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愛殺 ─あいころ─ 二次創作集  作者: 愛殺読者様
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第56話 チェスゲーム -remake-

【半二次創作】

・Twitter企画[#みんなの小説を私の文体でリメイク]より

 水銀あんじゅ様による本編「第56話 チェスゲーム」リメイク


参照『#みんなの小説を私の文体でリメイクする【突発第一弾】』

▶https://ncode.syosetu.com/n5986es/


【キャラクター】

ラムズ、メアリ



#Rメアリ視点 アレンジ/リメイク

 明日は出航の日。わたしは毎日出かけるのに疲れちゃって、今日は宿屋の部屋で一日中ダラダラすることに決めた。

 ラムズは午前中は出かけていたみたい。どこに行ったかって? 知らないわよ。でも昼を過ぎたころには帰ってきて、ずっと宝石を磨いていたの。

 ……本当好きだからって言っても、よく飽きないものよね。少し位磨かなくても平気じゃないかしら? それでもラムズはずっと磨いているんだろうけど。

 一つ一つ念入りに磨いている姿を貴方達にも見せてあげたいわ。本当おかしくて仕方がないから。


 わたしがずっと見ていたから、流石に気づいたみたい。ラムズが「暇ならチェスでもやるか」と誘ってきた。

 やり方は、以前知り合った船長がチェスが好きで、訊いてもないのにやり方を教えてもらった事があるから知ってはいたの。

 でも念のために、念のためによ? ラムズにルールを確認したわ。


 そんな感じでラムズとチェスを始めて、今は五戦目。

 ベット横の真円のサイドテーブルを挟んで、わたし達は向かい合って試合をしている。

 窓から光が差しこんでいてこの部屋を照らしているから、熟考しても眠くなることは無いわ。

 光が差している場所を見るとまるで、光がチェスの観戦をしているようにも思えるわね。

 さっきからその光が駒に当たって、キラキラと輝いているのが分かる。

 えっなんで光っているかですって? それは宝石で出来た駒だからよ。

 ラムズらしいと言えばらしいけどここまで拘るなんて一種の病気よね? わたしは間違って落としたときの、ラムズの反応を想像するだけで怖いわ。


 ラムズは少し前から椅子の背もたれに体を預けていて、その体勢も表情も、見るからに詰まらないと思っているのが分かる。


「チェックメイト」


 ラムズはそう言いながら、ブラックダイヤモンドの歩兵の駒を――すらりと動かした。


「えっ?! あれ、本当だ……。いつの間に……」


 ……五戦中五敗。つまり全敗ね。

 ラムズはよくチェスゲームをしているみたいだし、きっと強いに違いないわ。

 わたしが特別弱いわけじゃないはず。……そうよね? でも全敗は辛いわ。


「あんなに教えてやったのに、よくそこまで負けられるな」


 そう、ラムズはゲームの途中何度かアドバイスをしてくれていたの。

 「その手を使うと取られるぞ」とか、「ここのビショップ取れるだろ」とかね。

 彼のアドバイス通りに駒を動かすと、彼は時間をかけて次の手を考えていたから、わざと言っていたわけじゃないの。

 けどわたしは負け続けているわ。


「こういうの苦手なのよ……」

「まあ俺が強いから仕方ないか」

「自分で言うのね、それ」

「本当のことだから」


 冗談じゃなくて本気で言っているみたい。自慢とかでもないみたいだし。反応に困るわ。

 まぁそれでもテキトウに返事はするんだけどね。


「はいはい」


 ラムズはわたしをちらりと見やると、すぐに視線を戻した。

 ラムズって意外に自分のことを褒めるわよね? 俺は賢いとかって言っちゃうし。……確かにそうなんだけど、ね。

 ラムズはチェス盤の上の駒を動かして、最初の配置に戻しているみたい。

 ラムズの手の中でも変わらず、ダイヤモンドの歩兵が光を反射してキラキラと輝いているわ。

 わたしは軽く世間話をするようなさりげない感じで、話を振ってみた。


