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第63章―5

 他にも色々とやり取りがあった暫く後で、徳川家を上里愛と美子は辞去することになった。

「序でに泊まっていかれても」

とそれこそ家康や小督、完子らにまで、愛や美子は誘われたのだが。

 望月千代子らの監視の目、更には愛の立場もあって、

「既に宿を予約済みですから」

と誘いを固辞して、愛と美子は徳川家の近くの宿に泊まった。


 そして、二人は宿に入った後でよもやま話をした。

「姉さん。(久我)通前のお父さんとお兄さんは、徳川家のみならず、武田家からも色々と援助があるので、それなりに裕福に暮らしているって」

「それは良かったわね」

 美子の言葉に、愛は答えながら考えざるを得なかった。


 久我家は足利家が豪州等に追放された後、源氏長者に改めて当主が就任するようになっている。

 そのために源氏の一族である徳川家と武田家から、久我通前の父の敦通や兄の通世は敬われており、様々な援助が行われているのだろう。


 その一方で、美子と当たり障りのない話をしながら、愛は別のことも考えてしまった。

 徳川家康が言っていた。

「もし、30年近く前に今のような飛行機があれば、こんなことになっていなかった気がします。今では日本本国に留学している孫娘が、夏休みに帰省してここで過ごせる。それこそ自分は太平洋を帆船で何か月も掛けて渡った身です。その頃までも考えると本当に」

「そうですね」

 自分はそれ以上のことが、どうにもその場では言えなかった。


 考えてみれば、今ではそれこそ太平洋横断でさえも時間単位で考えられる時代だが。

 家康らは数か月掛けて、帆船で太平洋を横断したのだ。

 その経験も相まって、あの北米独立戦争の頃に遠く離れている日本本国では、自分達の想いが全く届かない、と考えて独立戦争にまで至ったのではないだろうか。

 独立戦争が勃発した際には汽船の性能もかなり向上していたが、それでも週単位で太平洋を横断していた筈だ。

 その距離と時間が北米独立戦争を引き起こした、と家康が言うのも当然の気がする。


 もし、今のように時間単位で太平洋を横断できるようになっていたら、それこそ織田信長首相と徳川家康が直に会談して、ギリギリで独立戦争という最悪の事態は避けられたかもしれない。

 でも、あの頃は余りにも日本本国と北米は遠くて、直に会談する等は夢物語だった。

 電報でやり取りできるといっても、それこそ文面で全ての意が通じ合える等は無いことだ。

 だから、直に会談するのが重要なのだが、あの時には。


 最も織田美子と武田和子の例から言って、逆効果になったかもしれない、と言われればその通りかもしれないけど。

 聡い愛は、そんないらないことまでが、頭の中で過ぎった。


 それにしても、小督さんも大変なようだ。

 何だかんだ言っても、男の跡取りを産めというプレッシャーが妻に掛かるのはよくあることで、それこそ松平信康夫妻がそれで離婚寸前にまで至った、と噂で聞いたことがあるが。

 徳川秀忠夫妻も同様で、更に家康はそれを口実に女漁りを止めないのだろう。

 秀忠に息子がいなければ、秀忠の弟に徳川家を継がせる必要があるとか、言い訳している気が。


 今日、逢って直に小督と話をした際に自分も認識したが、織田美子や伊達政宗が言ったように、小督は極めて気が強い女性だ。

 そんな小督にしてみれば、娘ばかり産まれるというのは、子どもが産まれないよりもつらい事態を引き起こしており、更に周囲の様々な行動が苛立ちを引き起こしているのだろう。


 愛はある意味では、そういった跡取り問題とは無関係に娘がいる身である。

 そうしたことから、小督の問題については、そんな感じで透徹して見ることができていた。


 そうこうしていると夜が更けた。

 愛と美子は眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  皇軍のもたらした科学技術で世界の距離は縮んだように感じられながらも「お家大事」の意識は数世代では拭えないもんだよなーとわかり味の深い小督さんの苛立ち、まあ秀忠さん(旦那)にお妾さんを許し…
[良い点] やっぱり対面で直に会談するのが重要との意見に同意。 そう言えば、ゼレンスキーさんも急遽、G7に対面で参加。 北原もコロナ渦でオンラインのまだるっこしさに困って痛感しましたよ。 [気になる点…
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