第53章―2
本多正信は、考えに沈み込むうちに、ふと別の方策を思いついた。
一矢報いるという観点からすれば、砲弾なり、ロケット弾なりを日本本土に打ち込めないだろうか。
流石に砲弾では不可能だろうが、ロケット弾ならば不可能ではないのでは。
とはいえ、ロケット弾にしても、現状では数十キロを届かせるのがやっとで、それを大型化して、数千キロも離れた日本本土にまで届かせること等、完全に夢物語だ。
だが、10年先、20年先ならば、可能になっているのでは。
更にはそれを欺瞞する方策が無いこともない。
「ロケット弾を使うというのは如何でしょうか。今では無理ですが、10年以上先になれば、日本本土にまで届かせることができるようになるやも」
「ロケット弾を使うだと。あんなものが日本本土にまで届くようになると考えられるか」
本多正信の言葉に、徳川家康は即答した。
「では、どんな方策があるとお考えで」
「うん」
本多正信の反問に、徳川家康は言葉に詰まった。
そもそもその方策が自分で思いつかないから、本多正信に徳川家康は尋ねたのだ。
「それにロケットの可能性は極めて大きい。それこそ何れはロケットで月に人を送り込めるやも、と説く者までおります。現在でも理論上は決して不可能ではないとされています。月に人が送り込める程のロケットならば、言うまでもなく日本本土にも届くことになります」
本多正信は、更に徳川家康に説いた。
その言葉を聞いた徳川家康は考え込んだ末に口を開いた。
「月にはかぐや姫がいるというが、会いに行ってみたいものだのう」
「ご自身が行かれるつもりで」
「かぐや姫を娶るとなると、自身が行って口説くしかあるまい」
「お歳をお考え下さい」
「何を言う。儂はまだまだ若いわ」
「できるのは、どう見ても10年以上は先になりますが」
「そうなると、かぐや姫を息子の嫁に迎えるために頑張るとするか」
徳川家康と本多正信は、ある意味では軽口、ある意味では腹が黒い会話を交わした。
月に人を送り込むためのロケットを開発する。
その名目で欺瞞して、大型ロケットを開発製造するのだ。
月に人を送り込む、という夢で語れば、その真の目的を欺瞞することが可能だろう。
だが、もう一つ問題がある。
夢では飯が食えない。
唯の道楽と言われても仕方がない。
それこそ、自分達の反対派、例えば武田義信夫妻等が、そんなぜい沢をするな、とロケット開発について攻撃してくるだろう。
それに対して、実は日本本土攻撃のためのロケットなのだ、と言っては、月に向かうためのロケットだという欺瞞の意味がなくなるし、日本もロケット開発に乗り出すだろう。
これは奇襲攻撃を行うための準備と言っても過言ではないのだ。
徳川家康と本多正信は、そうした観点からの議論を続けた。
「何れは月に向かうロケットを完成させると言いつつ、それ以外にもロケットを開発する理由がいる。それは我が国にとって、それなりの利益がある理由である必要があるが、そんなものがあるだろうか。それが無ければ、国内外を欺瞞しきれぬ」
「確かにその通りですな。何れは月に向かうという夢を語りつつ、それ以外にも我が国に利益があるのだ、という理由を作って喧伝しないと、国内外を欺瞞しきれぬでしょうな」
「正信、大型の宇宙用のロケットが必要な理由を何としても作り出せ。それによって、我が国に短期的にも利益があると国の内外に喧伝するのだ。その理由ができた上で、この件は進めるとしよう」
「御意。色々と大型の宇宙用のロケットが必要な理由を何とか作りましょう」
家康の言葉をもっともだと考えつつも、正信は頭を抱え込まざるを得なかった。
本当に厄介極まりない難題を自分から作ってしまったようだ。
ご感想等をお待ちしています。