「ラムズって何歳なの? ヴァンピールは長寿よね。時の神ミラームが創造に関わっている使族だし」

「人間に比べれば長寿な方だな。俺の年齢は――、あんたの倍以上かな」

「わたしが今17だから、34?」

「もっとだな」

「50?」

「もっとだな」

「100?」

「もっとかな。だがこの辺でやめておくか」


 ラムズはそれこそ遊戯(ゲーム)をしているかのように、楽しそうに笑った。さっき私の相手をしている時よりも穏やかね。

 まぁ大して表情は変わっていないんだけど。雰囲気よ雰囲気。


「それくらい教えてよ! というか、見た目と年齢が釣り合ってないのね。わたしと同じくらいに見えるし」

「ああ」

「本当は何歳なの?」

「何歳だと思う?」

「うーん。そういえばクラーケンの雰囲気を感じていたわよね。

 50回クラーケンを見たことがあるとして、クラーケンを見るのはふつう三年に一度くらいの頻度よね。ということは150歳は超えてる?」

「残念。もっとだな」

「もっと? 教えてよ」


 ラムズは静かに口角を上げて、こちらを見て目を細める。

 そしてそのまま足を組みなおして、わたしの方に少しだけ顔を寄せてきた。

 そうして囁くようにこう言った。 


「なぜ知りたがるんだ?」

「なんでだろう。気になるじゃない? ラムズのことが知りたいというか」

「俺に興味を持っているということか?」

「興味……なのかな」


 ラムズは芝居がかったゆっくりとした仕草で、首を傾げて瞬きをして唇を歪める。


「じゃあ、教えたら代わりに何をしてくれる?」

「年齢を伝えるだけなのに、わたしが何かしないといけないの?」

「俺の歳を知っている者は少ないからな」

「レアってことね。なんだか余計知りたくなっちゃった。何をしたら教えてくれるの?」

「そうだな……」


 ラムズは掌の中で、王妃の駒を弄んだ。王妃の駒は綺麗に弧を描いて回転している。

 チェス盤の上には、既に他の駒は並べてある。ラムズは王妃の駒を所定の位置に置いた。

 とんと音が鳴って、僅かな音だけれど――この空間に響いて、この空間が二人きりなのだと意識する。


「じゃあ、俺にキスして」

「……え?」


 わたしは思わず聞き返した。ラムズは先程まで弄んでいた王妃の駒をゆっくりと愛おしげに撫で、こちらを見た。


「俺の手の甲に、キスして」

「……いや、え? それでもあんまり変わらないわよ。というか! どうしてそういうことばっかり言ってくるのよ」

「ばっかりって?」

「この前だって、その。キス、してきた、じゃない」


 わたしはラムズに、手の甲にキスされたことを思いだした。なんとなく掌を見たら負けるような気がして、ぎゅと握って意識をラムズに向ける。

 頬が熱くなっている気がしたけど、無視よ無視。


「この前のは、あんたが聞いてきたから教えただけだろ? ちょっとは危機感を持たないと、他の男に襲われると思ってさ」


 ラムズは肩をすくめてそう言った。本当様になるその仕草がイラつく。 


「それは……たしかに、そうかな……」


 そう言われると、わたしの危機管理がなっていないせいにも思えてくるから不思議ね。

 でもさすがにそれだけじゃ食い下がれない。


「だろ?」

「でも今のは……」

「今のは条件。俺の年齢を教えるための」

「キス、の方が、重くない?」

「重くないだろ。俺はしたのになあ」


 甘えるようでいて、物欲しげなねだるような目で、ラムズはこちらを――わたしの方を見てくる。

 うぅ……だからしないってばっ! 本当、叫ばなかったわたしを褒めてほしい。


「勝手にしたんでしょ!」


 ラムズはわたしの言葉に、驚いたように目を見開いた。


「嫌だ?」

「嫌っていうか……」

「嫌ならいい。じゃあ、年齢の話はまた今度な」


 先程の態度とはうって変わって、ラムズはそっけなく言った。わたしは彼の真意を知りたくて、じっと覗き込むようにしてラムズを見る。

 青い瞳はいつも通りに凪いでいるように見えた。ホント癪に障るわね、その態度。その余裕を一回でいいから崩してみたいと思うのは、どうしてかしら?

