第69章―4
伊達政宗農水相は、叔父になる上里清軍務局長とやり取りをした。
「この際、平時に兵を提供してくれる植民地を州単位で自治領にし、外交権等を持たせるのです。それによって、日本本国と植民地の関係を変えるのはどうでしょうか」
「成程、兵を提供する代わりに外交権等を与えて、その州を自治領にするという訳か」
「日系植民地の広い範囲で、まだまだ口先での訴え、言論に止まっていますが、独立論が巻き起こりつつあります。これが実力行使をしてでも、という動きになる前に機先を制して、このような提案を本国側からすれば、植民地の住民の多くが歓迎するでしょう」
「ふむ」
少し考えた後で、上里軍務局長は言った。
「植民地の住民の多くが歓迎するだろうが、日本本国側の世論はどう動くかな。軍人の自分が言って良いことではないが、植民地の独立問題は本国内ではタブーに近い話題だぞ」
「そこが問題です。日本本国の有権者の多くが、植民地を独立させるという話題に感情的に拒否感を示します。それこそ北米独立戦争の記憶が完全に冷めたとはいえませんし、他にも色々とありますから」
伊達農水相は即答した。
実際に日本本国の世論はその通りと言って良かった。
日系植民地は大幅に発展しており、それこそ単なる日本本国への様々な資源供給地から、ある程度の工業化を果たしつつある。
こうした現実から、日系植民地の住民の多くが独立を求めつつある一方、日本本国の住民、有権者はこういった状況にあるから、却って日系植民地を失うことは、日本の国威を大いに損なうものだ、という感情に捉われつつある。
それに日系植民地の開発に、結果的に多額の投資を行ってきたという過去の経験がある。
何だかんだ言っても植民地開発はお金が掛かることであり、小規模なことなら個人、一族規模で出来ても、それこそ大規模な農地開拓や鉱山開発となると、大幅な初期投資が必要不可欠であり、そうなってくると日本本国政府自らが投資せざるを得なかった。
特に中南米大陸や南アフリカ先端部の植民地開発となると、日本の国策として行われたと言っても過言では無く、大幅な政府支援が行われた。
(尚、このことが北米植民地住民が憤懣を高めて、独立戦争に至った要因の一つだった。
日本本国側にしてみれば、当時は対スペイン戦争(細かく言えば、ブラジルではポルトガルと日本が戦ってはいるが、主敵がスペインだったのは間違いない)の真っ最中であり、必然的に北米への投資、支援は後回しにせざるを得なかった。
更に日本本国側にしてみれば、北米植民地はそれなりに裕福であり、自前で開拓を行おうとしている以上、何で北米の開発を支援しないといけないのか、という冷めた見方までされた。
一方、北米植民地側にしてみれば、何で中南米には大規模な支援を日本政府は行うのに、北米には支援が乏しいのか、という憤懣を覚えることになったのだ)
ともかく、そうしたことが、日本本国の有権者たちにしてみれば、これまでに多大な投資を植民地開発に投じて来たのに、植民地に独立されては損だ、という感情論を引き起こしていた。
だが、その一方で既述だが、日系植民地の農産物、更には一部の工業製品は、徐々に日本本国の農業や工業に打撃を与えつつあった。
そういったことから、余り大きな声では言えないが、日本本国内でも、そういった農業保護等の観点から、日本本国と日系植民地の関係を見直すべきだとの声が挙がりつつあった。
具体的には日系植民地の独立を認めて、日本本国と独立した植民地、国家との間で外交関係を築いていってはどうか、という主張である。
だが、それに反対する声の方が圧倒的に大きいのが日本本国内の現実だった。
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