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第9章ー5

 そんな風に永賢尼は想っていたが、相手の織田信長の方は、永賢尼の前を去った後、控えの間として当てられた小部屋において、ある意味、本性をさらけ出していた。


「これで良かったか。爺」

「御意」

 信長の問いに、平手政秀は答えた後で続けた。

「私の目からも、永賢尼様は信長殿を評価されたように見えました。インド株式会社に採用の口利きをしてくださるのは間違いないかと」


「ふん」

 織田信長は、鼻を鳴らした後で考えた。

 自分としては陸軍に入りたかったのだが、止むを得ないか。

 何で権六(柴田勝家)が、陸軍に入れて、俺は入れないのだ。


 皇軍の到来によってもたらされた、いわゆる天文維新の後、地方において日本の官僚層を主に担ったのは、国人衆階層の面々だった。

 これはある意味では当然の話で、戦国時代においては実際に地方を統治していたのは国人衆のことが多かったからである。

 そして、天文維新後は国人衆の多くが時世の流れを読んで、いわゆる地方統治の官僚化の路(また、一部は中央官僚への路)を歩んだのだが。

 そうは言っても、戦国の空気を吸っていたのに、いきなり和平を押し付けられたことに、内心では満足できない国人衆は稀どころか各所に溢れていた。


 それこそ、第1部で登場した立花道雪(戸次鑑連)や鬼庭良直が好例と言ってよい。

 そう言った面々は、陸軍や海軍の軍人を目指したり、海外に新天地を求めたりしようとしたのだ。

 織田信長も、そういった官僚化を拒んだ一人と言えたが。


 平手政秀は、(内心で)背中に流れる汗を拭きながら考えざるを得なかった。

 戦乱の世ならば。このお方はそれこそ天下に名を広められたかもしれないが、平和なこの世では、日ノ本に収まる方では無さそうだ。

 だからこそ、皇軍の面々にまで警戒され、陸軍に入れなかったという噂が流れるのだろう。

 その一方で、尾張の大うつけ、とそれこそ面と呼ぶ者までおられるのも無理はない。

 何しろ、傅役としてこの方には、成長されるまで苦労させられたからな。


 そんなことを政秀が考えていると、信長は急に口調を変えていった。

「それにしても、本来なら親父殿がここに来られれば良かったのにな。あの料理を味わせたかったものよ」

「全くですな」

「あの料理は辛いが、漢方薬が大量に入っていると聞いた。あの料理を親父殿が食べられれば、少しは体調が良くなるのでは、と思うとな」

「誠にその通りですな」

 その口調に、父に対する真率の想いが溢れているのが分かった政秀は、それに寄り添った。


 信長は、父の信秀と仲が良い。

 その父は今は病の床に就きがちで、寝たり起きたりの日々が続いている。

 本来なら、今回の濃尾三川の改修工事にも、多大な資金援助等をしている以上、信秀が出るべきだったのだが、そんな体調から父の名代として信長が出席することになったのだ。

 そして、先程の席で永賢尼が作らせた香辛料入りの汁物を飲んで信長は驚いたが、その効能を聞いて更に驚いたという次第だった。


「それにしても、あの尼僧、異国の者というのは真か」

「はい、異国の方なのは間違いありません」

「それが何故にあのような立場になった。しかも、最近、本願寺の尼僧になったばかりとも聞くが」

「さて、そこまでは、詳細を調べかねておりますが」

 政秀は、織田家の対外折衝をほぼ担っていて、その中にはいわゆる情報収集任務も含まれるが。

 幾ら優秀でも限度がある。

 永賢尼、元はプリチャが日本に来て本願寺で尼僧になった経緯までの詳細を、政秀は掴めてはいなかった。


「まあ、いい」

 信長はそう言って、先程の汁物の味に思いを馳せた。

 異国の産物と聞いてはいたが、思ったより香り、辛みが強いのには驚いた。

 あんな物が世界にはあるのだな。

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