第67章―5
とはいえ、こんな徳川完子と久我通前のやり取りを看過していては、それこそ時間が足りないのに夏休みの自由研究がサッパリ進まない事態が起きてしまう。
こうしたことから、上里美子は二人の会話に介入することを決めた。
「まあまあ、二人が言いたいことは分かるけど、明の現状について、取りあえずは話し合わない」
そう美子が口を挟むと、完子と通前も話がズレているのに気が付いたのか、我に返ったようにまとめをさらに作ろうとし出した。
「結局のところ、明が日本の様々な技術、蒸気機関や様々な武器等を入手しようとしないのは、中華思想の悪影響からということになるのかしら」
「そうとしか、言いようがない気が自分はする。多分、中華思想から日本に対して頭を下げるのを感情的に拒否しているのだろう」
「そうね。本来ならば日本に対して頭を下げてでも、という考えに現状から明政府の上層部等が成ってもおかしくない気がするのに、そんな気配はないものね」
完子の言葉に、通前が同意の言葉を発し、美子はさらに後押しをした。
「それにしても、何で現実が明政府の上層部が見えないのかしら」
完子が首を捻るようにしながら言うと、通前が言った。
「そうはいっても、明政府の上層部は北京にいるからな。明の沿岸部で跳梁する倭寇の武装の実際が見えることは無いのだろう」
「その通りだと思うわ。私の親戚もそう言っているもの」
美子もそれに口添えした。
さて、何で美子がそんなことを言えるのかと言えば、半ば自明の理だが美子が倭寇の大頭目の一人だった張敬修の曾孫であり、そのつながりから倭寇の主なメンバーとは上里家が未だにつながっているという事情からだった。
そういうと日本の軍人が倭寇とつながってよいのか、と非難が沸き起こりそうだが。
この1600年頃の倭寇の主力は、かつてとは様変わりしていた。
かつては完全に密輸等に従事している犯罪者と言って良かったが、1600年現在における倭寇は公式には明と外国(具体的には主に日本と)の貿易が許可されていないから、その代わりに明と外国との貿易を行っている存在になっているといえた。
だから、上里清が実母の縁から倭寇の頭目と会っても、基本的に問題視されない現状が起きていた。
(勿論、一皮むけば公式貿易が認められていないことを言い訳にして、アヘン系麻薬等の密輸もやる不良倭寇が少数ながらいるのが現実だったが。
そういった面々は、日本政府が禁輸している品々を密輸しているとして、日本政府によって取り締まられている現実があったのだ)
「ともかくそうした現実から、明は倭寇を介して穀物等を輸出しているけど、そのことは明国内の穀物の高騰を生んで、都市住民の生活を直撃している。その一方、農民はそれによって生活を何とか維持して、税金を納めている」
「明は農民保護の観点から、それこそ税金は銀納に一本化して切り替えたからね。都市住民の多くが食料品の値上げに苦しむようになったようだよ」
「本当にあちらを立てれば、こちらが立たないのね」
完子と通前は更なる会話を交わした。
その言葉を横で聞きながら、美子は考えた。
日本の絹は様々な面で明の絹を圧倒しており、明の絹産業は壊滅状態らしい。
とはいえ、納税の関係から銀が必要不可欠(その理由は皇帝の奢侈のためらしいが)なので、銀を獲得しようと絹の代わりに穀物等の輸出に明は励むようになっているとか。
だが、その代わりに都市住民の食費は年々上がりつつあり、都市住民の貧窮化が激しくなっているとも聞いている。
このままいけば、明の大都市では暴動が相次いで起きるようになってもおかしくない気がする。
その後だけど王朝交代にまでなるかもしれないな。
話の中で描くべきなのですが、どうにも上手く描けなかったので、ここで補足します。
従前でしたら、絹等の現物支給を換金して、それで明の官僚は生活していました。
しかし、日本の絹織物産業革命(?)により、絹の価値が明内部で暴落する等の事態が起きた結果、銀で俸給の支払をする事態に明は陥り、税の銀納をこの世界では行う事態になっています。
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