第2章ー2
だが、第48師団がマニラ、ルソンに残されるのは、もう一つ理由があった。
それは、ルソン島の農業等の近代化、植民地化を進めるのに、第48師団の将兵がもっとも向いている、とこの場にいる将官の多くに考えられたからでもあった。
何故か、といえば、第48師団の主力をなす将兵は、台湾出身者が多かったからである。
というか、第48師団は、台湾第1歩兵連隊や台湾歩兵第2連隊等、台湾で編制された部隊が主力だった。
そうした事情から、台湾と気候が似ているルソン島の植民地化という任務を、第48師団は背負うことになったのだ。
更にこれは、万が一の保険といった側面もある。
日本があるらしい、ことは分かったが、本当に史実通りの日本なのかは、全く不明なのだ。
マニラ、ルソンの現状からして、史実通りの過去に戻っている可能性は高いと思料されたが、もしかすると天皇陛下のいない日本が、この世界では成立している可能性も無いとは言い切れないのだ。
その場合、竹田宮恒徳王殿下(参謀本部から派遣され、第14軍附の宮田陸軍少佐として従軍していた)を新たな天皇陛下として仰ぎ奉ることさえ、山下奉文陸軍中将らは、内心で検討する有様だった。
そうした場合、ルソン島を根拠地とし、マニラを臨時の首都とした上で、祖国日本を正しい姿に導く軍事行動を展開しよう、と山下中将らは考えていたのだ。
そのための準備のためにも、第48師団はルソン経略、植民地化を進める必要があった。
そうした思惑がうごめく一方で。
「取りあえずは、我が第16師団が沖縄、琉球を確保することになるのですか」
「正確に言えば、その一部により、沖縄本島を確保するものになるが、やむを得ないだろうな」
第16師団長の森岡皐中将が、半ば諦念を込めて言い、山下中将もそれに同意する発言をした。
というのも。
「我が近衛師団が京都に進撃し、天皇陛下の御宸襟を安んじ奉るのが当然である」
「我が第18師団にしても、「菊兵団」の名に掛けて、天皇陛下の為に身を捧げる所存」
武藤章近衛師団長と、牟田口廉也第18師団長が競うように、周囲に喚いている以上、本土回復はこの両師団を先鋒にせざるを得ない。
となると、残る唯一の師団である第16師団の活躍の場となると、沖縄、琉球しかなかった。
とはいえ。
「マニラの住民複数の話を信じるならばだが、沖縄本島を抑えているのは、史実通りの琉球王国だ。更に言うならば、史実通り、尚清王が在位しているらしい。だから、歩兵1個連隊を送れば、琉球王国は日本の領土になることに同意するだろう」
「確かに歩兵1個連隊があれば、史実通りの琉球王国の戦力からして、日本の領土になるでしょうが」
山下中将と森岡中将は、そんなやり取りをした。
「念のために、「妙高」と「那智」及び1個駆逐隊を支援につける」
森岡中将の気を軽くするために、近藤信竹中将が山下中将に加勢した。
史実で17世紀に行われた薩摩藩対琉球王国の戦例からいって、それだけの戦力があれば、琉球王国は圧倒できる筈だが、森岡中将としては、万が一に備え、全師団を率いて沖縄に向かいたかった。
だが、燃料が乏しい現在、少しでも燃料を倹約せねばならない。
そう言った事情から、沖縄、琉球に向かう戦力は歩兵1個連隊に限られることになったのだ。
そして、沖縄で日本本土の情報を収集した上で、日本本土に第18師団と近衛師団が向かうのだ。
日本本土制圧となると、少しでも多くの戦力を運びたいが、燃料事情が懸念される以上、それだけの戦力を海輸するのが、精一杯だろう。
後は、ブルネイのセリア油田に、史実通りの産油量を発揮できるだけの埋蔵量があることを祈念せねばならない有様だったのだ。
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