 わたしは自分の思いを掴めないまま、想いを吐き出すようにこう言った。


「――待って、分かった。すればいいんでしょ」

「するんだ?」


 ラムズは瞳を、さっきのチェスの駒みたいにキラキラさせて、こちらに手を差し出してきた。……いつもそうしてれば、外見相応の年齢に見えるのに。

 なんだかはめられた気もするけれど、やるしかないわよね? だって、知りたいし。ここで引き下がるなんて、カッコ悪いわ。

 それに陸の人たちにとっては、キスって軽いことだったはず。別にこのキスに深い意味なんてない。ただの交換条件だもの。 

 ……深い意味なんてないわ。


 わたしは彼の手を両手で掴んだ。ラムズのこの手とさっきのチェスの駒、どちらが冷たいかしら? 

 なんだか急に怖く感じて、ラムズの手をきゅっと握る。でもラムズは宝石と違って生きてるんだわ。

 ラムズにちらりと視線を向ける。その表情は先程と変わりない。

 こんなに体温が違うと――人魚の私の手ですら――熱く感じているということもありえるのかしら?

 まじまじとこの手を見るのもなんだか恥ずかしくて、わたしは顔をすっと近づけて、唇を当てた。


 覚悟はしていたけど氷のような冷たさが、唇から全身に巡っていく。

 でも勿論氷みたいに溶けることは無くて、けれどわたしの体温で温かくなることもなさそうだった。 

 冷たさが巡った所から、ぞわりと鳥肌が立っていく。それに気づかないふりをしながら、わたしは手を離した。


「は、はい! やったわよ!」

「ああ」 


 ラムズはわたしの方を見て、ニヤニヤと嗤っている。憎たらしさを感じる笑みだ。

 その笑みにわたしが思わず目を細めると、その視線に気づいたように「どうも」とそっけなく言った。

 あー本当、もうなんなの!? あんなに悩んだのが馬鹿みたいじゃない!


「どうしてこんなことやらせるのよ……。ヴァンピールにとっても、キスは軽いものなの?」


 わたしは何とも言い難い気持ちとともに、軽く息を吐き出してそう訊ねた。


「ヴァンピールにとってはかなり軽いな」

「なんだ、やっぱりそうなのね」

「やっぱり?」


 ラムズはこちらを見て、首を傾げてそう言った。その瞳からは不思議そうな色が乗っている。


「んー。まあ俺にとっては重いけどな?」

「え? ラムズは重いの?」

「ああ」

「どういうこと? 恋人にしかやらないってこと?」


 えっ、ちょっと待って! 相手にとっては軽いし、と思って、キ、キス、したのに、そんなこと言われたら……

 そう思ったら、また頬が熱くなるのを感じた。もう誤魔化す気力もないわ。


「そうだな。されたこともしたこともない」

「えっ?! なのにわたしにしたの?」

「ああ」

「どうして?」

「さあ? どうしてだろうな?」


 声が大きくなるのを止められない。ラムズはまたあのいやらしいニヤニヤ顔だ。

 本当さっきのチェスの時とは大違いね! 試合チェスでも負けたのに、勝負(かいわ)にも負けたこの感じはなんなのかしら。


「それより、年齢は教えなくていいのか?」

「知りたいけど!」

「今じゃないと言わない」

「分かったわよ、早く教えて」


 本当ここまでわたしをけちょんけちょんにして、一体何が楽しいのかしら? 

