第56章―4
さて、姉や兄がそのようなことを反応兵器の研究開発について考えていること等を全く知ることは無く、上里清は陸軍大佐に昇任して、更に秘匿名称として三号研究と名付けられた反応兵器研究に携わることになった。
「やれやれ40歳代半ばになって、物理学の勉強を改めてやる羽目になるとは」
上里清はそう内心でぼやきながら、核分裂や核融合の反応をまずは勉強した。
実際の開発研究は、それこそ専門の科学者が主にやるとはいえ、反応兵器の原理等について担当者が全く知りませんでは、役目は務まらないからだ。
更に言えば、反応兵器の開発研究は陸海軍が一体となって協力して行うことになっている。
海軍からは、織田信忠中佐等が担当者として出向してきていたが、織田中佐にしても上里大佐と同様に兵科士官であって技術士官ではない。
そうしたことから、義理の叔父甥は溜息を吐きながら、核物理学についてのにわか勉強に共に励むことになってしまった。
そして、今日も今日とて、義理の叔父甥は実務の合間に行われる核物理学についての勉強会に参加しており、その後に都合をつけて二人で顔を合わせていた。
「お前も大変だな。40歳になって核物理学の勉強をすることになるとはな」
「それを言えば、叔父さんの方が大変でしょう」
「まあな。44歳になって核物理学の勉強をすることになった」
(註、上里清は1551年生、織田信忠は1555年生である)
「それにしても、間に子どもまで生まれた愛人を義理の娘にして、実の母娘を義理の姉妹にするとは人でなしの所業です。そういったことからすれば、こういった非人道的な兵器の開発に携わることになったのは、叔父さんの素行のせいでしょうね」
「皮肉がきついな。本当に姉上の子だな。いや、義兄上も言葉がきついから、両方の影響か」
「否定はしませんよ。両親が夫婦喧嘩を始めたら、凄まじい口論になりますからね。あそこまでの口論をずっと聞かされて育っては」
「そんなに夫婦喧嘩をしていたのか」
「いえいえ、滅多にしていません。だからこそ、色々と口論の材料が積もり積もるのでしょう。夫婦喧嘩を始めたら、最低1時間は激論を夫婦でしていました。よく父が手を出さなかったものだ」
「確かにな。義兄上のことだから、かっとなって手が出てもおかしくない筈だが」
「その辺り、意外と母は父の感情を制御するのに長けていたのでしょう。手が出ないギリギリの線での口論をやっていた気がします」
「ふむ」
清と信忠は、少し横道に入った会話をした。
「それにしても、我が国が反応兵器の研究開発をするのは、ある程度は止むを得ない気がしますが。それを向ける相手が問題ですね。叔父や叔母のいる国を目標にするのは、私は気が乗りません。それを言い出したら、叔父さんの方が深刻でしょうが」
「まあなあ」
核物理学の講師は言っていた。
少なくとも約500グラムの濃縮ウランが反応兵器には必要と推算されているが。
そして、実際に兵器として使用される場合の威力については、今のところは全く不明としか言いようが無いとも。
それこそ1トン爆弾程の威力に過ぎないのか、それとも1万トン爆弾になるのか、100メガトン(1億トン)爆弾もの威力を誇るのか。
もし、100メガトンもの威力があるならば、それこそ関東平野のような広大な平野部さえも、ほぼ一面の焦土と化してしまうだろう気がするな。
そして、そんな兵器を日本が向ける相手となると。
当然のことながら、北米共和国やローマ帝国になるが、どちらにも自分の兄や姉がいるのだ。
上里勝利や武田和子が。
更に信忠にしても、叔父や叔母になるし、他にも秀勝や小督と言った親族もいる。
清は頭を抱え込む想いがした。
最後の方に出てくる秀勝ですが、この世界では織田信長と美子の間の四男で、上里勝利夫妻の養子になり、浅井長政とお市の長女の茶々の夫になった人です。
だから、信忠にしてみれば実弟になります。
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