第70章―22
「そういった宗教的な側面もあるが、もう一つ理由がある。それこそ北満州で大規模な油田が見つかったように、シベリアで大規模な油田や炭田、鉱山が見つかるのではないか、と考えるのだ。それこそ人口が希薄である以上、そういったことにろくな探査がされていないのであろう。北満州のように、それなりに人口がいる土地でさえ、大規模な油田が見つかるという事態があった以上、シベリアにおいて、そのようなことが起こらないと誰が言える」
「確かに仰せの通りです。そこまでのことをお考えとは、臣として恥じ入るばかりです」
エウドキヤ女帝陛下はそのように言葉をつなぎ、文官はそれこそ土下座しているような口調で弁解を行った。
この言葉にも、羽柴秀頼は色々と考えざるを得なかった。
実際問題として、シベリアの大地のほとんどが永久凍土に覆われていると言っても過言では無く、仮に大規模な油田や炭田、鉱山がシベリアで見つかっても、その採掘等で採算が取れるのか、というと自分の知識からすれば、かなり困難なのではないか、と考えざるを得ない。
だが、その一方で、大規模な油田の存在が全く予期されていなかった北満州で大規模油田が発見されており、又、ローマ帝国領である北アフリカのリビアでも大規模な油田が予期されずして発見されたという現実があるのだ。
こうしたことからすれば、シベリアの大地で大規模な油田や炭田、鉱山が見つかる可能性をエウドキヤ女帝陛下が追い求めるのも当然の気がする。
そんなことを羽柴秀頼が考えている内に、件の文官は引き下がったようで、別の文官の声が聞こえてくるようになった。
「中央アジアの現状ですが、我がローマ帝国がそれなりの影響を及ぼすのは、やはり困難です」
「ふむ。中央アジアの諸国家というか、諸勢力を手なずけて、太平洋沿岸にまで何れは鉄道なり、道路なりを建設したいと考えていたのだが、難しいというのか」
「御意」
エウドキヤ女帝陛下とその文官のやり取りが始まっていた。
羽柴秀頼は考えた。
自分の知る限りだが、カスピ海の北岸からエニセイ川流域までをローマ帝国は自国領と言って良い状況にしつつある。
だが、裏返せば、それより東や南の地域はローマ帝国の領土と言えない状況なのだ。
「中央アジアではキプチャク汗国の末裔と言えるヒヴァ汗国やブハラ汗国、コーカンド汗国が存在しています。それに加えて、国というよりも勢力になりますが、キルギスやオイラートも跋扈している状況です」
その文官は、そこで言葉を一旦は切った。
(ここで国ではなく、勢力と言っている理由ですが、キルギスやオイラートは内部分裂が酷く、外敵から攻められないと一致団結しない、といっても過言では無い状況に当時はあったからです)
「ですが、その裏にはオスマン帝国のカリフが見え隠れします。オスマン帝国の現在の国力から、実際の軍事力では無く、カリフという宗教的権威を駆使して、中央アジアでの影響力を高めようと裏で動いているようです。そして、中央アジアではイスラム教徒が、それなり以上の勢力を持っています:
「ふむ。キリスト教徒のローマ帝国にしてみれば、中央アジアでのオスマン帝国の影響力排除は難しい、ということになるな」
「仰せの通りです」
エウドキヤ女帝陛下とその文官は、そうやり取りをした。
「ローマ帝国の現状からすれば、中央アジアにまで攻め込めるのは、少なくとも10年は先になる見込みだ。それまでにオスマン帝国のカリフの影響を少しでも低下させるように努めるしかあるまい」
「はっ、その通りと臣も考えます」
エウドキヤ女帝陛下とその文官は、そこまでのやり取りをした。
それを聞いた羽柴秀頼も内心でそれに同意した。
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