生かして島田中佐は兵を分散させ、狙撃を多用したのだ。

 その第一の狙いは、朝鮮軍の指揮官ということになった。

 指揮官が死傷すると兵が混乱するのは、この当時では当たり前の話で朝鮮軍は混乱を引き起こした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 封建制軍隊に最大の欠点は指揮権の引き継ぎという概念が基本的にはないことですからね。 首刈り戦術はかなり有効でしょう。
[一言] なるほど兵のほとんどはこの時代の人ですか そう言えば皇軍兵士のほとんどは農民・教師・技術者として日本全国に散ったんでしたね。 まあ、ほとんどの兵士は故郷に帰りたかったでしょうからね。 戦前…
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