エピローグ―5
5話目は主に上里清視点になります。
上里清は妻の理子と共に、娘の美子を始めとする子どもらの将来の事を主に考えます。
上里清は妻の理子と基本的に寄り添って、この祝いの場にいた。
というか、既婚の者は基本的に夫婦で寄り添って過ごし、お互いに挨拶をし、又、雑談をしている。
清は、義姉の織田美子と娘の上里美子の植民地に関する会話を聞いて想った。
義姉は冗談だというが、本音だな。
実際に自分のところにも、日系植民地では独立運動が徐々に広まりつつあるという情報が飛びこむようになっている。
更には、日本本国政府の一部も植民地の独立を認めようとする動きがあるとも。
この夏に反応兵器(原爆)の実験に成功したことから、反応兵器研究の規模(予算や人員)は縮小ということになった。
そして、上里清は反応兵器の開発に成功した功績から陸軍省軍務局長に栄転したのだ。
そうしたことから、日本の内外の情報が清の手に入る状況になっている。
その結果として、日系植民地の独立の動きの情報が清の下に入っているし。
又、女真族に対する工作を行い、対女真戦争から満州を明帝国から分離独立させ、日本の保護下にする動きが来春に迫っているのも、清は把握している。
清は無言で考えた。
上里美子は知らないだろうが、上里愛はこういった動きを知っているだろう。
何しろ伊達農水相の第二秘書を務めているし、愛自身も聡い。
断片的な情報が集まれば、それらから愛は推測してしまうだろう。
そして、そうなったら、自分はともかく、息子2人は軍人として満州に赴くことになるだろう。
その結果、武勲を挙げて帰国すれば良いが、運が悪ければ傷つき、最悪の場合は戦死もありえる。
北米独立戦争の際、
「息子一人で泣いては成らぬ、息子二人を亡くした方もある」
という戯れ歌が、国内で流れたと亡くなった父は言っていた。
「皇軍」の兵士達が伝えた歌で、「皇軍」が元居た世界で、ある戦争の際に将軍が息子二人全員を戦死させたことを知った庶民が、将軍の気持ちを思いやって作って流行らせた戯れ歌で、それがこちらに伝わったとのことだった。
幸か不幸か、北米独立戦争は困難な戦争だったとはいえ、兄弟や子ども全員が戦場に赴く事態にまでは至らず、それで家が絶えたということは無かった筈だが。
満州だけで戦争が済めばよいが、満州から中国本土やシベリアへと戦場を広げては泥沼化して、そういった事態が起こるやもしれぬ。
自分はそういったことが無いように務めねば。
先走り過ぎだ、と自分でも考えたが、そんなことまで清の頭の中ではそんな考えが浮かんだ。
そんなことを清が考えていると、理子が声を挙げた。
「幸家と完子が寄り添っているのを見ると、美子にもいい相手が見つかればいい、と思いませんか」
「うん。まあ、そうだな。だが、気が早くないか」
そう清が生返事をすると、理子が少し諫めるような声を挙げた。
「娘の同級生が事実上婚約しているのに、娘の婚約者を探して悪い訳が無いでしょう」
「確かにそう言われればそうだが」
「それに」
理子は悪いことを思いついたように言った。
「久我通前が、美子を姉にすると言ったのですから、使わせて貰わないと」
「まさか美子を入内させたいとでも言うのか」
「そこまでは言いませんが、義姉上のように久我家の一員として尚侍になってもいいのでは」
「止めてくれ。今上陛下の傍に仕える等、美子が絶対に嫌がるに決まっている」
「まあ、そうでしょうね」
そんなことを夫婦で言い交わしていると、上里愛がそれを聞いて声を掛けて来た。
「確かに美子が今上陛下の傍に仕えるのは想像しにくいですね」
「だろう」
清がそう返すと、愛は思わぬ返しをした。
「美子が14歳の頃には婚約がまとまる気がします。何しろあれだけの才色兼備ですから」
「うーん」
娘を想う実母の言葉に清は唸ってしまった。
これで第11部を完結します。
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