第71章―19
そんな会話を広橋愛と鷹司(上里)美子の実の母娘が日本の京の都で言い交わした少し後、北米共和国では徳川秀忠と小督が、世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げ成功のニュースを聞き、更に真田信之を始めとする北米共和国がトラック諸島に派遣した面々からの私信を読んで、会話を交わしていた。
「本当にお前の姉夫婦(上里秀勝と茶々夫婦のこと)は、素晴らしい結果を挙げたな:
「褒められても何も出ませんよ。そうは言っても、日本に北米共和国、更にローマ帝国と言った日系三大国を中心として世界各国が協力した素晴らしい成果ですね」
「うむ、全くだ」
秀忠と小督は仲睦まじく会話を交わした。
小督は苦心惨たん(?)の末に、ようやく昨年の1604年に男児の家光を産んでいる。
それまでに4人も子どもを小督は産んでいたものの完子を筆頭に全て女の子で、義父の家康が陰で、
「あれは女腹にも程がある」
と言っていると聞かされていた小督にしてみれば、やっとホッとできた出来事だった。
何しろ、秀忠には庶子になる男児の正之がいる。
正之は日本人になって広橋愛の養子になっているものの、このまま男児を小督が産まなかったら、正之を呼び戻して徳川家の跡取りにしたい、と家康を始めとして多くの人が考えているのは公知の事実で、小督にしてみれば、ずっと気が休まらないことだったのだ。
(尚、先走った話をすると、この後で小督は男女1人ずつの子を産んで、男子2人、女子5人の合計7人の母に最終的にはなった)
それはともかく、小督が家光を産んで、更に現状では家光がすくすくと育っていることから、将来の徳川家の家督を継ぐのは家光だ、と秀忠や家康は明言する事態が起きており、小督にしてみれば、本当に安堵している事態が起きていた。
そういった背景を踏まえてのことになるが、
「家光の嫁を探す頃には、本当に月面を人が歩いている事態が起きそうな気がするな」
「気が早すぎますよ。まだ、家光は三歳の祝いもまだなのに」
「そういう小督の顔も綻んでいる気がするな」
「いい加減にしてください」
そんな感じで秀忠夫妻はのろけることになった。
だが、その一方で。
秀忠としては、今後のことを考えざるを得なかった。
来年の1606年の北米共和国大統領選挙には、いよいよ自分が立候補することになっている。
30歳にしかならない自分は、本来的には若すぎると言われても仕方ないし、それこそ自分の頭の片隅では、自分よりも異母兄になる松平信康殿こそが徳川家の家督を継いで、北米共和国の大統領になるべき、と考えなくもない。
だが、北米独立戦争等の様々なことから、自分が父の跡を継いで、北米共和国の大統領を目指すことになってしまった。
そして、様々な選挙予測によれば、自分が北米共和国の大統領に成れる公算は、それなり以上にあると見られている。
何しろ武田信光大統領の大統領としての任期は3期目に突入しており、10年以上も北米共和国大統領職を務めているのだ。
そうしたことから、北米共和国の有権者の間では、そろそろ他の人が大統領になるべきでは、という輿論、空気が徐々に高まっている。
更に自分は妻の影響から東方正教徒で、更に父の家康が複数の異人種との間に子どもを作っていることから、様々な少数派に配慮してくれるのでは、という期待が北米共和国内の有権者の間では高まりつつあるらしい。
こういった輿論等を駆使すれば、自分は北米共和国大統領に当選できるだろう。
だが、このままでは不安がある。
宇宙開発を更に煽ることで、北米共和国の有権者の輿論等を自らに好意的にすべきだな。
そこまで徳川秀忠は考え、この後の大統領選挙に積極的に行動することになる。
ご感想等をお待ちしています。




