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チート(?)な女魔術師と弟子   作者: ミズモリ
2/3

チート(?)な女魔術師と弟子 中編

 何とか次の日(2019/2/19)に投稿出来ました。

 しかし、次話投稿は今週金曜か土曜になります。

 前編より倍の長さの中編ですが、読んで下さい。

 お願いします。

 彼女が持つ役割の一つは、この大陸屈指の危険地帯。


 通称「歪みの森」の維持と管理だ。  

 森の正式名称は俺も知らない。そこは別に知りたいと思わない。多分彼女は知っているのだろうが……。  


 ……どちらにせよ、危険地帯の名前など、通称だけ知っていれば十分だと思う。


 だけど、危険地帯を維持する意味がよくわからない。

 彼女に聞いてみたけれど、「国を治める人間が命じたことだ。何か深い考えがあるのだろう」と返されてしまった。

 

 はぐらかされた気もしたけれど、どれだけ頼んでも教えてはくれないだろう。

 駄々を捏ねるのもみっともない。


 だから俺は、何も聞かずに彼女について行く。いつものように……。

 森の中は真昼だというのに薄暗い。俺は彼女にくっつき過ぎない様、後ろを歩く。

 少し手を伸ばせば触れられそうな距離だ。

 が、今は歩くことに集中する。


 彼女が歩く道は獣道。道無き道と言っても過言ではない。歩きやすいはずがない。

 しかも毎日歩く道が違う。


  だが彼女曰く、「私はいつも、同じ道を歩いているぞ?」である。

 どうやら俺の五感は、「歪みの森」の摩訶不思議な力に歪められているようだ。

 いくら五感を研ぎ澄ませても、毎日違う道を歩いているとしか思えない。

 しばらく歩き続けると……。


「……まずは、一つ目」

 

 言って彼女は立ち止まる。

 俺にはわからないが、彼女は毎日森の中の決まった場所を回っているようだ。

 決まった場所。とはいうが俺には毎回違う場所に見える……。


「……師匠、やっぱり、毎日、違う場所に、見えます……」

 

 俺が落ち込んだ声音で言葉を区切りながら溢す。

 彼女は、


「気にするな……。特定の者にしかこの森の正しい姿は見られない。……寧ろ正しい姿が見える方が問題だ……」


 と、答えた。

 俺がこの手のことを言う度に彼女は同じ様な言葉を返してくる。


 最初は、慰められてるのかと思ったものだが、どうやら違うようだ。

 ……彼女の言葉の意味を考えてみても、ぼんやりとしか理解出来ない。貶されてるのでは無い、とはわかるが……。

 

「……ここは、異常はないな。次へ行くぞ」


 彼女は再び歩き出す。

 俺も彼女を追って歩き出した。

 そうして何ヵ所か回ったあと、最後の一つにたどり着く。

 

 ――はずだった。


「…………師匠?」


 彼女は無言で立ち止まり、辺りを見回し始める。


「……おかしいな? この辺りだけ雰囲気が違う……何かいるようだ」


 一気に緊張した様子の彼女は俺の手を取った。

 指先の部分が無い、革手袋を嵌めた左手で俺の左手を放すまいと強い力で握ってくる。

 

「……あの……師匠。一体、なにが……」

「――シッ! 黙って、静かに……」


 この森の中で、こんなに緊張している彼女は初めて見る。


「なにが入り込んできた……? ……迷い込んだのか?」


 どうやらナニかが森に入って来たようだが……俺には全然わからない。彼女と同じく辺りを見回しても、足元は獣道。左右は木々とその間に、俺の背丈を越える茂みがあるばかり。


 ――ガサッ! 


 左側の茂みが動く音と共に――突然、俺の左手首がナニかの手に掴まれる。

 

「し――」

  

 師匠! と声を出そうとしたが、俺の左手首を掴むナニかの力は凄まじく。抵抗するのが精一杯だ。


「い、痛い……」


 弱音を吐くのは情けないが。

 手首をもぎ取られそうなほどの力だ。痛くて堪らない……。


「――私の弟子に何をする!!」

 

 彼女は携帯用の小刀を素早く懐から取り戻して、俺の左手首を掴むナニかの手に、勢いよく切りつける!


「――※※★!!」


 ナニかは彼女の小刀に手首を切り落とさんばかりの勢いで傷をつけられて、俺の左手首から手を離した。


 聞いたこともない言葉で苦痛の声を上げて。

 俺には苦痛の声だと思えたが、本当は違うのかも知れない……。


「――刃を潰した対魔用の小刀がそれなりに効くとは……妖魔クラスの魔か……」

 

 彼女の言葉に俺は驚きを隠せない。


「あ、あの、師匠の側にいれば妖魔クラスとかは、近づいてこないんじゃないですか!?」

「……何でも、例外はある……この森の中だと例外も起こりやすい……」 


 だからと言って、俺に一人で留守番させるのも色々な意味で危険らしい。


 ……色々って、どんな色々なんだろう……?

