第62章―9
さて、描写が前後してしまうが、モスクワ大公国への進撃開始直前に女帝エウドキヤと浅井亮政はキエフで膝詰めで話し合っていた。
尚、その場には上里勝利と藤堂高虎も同席していた。
その話し合いの内容だが。
「モスクワ大公国の貴族の当主及び上級聖職者については全員を処刑することを命じます。尚、財産は全て国庫に没収します。尚、貴族の当主以外の家族については、我々に武器を取ったかどうか等で刑の内容を考慮することにして、私が最終判断を下します」
「その処刑の理由は。それなりに国内外が納得する理由にせねば問題が起きる」
「東西教会の権威を全面否定したこと、正嫡な継承者であるエウドキヤ陛下がモスクワ大公に即位するのを阻んだこと。この二つの理由では足りませんか。尚、ローマ教皇庁からも、コンスタンティノープル総主教やキエフ総主教からも、彼らは全員破門するとの書面を取り付け済みです。ローマ教皇庁に対しては、フランスやスペインまでもが動いてくれました」
夫婦のやり取りに、上里勝利が口を挟んだ。
浅井亮政は、上里勝利に尋ねた。
「何故にフランスやスペインまでが動いたのだ」
「モスクワ大公国の全国会議が、女帝エウドキヤは偽者だと言った。ローマ教皇庁には偽者に騙される愚か者が揃っている、とまで全国会議の参加者は言ったという話を、ロマ等を通じて流したところ、フランスやスペインを始めとするカトリック信徒が激怒しまして、フランスやスペイン政府は彼らに突き上げられて、ローマ教皇庁を動かしてくれました」
「成程な。それ以上は聞かぬ方が良さそうだ」
上里勝利の答えに、浅井亮政はそう言って済ませた。
浅井亮政は内心で考えた。
両国のカトリック信徒は上手く踊らされたのだ。
そして、カトリック信徒が動いた以上、ローマ帝国の手は表面上は汚れずに済んだという訳か。
「ところで、処刑の方法はどうするのだ。後、遺体の処理は」
浅井亮政は敢えて事務的に聞いた。
かつて、兄フョードル1世の崩御後、妻がモスクワ大公に即位するのが当然なのに、モスクワ大公国の全国会議が否定したのを妻が聞いて激怒した時を思い起こすと、かなり酷いことになりそうだ。
「貴族として名誉ある斬首刑とします。死に疑問が生じないように、ギロチンによる公開処刑とします。尚、その遺体は火葬にして、遺灰は川に流します。破門者である以上は当然です」
「それはまた」
妻の淡々たる口調に、夫はそれ以上は言わなかった。
こんなことをしては、イヴァン雷帝の血を承けた娘であると疑う者は一人も出まい。
いや、イヴァン雷帝の娘以外にそんな女性はいないという風聞まで付け加わりそうだ。
浅井亮政は内心でそう考えた。
「ギロチンは準備されているのですか」
浅井亮政は声を挙げて確認した。
ギロチン、この世界では皇軍がもたらした処刑用具になる。
欧州から日本に留学した留学生達がギロチンを知って、それが多くの欧州諸国で導入されたのだ。
これまでは斧等を使って斬首刑が行われていたが、処刑人の腕によって一撃という訳には行かず、処刑される者を苦しめることが多発していたからだ。
だが、ギロチンによってそのようなことが無くなるとして、欧州諸国で急速に普及しているが、ここにあるのだろうか。
「組立式ギロチンを5台程、フランスから輸入しました。取り敢えずは足りるでしょう」
エウドキヤは即答した。
取り敢えずは、と言う部分に浅井亮政は恐怖を覚えた。
エウドキヤは、モスクワ大公国の貴族の当主や上級聖職者どころか、その家族の大部分を処刑するつもりだ。
「分かった」
浅井亮政は、諦めを込めてそれ以上は言うのを止めた。
尚、上里勝利や藤堂高虎も沈黙するしかなかった。
少し補足、ローマ帝国内でもギロチンは製造されていますが、何故にわざわざフランスから輸入したかというと、輸入したという事実を広めることで中西欧諸国の住民にローマ帝国への恐怖を広めるためです。
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