第67章―6
この際に余談に入ると、上里美子の考えは誤っているどころか、それなりに正しかった。
この当時のこの世界の明は、様々な物納や賦役による納税を行っていた唐中期以来の両税法から、全ての税金を銀納(史実で言えば一条鞭法)に一本化して移行する事態になっていた。
(この辺りの背景だが、それこそ物納と賦役を組み合わせた税制は極めて複雑としか言いようが無く、不公正な税金が横行する惨状になっていたことがある。
そのために明帝国内では多くの自作農が没落して、結果として大規模な土地を所有する地主層が増え、没落した自作農は良くて農奴、悪くすれば流民となってしまい、明帝国に大きな社会不安を引き起こして、叛乱の火種をまき散らしている現状があった。
そうしたことを防止しようと、明帝国内では税金の銀納化が進められることになったのだ)
だが、これは上手くいっているどころか、逆に問題を多発していた。
それこそ明帝国政府上層部による国民への苛斂誅求は急としか言えず、それこそ「飢餓輸出」や税金を納められない農奴が子どもを身売りして銀を得ようとする事態まで起きていた。
(尚、この自由研究を発表しようとしている完子や通前には、こういった事態は見えていない。
単に生活が苦しいから、身売りが多発していると考えるのが完子や通前には精一杯だった)
ともかく、本来的には物納と賦役の組み合わせから銀納へと税を切り替えるのは、明にとって妥当極まりない筈だったのだが、史実と異なってこの世界では銀が明から流出傾向にあった。
そのために税金の銀納化は却って、明の国内においては国民の貧富の差を拡大し、一部の農民の生活に至ってはますます苦しくなる事態を引き起こしていた。
又、そうしたことから、穀物等の輸出を納税の為に地主層は積極的に推進して、その結果として明国内の穀物不足が起きて、都市部では穀物価格が上昇する事態までも引き起こされていた。
こうしたことから。
「それにしても、都市部での暴動や小規模な農民叛乱まで数えると、毎年のように明帝国内では叛乱が起きるようになっているらしいわね」
「そこまでの状況なら、最悪の場合は明帝国は数年で崩壊しそうな気がするな」
「全くその通りね。日本や北米共和国の安定した状況と比較すると、明帝国は本当に色々とダメな状況に陥っている気がするわ」
そんな会話を、完子と通前、美子の3人は交わして、明に関する自由研究のまとめにした。
「この際に日本と微妙な関係にある琉球王国についても触れてまとめたら」
明に関する自由研究をまとめた後、美子はそう二人に示唆した。
「そういえばそうね」
そういって完子が同意して、通前も肯いて、琉球王国に関するまとめを二人は作った。
(この世界の)琉球王国だが、それこそ北は奄美諸島から、南西は台湾島、東は大東諸島までを領土としている。
未だに日本の属国という立場に琉球王国はあるが、最近は属国から完全な独立国としての地位を日本に求める運動が琉球王国全土で活発化しており、それに琉球国王までも賛同している現状だった。
それに対して、日本は琉球王国の統治体制が日本並みになっていない等の理屈をつけて、現状維持を主張しているのだが。
琉球王国もその辺りを踏まえて、憲法を発布して、又、これまでは琉球国王の任命で選ばれていた国会議員を、一部を国民の選挙で選ぶ方式に切り替える等、日本と同様に立憲君主制を持つ国家になろうと努力していた。
その辺りを改めて調べて認識した3人は改めて想った。
後、数年もすれば琉球王国は日本の属国から独立国に成れる気さえする。
この辺りを日本政府はどう考え、琉球王国の将来をどうしようと考えているのだろう。
ちょっと明の内部事情を詳しくし過ぎました。
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