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第71章―12

 それと同じ光景を池田元助やケプラー、ガリレオらも眺めていた。


「あっという間だったな」

 そう池田元助は呟いた。

 実際に準備にあれだけの時間を掛けたのに、一瞬のうちに自分の視界から、ロケットは消えていったと言っても過言では無かった。

 だが、その一方で何故か涙が溢れてならなかった。

(耳栓をしていたこともあって)このまま事実上は無音の世界に一人で浸って、この感動を噛みしめたい、そんな想いが微かに池田元助の脳裏に浮かんだが。


「万歳」

「ヴィーヴァ」

 等々の歓声が挙がっているらしい気配がする。

 実際、池田元助の視界の中では多くの科学技術者が、文字通りに子どもに還ったように騒いでいる。

 一人だけ騒いでいないでは、却って浮いてしまうな。

 そう考えて、池田元助が耳栓を外すと。


 周囲では、鼓膜を破りそうな歓声が相次いで挙がっていた。

 更には、お互いに握手をし、肩を抱き合う光景が広がり出した。

 そうだ、皆で騒ごう、我々は恐らく成功したのだ。

 池田元助は、そう気持ちを切り替えて、周囲の人の輪に加わった。


 その人の輪の中には、当然のことながら、ガリレオやケプラーも加わっていた。

「まだ、気が早すぎるかな」

「大丈夫、どう見ても打ち上げは成功している。後は人工衛星が無事に稼働するかだけだ」

「それにしても、数十年前だったら、宇宙にモノを打ち上げよう等、完全に夢だったな」

「それどころか、そんなことを話しただけで、涜神だ、異端審問に掛けるぞ、とカトリック教会は騒いだかもしれないな」

「確かにそうだな」

 そんな声が、ガリレオやケプラーの周囲で挙がっていて、それにガリレオやケプラーも同意せざるを得なかった。


 少なくともローマ帝国が復興して東西教会を合同させる以前に、宇宙に人や物を送り込もう等、中西欧では誰も想像もしていなかっただろう。

 更にそんな考えを誰かが公言したら、カトリック教会によってその人は異端審問に掛けられ、火刑台に上ることになってもおかしくなかった。

 だが、ローマ帝国復興があり、更に東西教会の合同が事実上果たされて、更に1590年に何れは宇宙にロケットを打ち上げる話が北米共和国でぶち上げられて。

 それから約15年の歳月が更に流れた結果、終に宇宙に人工衛星が打ち上げられ、宇宙に人や物を送りこめる日が来たのだ。


 ケプラーは人工衛星の打ち上げの感動を噛みしめつつ、何故か別のことが脳裏を過ぎった。

 占星術において、月は重要な天体だが、何れ月に物が送り込まれ、更に人類が月に足を踏み入れるときが来たら、占星術で月の意義は変わるのだろうか。

 どうでもよいことかもしれないが、本当に占星術が変わっていく発端になる気がするな。

 占星術を趣味とするケプラーは、そんな余分と言えば余分なことを考えた。


 その一方で、ガリレオもロケットが消え去っていった行方を横目で追いつつ、更に周囲の科学技術者らと感動を分かち合いつつ、他所事までも考えていた。

 確かに周囲が言う通りだ。

 それこそ宇宙に人やモノを送り込もう、とかつての自分が言おうとしたら、それは異端審問を覚悟した上で言うことになっていただろう。

 だが、今ではそんな心配をしなくて済む世界になっている。


 更に言えば、自分はともかく、自分の子ども達が亡くなる頃までには、宇宙の何処までたどり着けることになるだろうか。

 それこそ月のみならず、火星を始めとする他の惑星までたどり着いているだろうか。

 それとも、余りにも夢を見過ぎだ、と言われそうだが、太陽系の外にまで人類は赴いているやも。

 何しろ「皇軍来訪」という異常事態があったとはいえ、それから60年程で世界各国が協力した結果として、人類は人工衛星の打ち上げに成功したのだ。

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[良い点]  史実では宇宙を見上げその遥かなる深淵に迫りながらも聖書に描かれていない不問の領域に足を踏み入れる事をカトリック勢力に忖度せざるを得ず不本意な人生を生きた二人の宇宙物理学の先駆者たちが誰は…
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