間章―4
義姉である実母の広橋愛とそんなやり取りをした翌日の月曜日の朝、上里美子は女子学習院に(表向きは)体調不良を理由に休暇届を電話でした後、伯母になる織田美子の下を訪ねていた。
尚、織田美子と同居している自らの親友の徳川完子は女子学習院に既に登校していて不在である。
(ちなみに徳川完子にも、上里美子は電話で今日は休む旨を伝えている)
「体調不良で自宅静養している筈では無かったの」
織田美子は義理の姪の上里美子の顔を見るなり言ってきた。
「父や義姉から、私と鷹司信尚様との縁談には色々と裏があるらしい、と聞かされました。伯母上、真実を私に明かせる限りで構いません、できる限りは正直に話して下さい」
上里美子は怒りを秘めた声で伯母に言った。
「姪がそんなに怒ることを私はしたかしら。相思相愛の姪と恋人を結婚させようとしただけなのに」
「惚けるのも大概にして下さい」
「そこまで言えるということは、それなりに裏が見えているということかしら」
「私と信尚様の結婚は、今上陛下と五摂家の対立が裏にあるらしいと聞いて、私もそうかもしれないと考えるようになっています」
「流石はあの母にしてこの娘ありね。広橋愛は私を凌ぐ頭の持ち主。その実の娘も頭が回るわね」
「いい加減にして下さい」
織田美子と上里美子は、それなりどころではないやり取りをすることになった。
「では話せる限りのことを言うわ。でも、余り怒らないでね。私なりに日本や皇室のことを考えた末の行動なのだから」
「伯母上のことですから、そうでしょうとも」
トゲのあるやり取りを皮切りに、織田美子は上里美子にるる説明していった。
例の皇室典範の改正は今上陛下を怒らせてしまったこと、そして、今後のことを考えて今上陛下は五摂家を膝下に置こうと画策しだしたこと、それに対抗して五摂家も動かざるを得なくなったこと。
「ともかく鷹司信尚が貴方と結婚したい、と言い出したことから、これは絶好機と五摂家は考えるようになったの。信尚殿に正妻がいれば、今上陛下も皇女を降嫁させるとは言えなくなるから、それなのに貴方は愛妾で良いと言った。だからね、国際問題にしたのよ。そうすれば、今上陛下もこの縁談を止めろとは言えなくなるわ」
「流石は伯母上と褒めるべきでしょうね」
伯母と姪は毒を含んだやり取りをした。
「それから、後々のことがあるから、貴方は九条兼孝夫妻の養女として鷹司信尚と結婚することになっているから、その覚悟をしておいてね。摂家の養女となれば、更に今上陛下も皇女を降嫁させたいとは言いづらいでしょう。今のままだと貴方は平民の子だから、今上陛下に摂家当主は相応しい家格の娘を正妻にすべきだ、貴方を愛妾にしろ、と口を挟まれるかもしれない」
「確かに」
伯母の言葉に上里美子は同意せざるを得なかったが、皮肉を言わざるを得なかった。
「私は信尚様の叔母になって嫁ぐのですね」
「信尚殿の父の信房殿は義理の姪の輝子と結婚しているから、二代続けての叔姪婚になるわね」
姪の皮肉に伯母は更なる皮肉で返してきた。
(既述ですが、この世界では鷹司信房は、ローマ帝国陸軍参謀総長の佐々成政の娘の輝子と結婚しようとしましたが、家格等を指摘されて国際問題になりました。
それで、九条兼孝夫妻の養女に輝子はなって信房と結婚したのです)
上里美子は改めて想った。
鷹司信尚様の年下の叔母になって自分は結婚するのか。
伯母の口ぶりだと、両親もそれを承諾させられているし、他にも色々と根回し済みで私は従わざるを得ないのだろう。
それにしても、14歳の私の結婚が、それこそ今上陛下と五摂家の政争絡みになるとは。
何でこんな大事に私の結婚はなってしまっているのか。
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