第67章―14
徳川完子と久我通前は、続いてイングランド王国やドイツ帝国及びその周辺を調べた。
「イングランド国王はエリザベス1世だけど、独身で当然に子どももおられないのね」
「色々と縁談はあったのだけど、私はイングランドと結婚しました、と言って独身を通されたとか」
「確かにイングランド王国と諸外国の関係を考えれば、それが正しいのかもしれないけど。やはり、結婚して子どもを作るように努めるべきだった、と私は考えるわ」
完子と通前はそんな会話を、小学生ということもあって交わした。
それを横で聞いた上里美子は、ふと想った。
実母の上里愛は、幼い頃に戦争の果てに親兄弟を殺されて奴隷になって、オスマン帝国のスルタン(=カリフ)に提供されたとか。
そして、愛は奴隷のままで実父の上里清に下賜されたことから、自分が産まれた。
実母は自らの結婚を夢見たことさえ無いのかもしれないのか。
勿論、今は奴隷ではなく自由になっているのだから、愛が誰かを好きになって結婚しても全く問題は無いし、自分の両親も愛がそうなっても構わないと考えているようだ。
だが、愛はもう30歳を過ぎたし、結婚は望まないと公言している。
美子は想った。
結婚して子どもを産んで、必ずしもそうする必要は無いよね。
そんな美子の想いを無視して、完子と通前のまとめは進んだ。
「イングランド王国は、今後はどうなるのかしら」
「スペインと並んで、イングランドは日本に懸命に学んで立憲君主国家になろうとしているとか。そして、内々にエリザベス1世の遠縁になるスコットランド国王ジェームズ6世を、エリザベス1世が崩御した後はイングランド国王に迎えて、大ブリテン島を一つにまとめようとしているらしいよ」
「それは凄いわね。ブリテンはその後にどうなっていくのかしら」
通前の言葉に、完子は夢見るような言葉を発した。
そんな会話を交わした後、完子と通前のまとめはドイツ帝国へと向かった。
「ドイツ帝国の以前の名称は、神聖ローマ帝国という名称だったのか」
「それなりの理由はあるようだけど、何で神聖ローマ帝国と名乗っていたのかしら」
「ローマ教皇からローマ皇帝に任命されたかららしいけど、ローマ皇帝の血縁者で無いのにローマ皇帝に任命されていいのかな」
完子と通前は、小学生ということもあって辛辣な言葉をドイツ帝国に浴びせた。
「現在のドイツ皇帝はルドルフ2世なのね」
「唯、色々な事情から精神的に病んでいるという噂が絶えないらしいよ」
「何で又」
「それこそローマ帝国が復興して、バルカン半島からイタリア半島等が、ローマ帝国領になったよね」
「その通りだけど」
「そして、ローマ帝国の軍事的脅威の前に、神聖ローマ帝国からドイツ帝国に帝国の名称を変えざるを得なくなったし、神聖ローマ帝国はローマ帝国のような専制君主制ではなく、皇帝といえど最有力の貴族の一人が選挙で選ばれるという状況だった」
「そんなの帝国でも何でもないじゃない」
「そんなことから、ルドルフ2世は皇帝で無いのに皇帝と自称している、と悪口を貴族から庶民にまで言われ続けて、精神的に病んでしまったらしいよ」
「酷いわねえ。自業自得なところもあるけど」
完子と通前は更に辛辣な言葉を浴びせて、まとめを作った。
美子は、それを横で聞いて想った。
確かに二人が言うのは間違っていないけれど、ドイツ帝国内部がカトリックとプロテスタントで割れていて、更にローマ帝国の脅威に陰に陽にさらされているのだ。
こういったことからすれば、真面目な君主程、精神的に病んで壊れてしまうのも無理はない。
勿論、ルドルフ2世が有能で無いのもあるのだろうけど。
美子自身もそんな冷たい想いをルドルフ2世にしていた。
例によって、上里美子は間違った事情から実母のことを考えていますが、真実を知らないということでお願いします。
ご感想等をお待ちしています。