 ラムズは秘密主義でここまで来るのにも体力を使ったし、また同じことをするかと思うと骨が折れるわ。

 悔しいけど、ここで聴いておいた方が賢明ね。


「そうだな……。さっきクラーケンがどうとか言ってたな。その考え方でいくと、俺はクラーケンを1600回以上見たことになるな」

「せ、1600?! ということは……えっと、5000歳くらい?」

「ああ」

「ちゃんと教えてよ。わたしはやったんだから」

「分かってるって。あんまり覚えてないんだよ。たしか5010だったかな」

「5010歳……。どうりで、そんなに色々知っているわけね……」


 ラムズが5000歳以上だって聞いても、わたしはそんなに驚かなかった。桁すら違うけれど、使族によっては普通な事もあるし。

 ちなみに覚えている限りだとエルフの寿命は1万歳くらい。ドラゴンは10万歳って言われているわ。でも、そもそもドラゴンはまだ死んだことがないんじゃないかな。

 人間の寿命は60歳、人魚は100歳くらいね。


 ラムズは手に持っていた歩兵の駒から目を離した。わたしの方を見る。その青い瞳はさっきとはうって変わって、少し陰りを見せていた。

 瞳だけは表情豊かなのね。まるで空模様みたい。


「メアリにだけに教えてやったんだから、他の奴らには言うなよ?」


 ラムズは真っ直ぐ射抜くような視線を、わたしに向けてそう言った。


「秘密なの? 分かった。それにしてもヴァンピールって、とっても長生きなのね。エルフくらいじゃない」

「あー。これは俺だけだ」


 ラムズは頭を掻きながら、ちらりとこちらを見て言ってきた。


「これも?! どうしてラムズだけ違うのよ」


 慣れてきたとは思ったけれど、毎度ラムズに関することには驚かされるわ。


「そんなに気にするな。本当は、ヴァンピールの寿命は200歳くらいだ」

「全然違うんだけど……」

「だから特別だって言ってるだろ」

「ふうん」


 納得できないけれど、ヴァンピールの中にも色々あるということかな。彼がそう言うんだし、そういうことなのね、きっと。


 自分で知りたいって思ったことだけど、訊き出すだけでもこんなに疲れるなんて思っていなかったわ。

 わたしが息を吐き出して椅子にもたれると、この部屋をノックする音が聞こえてきた。ラムズは立ち上がって、扉を慎重に開けた。

 この宿の店員だ。いかにも清潔さを売りにしているパリッとしているシャツに、黒のベストを合わせている。制服ってやつね。

 いつもは穏やかな笑みで接客をしているというのに、いつもとは様子がおかしいわ。なんだか焦っている? みたい。 


「シャーク様。実は知り合いだと仰っている方が一階で待っていらっしゃるのですが……」

「知り合い? 誰だ?」

「それぞれ、ジウ、ロミュー、レオン、アイロス、ノア、ヴァニラ、ロゼリィと申されました」

「……なんであいつらが急に? とりあえず分かった。迷惑をかけた」

「はい。なんだか気が立っておられるようですので、出来ればなるべく早くお越しいただけると助かります」

「ああ。すぐに行こう」

「分かりました。それではお待ちしております。失礼致します」


 店員はラムズの言葉に肩をなで下ろして、扉を閉めた。ジウたちが何かやらかしたんだろうか? それにしても一体どうして突然きたの? 

 気が立っているだなんて、ただ事じゃなさそう。


 ラムズは眉根を寄せながら、ゆっくりとこちらへ戻ってきて、椅子に座った。


「何が起こったんだ……?」


 ラムズのその声音には、純粋な疑問が浮かんでいた。 


「どうかしたの?」

「ジウやロミューは、俺の宿に来ることなんてほとんどない。来るための服も持っていないからな。気が立っていると言っていたよな。俺に怒っているのか? なぜ?」

「とりあえず行ってみましょうよ」


 わたしが疑問に思うくらいだもの、船長であるラムズがそう思うのも当然よね。でもラムズにも心当たりもないなんて、不思議ね。


「ああ……」


 ラムズは腑に落ちない表情で、席を立つ。わたしも椅子から立ち上がって、扉を開けて廊下に出たわ。ラムズはしっかりを施錠することを忘れなかった。

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