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第55章―19

 夫の上里清の説明の後、養女になる上里愛が考え込んでしまったのを、暫く黙ってみた後、上里理子は娘に声を掛けた。

「ともかく、植民地と一口に言っても、各地域によってかなり事情が違います。それに今は日本人がある程度集まって住むようになったら村になって、更に人が集まれば町や市になって、という形で住民による統治機構が、ある程度は植民地で作られるようになっていますし、日本本国の県や市町村と同様に、植民地の住民が地方議会の議員を選んで、地方議会が予算や条例を提言して、それを日本本国政府が任命した県知事や市町村長が受け入れるような形で行政を行い、又、裁判所も地方議会の条例に基づいた裁判を行うといったことが起きるようにもなっていますが」

 その養母の言葉を聞いていた愛は、前を向くような感じで言葉を切った理子に目を向けたが。


「その後のことについて、日本本国も、植民地も、人々の考えが様々に分かれています。それこそ日本本国の政党内でさえ、各党が党内部の意見の取りまとめに苦労していて、大政党になる労農党や保守党程、これが我が党の意見だ、と公然と言えない現状にあります。下手に現時点で公言すると、党内の反対派から反発が起きて、党分裂につながりかねない、と大政党の幹部程、発言等については慎重になる現実があるのです」

 理子は更に言葉を継いで、愛は本当にこの件が本当に難しい事なのだ、と感じざるを得なかった。


 血のつながらない母の娘への言葉を聞き終えた後、少し経って清が改めて口を開いた。

「今の日本本国では、市町村長は住民の直接選挙で選ばれるが、県知事については名目上は首相が、実質的には内務大臣が任命していて、それで、本国の地方に中央政府の意向が円滑に届くようにしてはいる。それと似た感じで、植民地の市町村長は住民の直接選挙で選ばれる一方、植民地の州知事に関しては名目上は首相が、実質的には植民地相が任命する形になっているが、現状だけから言えば、州知事は現地の有力者がほぼ世襲している現状がある。それこそ、南米のブラジル州の州知事はずっと伊達輝宗殿が努めていて、もしものことがあれば、輝宗殿の次男で、伊達政宗の弟になる秀宗が州知事になると観測される有様だからな。他にも例えば、オーストラリア州の州知事を足利義輝殿がずっと務めていて、足利義輝殿に何かあれば、その息子の足利義康(先祖と同名)殿が、オーストラリア州知事を世襲することが、日本本国政府内では、ほぼ内定しているのが現実だ」

 

 義父の言葉が、一旦は途絶えたのを機に、愛は口を挟んだ。

「日本ではそんなに事実上の世襲が罷り通っているのですか」

「本来的には良くないことだと考える。実際、姉婿の織田信長殿は、息子を誰一人として衆議院議員にしなかった。落選したとはいえ、山城でそれなりの選挙地盤を信長殿は築いていたのだから、後継者として息子の誰か一人を推薦していれば、かなりの有力候補になったと考えるが、信長殿自身が、世襲は良くないとして、息子を推薦しなかったからな。自分も同様に考える」

 義理の娘の質問に、清はそう答えたが、これはあくまでも建前だ。


「しかし、現実問題として、親の後を継いで衆議院議員なり、州知事なりになりたい、と子どもが言い出したら、貴族院議員の一部がほぼ世襲になっていることからしても、それは拒みづらい話になってしまう。それに政府からの任命制ならば、他に適当な人材がいると言えるが、選挙となると、引退した親の後に子どもが立候補するのは止められないからな。本当に難儀だ」

 そう清は、愛に対して本音を吐露した。

 愛は義父の言葉を聞いて考えた。

 本当に難儀なことのようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ①上里理子さんの説明が分かり易い。(清さんは皇軍の将校なので、「教育」は業務の一環。平時の軍隊は(戦時も前線以外は、)ほぼ教育機関。優秀な将校は優秀な教育者である事が前提。)名前の通り聡明…
[良い点]  織田信長さんがスゴい♪子どもたちに「親の名声などあてにせず自分の道は自分で掴め」とは獅子の如き気高さだよねー(^皿^;)しかし美子さんにもビシビシ鍛えられた子どもたちはどんな進路に進んだ…
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