第62章―11
こういったスモレンスク及びその周辺で起きた状況、更にそれによって生じた噂が、最大の影響を及ぼしたのは言うまでもなくモスクワ大公国内だった。
モスクワ大公国内の貴族当主や上級聖職者達は、どうせ殺されて火葬にされるならば、と壮絶な覚悟を固めることになったのだ。
更に言えば、こういった噂の常として、実際にローマ帝国軍が進撃するよりも先に噂が伝わることが当然のように起こった。
(現実世界でも、噂の広がりと言うのは極めて広く早いのが常でした。
それこそ村から村への伝聞と言う形で、それこそ丸1日で100キロ伝わるのも、古今東西でよくあることだった、と言われても過言では無いことなのです)
そうしたことから、モスクワ大公国の貴族当主や上級聖職者達の親戚になる女性や子ども達までもが積極的に武器を取って、ローマ帝国軍に対して武装抵抗する事態が起きた。
女性や子ども達にしてみれば、どうせ殺されて火葬にされて、天国に赴けないのならば、という絶望感から起こした行動だったが、却ってこの事は更なる事態を招来することになった。
「言葉は悪いが、戦場掃除は色々な意味で気が重いな」
「全くだな。更に言えば、こういったことをしない訳には行かない。しなければ、それこそ伝染病を引き起こす等の大問題につながってしまう」
加藤清正と福島正則は、そんな会話を交わしていた。
スモレンスクからモスクワまでは約500キロ、順調に進撃すれば1月以下で進撃可能な距離ではあるが、現実問題としてはそんなことは不可能な話で、加藤清正と福島正則は指揮下の部隊を縦横に活躍させることで、徐々に1日に10キロ余りを進撃していくしかない現状に陥っている。
そして、進撃するにつれて、敵兵と交戦した後、その戦場を確保するものの遺棄された様々なモノを何とかしなければならないことが多発している。
この何とかすることを戦場掃除と基本的にいうのだが、言葉は悪いが将兵にしてみれば、極めて気が重いでは済まない代物になる。
何しろ、遺体や排泄物等、臭くて触りたくない代物が大量に残るのが常なのだ。
かといって、そのままで捨て置いては伝染病の巣窟になる等、却って自分達に酷い事態を招来するのが当然のことになる。
だから、多くの将兵としては不承不承の想いをしつつ、やるしかない仕事になるのだ。
(尚、この当時の史実世界では、こういった「戦場掃除」は住民がやるのが常だったようです。
住民にしてみれば、言葉は悪いですが自らの土地を荒らした兵の遺体等からモノを奪うことで自らの損害を穴埋めしようとするためだったとか。
ですが、この世界は「皇軍」がもたらした知識によって、遺体等をそのままにしては伝染病発生の遠因となって問題が生じる等の理由から、勝った側が「戦場掃除」を行うことが増えていました)
「それでだ」
加藤清正は深刻な顔をして言った。
「何か問題が起こったのか」
福島正則は癇に障るモノを覚えながら言った。
「捕虜から殺してくれ、戦場で死んだことにしてくれ、という例が多発している。捕虜を殺すつもりはない、と言って聞かせると、自分は貴族の子弟だ、どうせ処刑されて火葬にされるなら、戦死したことにして土葬にして欲しい、と頼んでくるそうだ」
「何だと」
加藤清正の言葉に、福島正則はそれ以上の言葉が出なかった。
「実際にスモレンスクに貴族の捕虜を送ったら、処刑されて火葬にされているらしい」
二人きりなのに、更に加藤清正は声を潜めて、福島正則に耳打ちするように言った。
福島正則はどうにも声が出なかった。
エウドキヤが苛烈な性格なのを知ってはいたが、本当にそこまでの事態が起きているとは、お互いに沈黙するしかなかった。
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