第50章―20
「それにしても、政治等について色々と話していると、もう一つ、これまでとはズレるが、どうしても触れないといけないことがあるな。そう軍事のことだ」
ロバート・スペンサーは、フアン・デ・メンドーサ・イ・ルナ侯爵との話を少し変えつつ、顔色を改めて言った。
「軍事のことか」
「ああ。日本や北米から、欧州を始めとして世界各国は積極的に軍事改革を進めている。何しろ日本や北米の軍事力は恐るべきものだ。そのために日本や北米から兵器を懸命に購入して、自国のモノにしようとしているが、とてもそれでは足りない。それこそ、欧州では外国人の傭兵、又、イスラム世界等では外国から輸入された奴隷が兵士なのが当たり前と言っても間違いなかったが、日本や北米は国民を積極的に兵士にしている。そして、外国人の傭兵や奴隷に、日本や北米の最新兵器を安心して預ける訳には、お互いの国ともにいかないだろう」
「その通りだな」
ロバート・スペンサーとフアン・デ・メンドーサ・イ・ルナ侯爵はやり取りをした。
「北米独立戦争で、欧州諸国は北米共和国側に大量の傭兵を提供した。そして、我が国ではドレーク提督という英雄が出た。その一方で、スペインはアレッサンドロ・ファルネーゼ公爵を筆頭とする多くの軍人が研鑽を積むことができた。だが、彼らの多くが生きて祖国には還らなかった」
「まあな。祖国に還るよりも、北米共和国に多くの傭兵、軍人が骨を埋めることを選んでしまった」
二人は更に会話した。
二人はそれ以上は言わなかったが、こうなった原因は自明の理と言っても良かった。
それこそ北米共和国は、独立戦争末期の頃には財政がかなり悪化しており、そのために悪戦苦闘していて、兵士の給料の一部は軍票まで使って給与支払いをしたらしいが、とにもかくにも欠配はなく、遅配も無かったといってほぼよかったらしい。
だが、これはこの当時の欧州の傭兵、兵士事情からすればアリエナイと言われても当然の話だった。
この当時の欧州の傭兵、兵士の給料は遅配が当然で、欠配すら稀どころか、よくある話だった。
(尚、最も酷かったのが神聖ローマ帝国というか、オーストリアで、そのためもあって、オーストリアの兵士は弱兵で有名になった。
最もこれは当然で、誰がマトモに給料を払わないところの為に懸命に戦うだろうか?)
更に言えば、それこそ様々に遅れているとしか言いようが無かった欧州の生活実態に対し、一部の都市部にほぼ限られていたとはいえ、1910年代の生活ができる北米共和国の生活実態がある。
例えば、ガス灯どころか、電灯が一部の北米共和国内では使われるようになっていたのだ。
こうした生活を送った欧州出身の傭兵達の多くが、祖国に還ろうとせずに北米共和国に骨を埋める覚悟を固めるのは当然ともいえた。
ともかくこうした実態を知らされた欧州諸国をはじめとする世界の多くの国々では、軍の大幅な改革を行おうとする動きが急になった。
(フアン・デ・メンドーサ・イ・ルナ侯爵が、教育の重要性に目覚めたのは、日本や北米では学校教育において愛国教育が行われており、それによって自国の兵士、軍人を養成しているということに強い感銘を受けたことが最大の要因と言っても良かった)
「そうしたことからすれば、軍の改革も重要だが。それはお互いに軍人に任せるしかないか」
「そうだな。流石にそこまでは手を広げられないし」
二人はやり取りをした後で、お互いに含み笑いをしていった。
「「余りにも言えない話になるな」」
「色々話せてよかった。又、訪ねるつもりだ」
「いつでも歓迎する」
フアン・デ・メンドーサ・イ・ルナ侯爵とロバート・スペンサーは、お互いに満足し会話を終えた。
ちょっと当初の予定からズレて綺麗に話が終わらなくなりそうなので、ここで第50章を終わらせます。
次から第51章となり、オスマン帝国が基本的な舞台で、この世界の日系諸国以外の国の軍事改革の現状について描きます。
(尚、上里清陸軍少佐が主な語り手、主人公として登場しますが、一部、余談も差し挟みます)
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