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愛殺 ─あいころ─ 二次創作集  作者: 愛殺読者様
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第59話 偽物の悲哀 -remake-

【半二次創作】

・Twitter企画[#みんなの小説を私の文体でリメイク]より

 野々様による本編「第59話 偽物の悲哀」リメイク


【キャラクター】

ラムズ、メアリ



*三人称視点 アレンジ/リメイク

 ラムズは顔を上げて、椅子に座るメアリの方を見る。不安げに揺れる瞳がそこにあった。ラムズはわざと目を伏せてみた。長い睫毛がラムズの瞳を陰らせる。


「ラムズ……」


 メアリが心配そうに自分の名を呼ぶのを聞いて、ラムズは先程のアイロスの言葉を思い出した。


 ──人魚は悲しみにのみ同情する。


 おそらくメアリは今、ラムズに同情している。だから気落ちした様子のラムズを見て、こうも表情を曇らせているのだ。


 人魚の"同情"とは、一体どういうものだろう。ともに悲しむだけだろうか。励まそうとするのだろうか。"悲しみに暮れる"俺のために、メアリは何をしてくれる──?


 ラムズはそっと視線を上げた。わずかに濡らしたそれを、メアリのそれと交わらせる。


「メアリ」


 普段よりも低い声で、ラムズは彼女の名を呼んだ。メアリは目を瞬く。気遣うような優しい声が、メアリの唇から溢れた。


「どうしたの?大丈夫?」

「分からない。どうしたらいい?そもそもなぜこんなことになったのか、俺には分からないんだ」

「そうよね。誰かから聞いたって言ってるけど、そんなに噂になっているのかしら」

「メアリはどっちを信じてる?」

「え?」


 メアリは口をつぐんだ。眉間にしわを寄せ、首を小さく傾げる。そのまま床に視線を落とし、しばらく考え込んでいた。


「……そうね、ラムズは本当に売る気はなかったんでしょう?」

「ない。誰ともそんな話はしてない」

「そうよね。普通に考えて変だもの。ルテミスを売った方が、ずっと損だわ」

「ああ……」


 ラムズは肩を落として俯いた。前髪が揺れ、彼の目元を覆い隠す。すだれのようなそれの奥を、メアリは探るようにして見つめた。


「ラムズ、大丈夫?」

「いや……まさかこんなことになるなんて……」


 わずかに掠れたラムズの声に、メアリは心臓が疼くのを感じた。はっとして胸を押さえつける。そこに渦巻く哀しみが、人魚の(さが)によるものなのか、自分の心によるものなのか、メアリにはわからなかった。


「落ち込んでいるの?」


 誤魔化すように口を開き、メアリは立ち上がった。足早に距離を詰め、ラムズの隣に座る。ベッドが少し沈み込んだ。


 ラムズは顔を上げた。ゆっくりとメアリを捉えたその目には、薄く涙が滲んでいた。窓から差し込む夕日のせいで、彼の顔は赤く染まっている。青い瞳と赤い光が混ざる様子に、メアリの目は引きつけられた。


「メアリ……」


 湿った声を聞いて、彼女は我に返った。目の前のラムズは、肩を落とし目を涙で曇らせ、辛そうにメアリを見つめている。メアリの胸はまたしても鋭く疼いた。絞り出すように言葉を紡ぐ。


「大丈夫よ。その……いつか誤解は解けるわ」

「俺さ、どうしたらいいと思う」

「分からないわ。とりあえず元気になるしかないと思うの……」


 メアリは自分の顔が歪んでいくのを感じていた。眉尻が下がって、唇が尖り、目の前がゆらゆらと揺れる。滲み始めた涙を堪えようと、彼女は目を瞬いた。細かい雫が睫毛に移り、目元を淡くきらめかせる。


 ラムズはそんなメアリを見つめていた。彼女の目を。表情を。悲しみに沈むメアリを前に、ラムズは「へえ」と胸の中で呟いた。


 相手が泣いているだけで自分も泣くのか──ラムズは冷静に考えていた。メアリの髪を手に取り、ゆっくりと梳く。メアリはびくりと肩を震わせた。しかし、その身をラムズから離すことはない。


 瞳に涙と影を湛えたまま、ラムズは薄く唇を開いた。


「元気、出ない」

「えっと……どうしたらいい?わたしにできることって、ある?」

「メアリは、俺の宝石か?」

「へ?……あの、どういうこと?」

「俺の宝石だと思っていい?」


 ラムズはじっとメアリを見つめた。小さく首を傾げ、目尻をそっと垂らす。メアリはおどおどと視線を泳がせた。戸惑いが顔に溢れている。ラムズはそんなメアリを前に、ただただ、無垢な表情を貼り付けて待った。


 メアリの青い瞳が三度目にラムズに戻ったとき、彼女はこくりと頷いた。


「ま、まぁ、別に……。それで気分が良くなるなら……」

「分かった」


 そう言うと同時に、ラムズはメアリの腕を掴んだ。彼女がそれに気づくよりも早く、力を込めて引き寄せる。


「……えっ?」


 ラムズの両腕は、メアリの背と腰に回っていた。抱きしめられている。そう認識した瞬間、メアリの頰がカッと熱を持った。耳元に冷たい息を感じる。


「俺の宝石、だろ?しばらくこうさせて」


 悲哀を含んだその声に、メアリはおそるおそる頷いた。顔を動かしたせいで、ラムズの肩に頰を擦り付けてしまう。いけないことをしてしまったような気がして、メアリはわずかにのけぞった。しかし、体に回されたラムズの腕が、彼女の動きを制限する。ラムズ、とメアリは消え入るような声で言った。ラムズは何の反応も示さない。メアリは唇を噛んだ。

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