第62章―12
(この世界の)加藤清正と福島正則は共にローマ帝国在住の日系人の常として、東方正教徒になっている。
だから、東方正教徒(というより、この時代のキリスト教徒ほぼ全体)にとって火葬が如何に忌み嫌われるものかを熟知している。
(それ故にマリナ・ムニシュフヴナは、処刑者の火葬は止めて欲しい、と浅井亮政に頼んだのだ)
遺体を火葬にされては死後に復活して天国に赴くことは不可能になる、と東方正教、いやキリスト教ほぼ全体が説いている以上、捕虜になって処刑されて火葬にされるくらいならば、ここで死んで土葬にされた方が遥かにマシだ、とモスクワ大公国の貴族(そのほとんどが当然に東方正教徒)の捕虜の多くが考えるのは当然のことだった。
「それで、どうすべきだというのだ」
福島正則とて、結論が分かっていて口に出したくないことがある。
だが、結論が分かっていても口に出さざるを得ないことが、時としてあるのも事実だった。
「そういう希望を出した捕虜については」
加藤清正はそこまで言った後で暫く沈黙した。
実際、加藤清正にしても口に出したくないのだ。
だが、口に出さざるを得ない現実だった。
「その捕虜を安楽死させるべきだと私は考える。勅命無視だとして、何らかの罪科に問われるかもしれない。だが一人の良きキリスト教徒(東方正教徒)として、自分としてはそうせざるを得ない。そうすればその死者を戦死者として土に還らせる(土葬する)ことができるのだから」
「確かにそうだな」
加藤清正の言葉の裏に様々な苦悩があるのを察した福島正則はそれ以上は言わなかった。
福島正則は暫く沈黙した後で、口を開いた。
「捕虜の希望を重視するように、自分は部下にいうつもりだ。一人の良きキリスト教徒として、自殺をほう助するに等しく、神の前で色々と言われるかもしれない。だが、自分も自らの良心からして、遺体が火葬になるよりは、として捕虜が希望することを止めることはできない」
「自分も同じことをするつもりだ」
福島正則の言葉を聞いて、加藤清正はそれだけを言った。
お互いに自分の言った言葉の重みを痛感していた。
最悪の場合、捕虜を虐殺したという冤罪を被るかもしれないことなのだ。
それこそ自分が希望したことだと証言してくれる捕虜は死んでいるのだから。
だが、その一方で、人間としての何か、良心がそうすべきだとささやいていた。
そして、それに逆らえるかと言うと。
人間としての何かを守るために、加藤清正と福島正則はそう決断せざるを得なかった。
加藤清正と福島正則は、それ以上は何も言わずにお互いの指揮する部隊の下へと向かった。
かくしてモスクワを目指すローマ帝国軍の部隊は、貴族や上級聖職者の捕虜について希望を聞いた上で安楽死させては、遺体を土葬にする事態が多発することになった。
(戦死した遺体については、遺体処理の現実等から土葬が行われていたのだ)
とはいえ、それを公言しては勅命に反することになる。
それ故にあくまでも捕虜となった時点で重傷を負っており、救命措置が及ばなかったとして表面上は処理することが多発した。
だが、この現実がどのように事情を知らない周囲から見えるかと言うと。
ローマ帝国軍は貴族や上級聖職者を捕虜にしたとき問答無用で殺していると見られることになった。
貴族や上級聖職者は、その内情がある程度は分かっているので裏の事情を察したが、多くの住民はそこまでのことが分からなかった。
(貴族や上級聖職者にしてみれば、戦死扱いならば土葬されるのであり、それをせめてもの救いだと考えたのだ)
こうした事態が起きたことから、更にモスクワ大公国の住民の多くが、ローマ帝国軍に恐怖を覚えることになったのだ。
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