第61章―8
ともかくそういった背景、裏事情から将来のローマ帝国大宰相として真に相応しいかの最終試験として、上里勝利は藤堂高虎に森成利(蘭丸)と協力してローマ帝国皇太子であるユスティニアヌス(秀政)の結婚相手を、ポーランド=リトアニア共和国の大貴族の仲から探すように命じた。
その命令を受けて、藤堂高虎は森成利と協議したが、本当に色々と頭を痛めることになった。
「誰が良いというか、どんな家から求めることにしますか」
「うーむ」
森成利の問いかけに、藤堂高虎は頭を痛めながら答えざるを得なかった。
それこそこの皇太子殿下の結婚は、政略結婚なのが決まっている。
だから、極論を言えば、それこそ結婚さえすれば、後は夫婦仲が不仲で、子どもができなくとも問題ないという暴論さえ通る。
(註、浅井亮政とエウドキヤの間には複数の子がいるし、更に言えば、エウドキヤはともかく、浅井亮政の兄弟姉妹、例えば妹になる茶々は夫の上里秀勝との間に子どもが複数産まれている。
勿論、茶々の子は、エウドキヤと血が繋がっていない以上、ローマ皇帝になるのに相応しくないと言われても仕方ないが、それでも全くの無縁ではない以上、エウドキヤに孫ができなければ、茶々の子にローマ皇帝位が回ってくる可能性が絶無とまでは、かつてのローマ帝国の帝位継承の歴史からいって、否定できないのが現実だったのだ)
だから、政治的現実だけを考えて、ポーランド=リトアニア共和国の大貴族の面々の様々な背景事情が調査された資料を、藤堂高虎は熟読して判断すれば良いのだが。
それはそれで、却って藤堂高虎が目移りする事態が起きていた。
考えれば考える程、利点と欠点、それぞれが目に入ってしまい、却って決断ができない。
むしろ、皇太子殿下と集団見合いをさせて、それで、意気投合した相手と結婚させた方が良いような気さえ、自分にはしてくる。
もっともそんな集団見合い等ができる筈も無いし、そんな考えで提言をしては、却って大宰相の上里勝利の不興を買うだろう。
そんなこんなを考えながら、資料を読み込んでいる内に、藤堂高虎はある噂話に目を止めた。
「モスクワ大公国の皇子ドミトリーが生きている。更にはポーランド=リトアニア共和国内に亡命していて、祖国に還ってモスクワ大公に即位しようとしているとか」
細かいことに、その噂話の出所らしきところまでその資料(ロマが聞きこんできたところまでは書いてあったが、情報源秘匿の為に藤堂高虎が読む段階では具体名が省かれている)には書かれていた。
それによれば、ポーランド=リトアニア共和国が現実にはバラバラに近いのは国内外で公知の事実と言って良い話(だからこそ、先年のローマ帝国とポーランド=リトアニア共和国のウクライナを巡る戦争において、スウェーデンを警戒する必要があると言う理由を付けて、ポーランド国王はウクライナに親征せず、傍観しているといってもよい態度を執ったのだ)だが、この噂話はウクライナの失陥をモスクワ方面で取り返そうという、ポーランド=リトアニア共和国内の対外強硬派の策謀が背景にあるとのことだった。
更には、その対外強硬派の具体名までが資料には挙げられていた。
それを読むうちに藤堂高虎には奇策と言われても当然の考えが思い浮かんだ。
「ポーランド=リトアニア共和国の対モスクワ大公国強硬派、具体的には偽ドミトリーを擁立、モスクワ大公に即位させようとしている面々の分断を図るか」
藤堂高虎は思わず自分の考えを口走った。
「そんなことができるのですか」
森成利は疑問を呈した。
「不可能なことを可能にするのが、真の忠臣なのだ」
無茶苦茶といえば無茶苦茶だが、藤堂高虎はそこまでいった。
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