第63章―1 上里愛と上里美子の北米旅行
8月初め、上里美子は姉の上里愛との夏休みを利用した北米への旅行に出発していた。
そして、二人が乗る最新鋭のレシプロ旅客機(DC-6相当)は与圧仕様の客室になっており、それこそ地上とそう変わらない気圧での旅が可能になっていて美子を喜ばせた。
上里美子は姉と話をした。
「昔の旅客機だと、高空になると薄い空気で苦労したというのは本当なの、姉さん」
「本当よ。私も経験したことまでは無いけどね」
愛は即答した。
姉と言っても愛は美子の産みの母であって22歳の年の差があるので、実際にそうなのだが母子が会話しているようにしか見えない。
だから、客室乗務員達も、この二人については微妙な態度を執っている。
姉さんと呼ぶ以上は異母姉妹なのだろう、実際によく似ているし、搭乗者名簿を見ると苗字も同じだし、と考えるのが大勢だが、そうはいっても何となく違和感を覚え、母子なのかも、でもそれなら何故に姉さんと呼ぶのか、と思考の迷路に陥ってしまい、つい、微妙な態度を執っている。
美子は小学生なので気が付いていないが、愛は内心で客室乗務員の態度に何とも言えない感じがしてならなかった。
それはさておき、愛は妹の美子に忠告しつつ、今後の予定の確認も兼ねて言った。
「ともかくアンカレッジ経由でワシントンまで飛ぶけど、飛行機の中ではできる限り寝ておきなさい。時差というがあって、ワシントンに着いてから色々とつらいことになりかねないから」
「はーい。ワシントンに着いたら、まずは伯母さん達に挨拶するのよね」
「そうよ。北米にいる間は、色々とお世話になるのだから」
「分かってまーす。後、夏休みを利用して帰省している完子さんにも会えるのよね」
「そうよ」
「とっても楽しみ」
愛は、自分からは敢えて具体名を挙げないように注意していた。
下手に具体名を挙げられない面々ばかりだからだ。
何しろ美子は気軽に伯母さん達と言っているが、その伯母さんというのは武田和子であり、北米共和国の現大統領の武田信光の一家と自分達はまずは逢うのだ。
その後は、完子こと徳川完子、つまり北米共和国の前大統領の徳川家康の一家(完子は家康の孫娘)とも自分達は逢う予定になっているのだ。
美子にも、相手の苗字は絶対に言わないように注意している。
(とはいえ、美子にしてみれば、苗字を言うことは殆どないので特に注意することでもなかったが)
そして、愛は衆議院議員伊達政宗の第二秘書であり、陸軍少将上里清の家族でもあることから、この訪問先の関係上、色々なところに予め訪米する旨を届け出る羽目になった。
こんなに面倒ならば、美子に北米共和国に連れて行くと約束するのではなかった、と愛は一時、内心でぼやいた程だ。
愛は美子とのやり取りをしつつ、そんなことまで頭の中で思い出していた。
「リョコウバトの群れとか、どこまで見られるかな。そういえば、帰りがけにはミカドカイギュウを見られるのよね」
「そうね」
更に美子は無邪気に言ったが、聡い愛は傍にいた客室乗務員が顔色を変え、他の客室乗務員に目配せしたのに気付いた。
失敗した。
ミカドカイギュウはベーリング島周辺にいる。
そして、ベーリング島は許可無くして一般人が入れる所ではないのだ。
上里という姓はそれなりにあるが、ベーリング島に入れる子どもとなると限られてくる。
愛は素早く頭を回転させて、美子を黙らせることにした。
「ともかく目をつぶって、静かにしなさい。先は長いのよ」
「はーい」
愛は美子に少し強めに言い、美子は愛の態度で気づくところがあったのだろう、大人しく返事をして、目をつぶった。
愛は考えた。
あくまでも一般の旅行と考えていたが、これは色々と気を遣う旅行になりそうだ。
この世界でベーリング島に一般人が入れない理由については、追って描きます。
(尚、ミカドカイギュウの為ではありません)
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