 とにかく、例外も起こり得る危険な「歪みの森」に俺を連れて行くのはそんな訳のようだ。 

 

「まだ、近くにいる……」


 彼女は俺の手を握りしめたまま言った。

 まだ、危険は去ってないようだ。

 小刀を仕舞い、次いで懐から彼女はタリスマンを取り出し俺に渡す。

 

「万が一の為に持っていたんだ。落とすなよ?」

 

 渡されたタリスマンからは、物凄い魔力が宿っているのだとすぐにわかった。

 

「……こ、これ……師匠が持ってないと不味いんじゃないですか?」


 タリスマンは持つ者を守る力もあるが、魔力増幅の効果もある。

 

「私は伊達に人を越えた力の持ち主――『チート』――じゃないんだぞ? 心配するな」


 彼女はなんでもないことの様に言い放つ。

 強がりではないとわかるが、心配するなと言われても……。


 以前もこの森で魔に襲われかかったことがあるが、それは俺も見たことのある下級の魔物だった。


 単に何かのはずみで迷い込んだだけらしい。

 知能が低く本能のみで行動するので、森の力に惑わされ、敵うはずのない相手がいるのに近づいて来てしまった様だった。


 その魔物は馬に似た姿をしており、俺を目掛けて突進して来た。 

 だが、彼女は慌てず騒がす。呪文ではなく術名だけを口にして攻撃魔術を発動させ、あっさりと魔物を倒してしまった。


 呪文を省略させる道具も使わずに、そんな真似が出来てしまうのは彼女ならではだと思う。

 しかし、今回は勝手が違う。下級の魔物ではなく、あれは上級の魔だ。


 魔の強さは、魔物→妖魔→純粋魔族。の順で、強さのレベルが上がって行く。他にも魔物の中には、『怪物』と呼ばれる、獣だったり動物だったり、人間に近い姿をしていたりする奴もいるが……。

 

 基本的に、強くなればなるほど人間と見分けがつかなくなる。


 さっき俺の手首を掴んだ手は……。

 人間の手に見えた。温もりもあった。

 妖魔クラスなら、人間と同じ姿形に化けられる。触っても温もりがあり赤い血が通った普通の人間にしか思えない。

 

 だから……相手は妖魔及び純粋魔族なのは確定だ。

 俺は彼女の手を強く握り返し、彼女から渡されたタリスマンも、空いている右手で強く強く握りしめた。


◆◇◆◇ 


 この子が弟子入りして以来、「歪みの森」の結界を、毎日毎日、確認、強化していたのだが……。

 一体なにが入り込んだか引き寄せられたか……。


 この子に危険が無い様にと自分自身も森の結界も引き締めてきたのだが。

 どうにも……上手くいかないものだな……。

 まあ、人生とはこういうものだ。


 特にこの森は人知の及ばない領域にある。

 私がやっていたことは決して無駄ではなく。より良い結果を出す為の努力だ。

 それに……まだ、最悪の事態という訳でもないしな……。


 様々なものと引き換えに、与えられてしまったこの力。存分に使わせてもらおう。

 この子は親御さんから預かった、大事な大事な私の弟子だ。


 この子を守るだけの力が私にはある。

 

 ………にしても……しつこいな。

 

 まだ気配が消えない。こちらに視線が向けられているのもはっきりわかる。

 上級の魔の類いであることは、間違いないのだが……。

 

 ……この子は、私が作ったアミュレットも身に付けているはずだし強力なタリスマンも渡した。

 

 加えて私という存在がこの子守っているのに、去って行かないとは……。

 

 私は少しだけ早足で歩き出す。

 すぐ後ろからいつもの足音がついてくる。

 少々、手に力か入り過ぎてしまったか?

 と、思っていたら、私の手を同じく強い力で握り返してくる。

 

 ……怖いのだろうか?


 一人にさせるのも危ない。だからと言って、この森に毎日連れて来るのも酷だったか?

 考えながらも私は歩みを止めない。

 木々の間の茂みの向こうから、こちらを伺う気配と視線は消えない。

 

「………………」

「………………」

 

 私達は無言で歩く。

 残りの結界確認は明日でも構わない。

 結界確認の間隔は、本来、私の裁量に任されている。私は出来るだけ毎日確認作業をするが、あまり間が空きすぎなければ、一定期間、確認をしなくても構わない。

 

「……もうすぐ森を抜けますね?」


 後ろから心なしか嬉しそうな声が聞こえた。

 が、このまま茂みの向こうの魔を放って置くことは出来ない。

 私は簡略化した呪文を口の中で唱え始め――

 

「……我らが敵の身に落ちよ! 『雷樹』《ライジュ》!!」


 バリバリバリバリ…………―――ドガァン!!


 空のあちこちから引き寄せられた雷が、一塊の縄状になり相手に落ちる。


 まるで幾つもの枝を広げた太い樹の様に見えるので『雷樹』と名がついたこの術は、攻撃系の精霊魔術に属する。 

 

 『雷樹』は攻撃する対象の姿が見えていなくても、間違いなく対象者に落ちてくれるので、重宝している。

 

 本来ならばもっと長い呪文を唱えなくてはならないのだが、私は簡略化出来る。術によっては術名だけでも術が発動してくれる。

 

 「――ぐぅっ!!!」


 『雷樹』をモロに喰らった相手は、私が知っている異世界の言葉で呻いた。


 つまりは別世界から迷い込んだか引き寄せられたか……。それとも自らやって来たか……。

 私は相手の出方を伺いながら茂みを睨み付ける。


「………師匠」

 

 不安げな声が私のすぐ側で聞こえた。


「お前はもっと後ろに下がっていろ」 


 握っていた手を離そうとするが、なかなか離してくれない。

 仕方なく強引に手を離すと、物凄く悲しそうな表情をされてしまった。

 

 ……う……さすがに胸が痛む……。


 が、私は無言で茂みの方へと一歩踏み出した。

 一応、この作品は次の後編で完結となります。

 続きを読みたい。という(奇特な)方がいらっしゃれば、また、書くかも知れません。

 では、宜しかったら次話も読んで下さい。

 お願いします。

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