第52章―13
「その一方で、陸軍の装備の更新は極めて順調だ。事実上は原油との物々交換を行い、更には小銃等に至っては日本で開発されたものを、オスマン帝国で現地生産を行うことで、少しでも安価にして、大量に装備できるように努めているからな」
「本来から言えば、軍事関係から産業革命を進めるのは本末転倒の筈なんだけどね。それこそ「皇軍来訪」後の日本がやったように、それなりに軽工業を中心とする民事産業を興して、それによって豊かになったうえで重工業化を図るのが本来の姿の筈だけどね」
上里清陸軍少佐と上里丈二海軍大尉は兄弟ということもあって、腹を割った会話を続けた。
尚、こういった会話ができるのは、二人の血筋、生活歴も多少入っている。
上里兄弟の父の上里松一は、元海軍士官で最終階級は大尉だが、20代前半の時に少尉で退役したと言われても仕方のない身だった。
(そういったこともあって、上里清と丈二の兄弟を軍人の路に松一は進ませたのだ。
尚、勝利は松一の養子だし、道平は沼田小早川家の婿養子に12歳でなったことから、軍人の路を歩まなかった。
更に言えば、その二人の実母のプリチャ(永賢尼)が、自分の実子が軍人の路を歩むことに、自分の夫のサクチャイを松一が安楽死させたこと等から大反対したのもある)
そして、20代前半で退役した後の松一は、それこそ商人の路を歩み、最後には今は完全に日本最大の民間商社となっているインド株式会社の代表取締役会長として引退している。
こうしたことから、隠居はしているが松一を日本財界の大立者、と今でも日本の内外でみなす者が多いのが現実だ。
(更に言えば、その養女(美子)の婿が大日本帝国全労連会長を務め、労農党党首から日本初代首相になった織田信長なのだから、本当に人生の奇縁としか言いようがない縁戚関係を松一は結んでいる)
又、上里兄弟の実母の上里愛子(張娃)は、倭寇の頭目のひとりだった張敬修と琉球の尾類(芸妓)だった安喜の間の娘である。
そして、(上里兄弟は真実を知らないが)安喜は、琉球王国の三司官の真徳と尾類の波琉の間の秘密の娘だった。
こうした血筋からも、上里兄弟は芸事に通じると共に政治経済に詳しくなっていた。
「具体的には、どんな感じなのだ」
「まず後、数年で現役歩兵部隊は、全てボルトアクション式小銃を装備できる筈だ。それも、オスマン帝国産が大半を占めることになるだろう」
「それは凄い」
「これは、日本のボルトアクション式小銃が、やや枯れた技術というのもあるけどな。何しろ日本のボルトアクション式小銃は、それこそ北米独立戦争勃発前に量産が始まっていた代物だ。つまり、20年近く前に量産化された小銃という訳で、オスマン帝国でも量産が何とか可能になった」
「そう言われてみれば、それだけの時間が経っていたな。お互いにあの時は地獄を見たな」
兄弟は会話を交わしながら、お互いと少し目をそらし、どこかの虚空を思わず眺めた。
それなりどころではない数の陸軍士官学校、海軍兵学校の同期生が、北米大陸の大地で、カリブ海で散っていった。
又、命は取りとめたものの傷痍軍人になって、働くことができなくなり、家族の援助と軍人恩給で何とか生計の路を立てている者もいる。
勿論、それ以外にも自分の知る上官が部下が、又、見知らぬ者が多く亡くなり、負傷していった。
それで、お互いに心を痛め、歳月の流れである程度は癒えたが、未だに完全には癒えていない。
二人は、改めて目を見合わせて無言で会話した。
本当に歳月の流れは速い。
あれだけのことがあってから、10年も経っていたとは。
更に世界は大きく姿を変えつつある。
後どれだけ世界は変わっていくのだろうか。
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