第55章―17
上里清夫妻と上里愛の会話は続いた。
「現在、日本本国の人口は約2000万人といったところか。もっとも毎年40万人以上も増えているから、この勢いで増えていけば更に人口が増大して、20年も経たない内に約3000万人にまで日本本国の人口は増えると推測する人も稀ではない。そして、そのほとんどが純粋な日本人だ。だから、愛のような日本人は、日本人といってもかなり目立つ存在になってしまうし、外国人は本当に浮いて見える。愛にとっては少しつらい話だな」
清は敢えて軽く言い、愛は義父の意図を察して軽く笑った。
実際に京の街を愛が一人で歩くと、明らかに日本人離れしている愛の容姿は、どうしても注目の的になるし、議員会館の中に愛が入る際とかになると、最初の頃は偽造の身分証明書かも、と警備に当たっている警官が複数で確認に当たった程だ。
(もっとも1週間程で、それは収まってしまった。
愛が片倉小十郎から教えられた噂だと、その件が織田美子の下へ警察が愛を危険人物視していると誤って伝わり、私の義理の姪を危険人物と考えるのか、と内務大臣を美子自ら呼び出して難詰する事態が起きて、内務大臣が止めるように現場に指示したかららしい。
尚、愛は幾ら何でもと考える一方、もし真実だったらと思うと怖くて、美子らに確認していない)
「だが、植民地では違う。各植民地地域毎にいうと、まず中南米では、既に住んでいた先住民に加えて、今では新たに来る者は、かなり減ってはいるが、アフリカや欧州から来た年季奉公人や元奴隷が大量に住み着いて家族を作ってきたし、更に日本人との結婚や養子縁組も行われた。現在の中南米植民地に住んでいる日本人は約250万人といったところで、更に先住民や日本人でない年季奉公人や元奴隷等の外国人が約400万人程も住んでいる。日本本国の外国人と似たような感じで、先住民や外国人を処遇しているが、そうは言っても、日本本国と全く違う人口比だ。本国としてみれば頭が痛いし、中南米植民地では、日本本国がどこまで自分達のことが分かっているのだろうか、と疑問や不満の声が徐々に上がりつつあるらしい」
清は、そこで言葉を切った。
愛はそこまでの説明だけで驚かされた。
中南米植民地では、そんなに日本の植民地と言っても、日本人以外がそんなに多いのか。
「豪州等にも日本人が約250万人程も住んでいるが、ここは元々、外国人奴隷がいなかったといっても間違いないし、そんなに外国人の年季奉公人も、色々な事情から積極的には受け入れなかった。だから、先住民や外国人も約50万人程しか住んでいない。だから、日本本国に中南米植民地よりも気風が近いな」
清は、自分でも説明が長くなっていると考えて、話を徐々に手短にした。
「後、アジア等の植民地だ。ここは植民地と言っても、他の2つがほぼ面として植民地化されたのと違って、島や大陸の一部の港を中心とする飛び石の拠点を作って植民地にしたところが多い。だから、元からの先住民を圧倒する数の日本人が各地の植民地に住む一方、その周辺に住んでいる先住民、外国人の出入りも極めて多いという現実がある。大よそアジア等の植民地には約100万人の日本人が住む一方で、先住民、外国人の出入りが激しくて、先住民や外国人がどれだけ植民地内に住んでいるのかを精確に把握するにも一苦労している有様だ。一応、アジア等の植民地の場合、住民の9割前後が日本人ではないか、とされることが多いがな。だから、ここはここで苦労している」
清は、愛に対して3つの植民地地域のそれぞれの現状について、大よその説明をした。
愛は改めて日本の植民地と言っても色々違うのだ、と考えた。
本国や各植民地等の人口ですが、基本的に50万人単位で説明しています。
大雑把すぎると言われそうですが、この辺りを精密に考えていくと却って描けなくなってくるので、敢えて概数として50万人単位にしています。
そのために外伝で描いた1574年当時より、1595年現在では大幅に人口が増減している地域もありますが、その辺りは日本人との婚姻や養子縁組の影響が大きかったためだ、と緩く見て下さい。
ご感想等をお待ちしています。




