夜の海
【二次創作】
ココナッツ様による二次創作
参照『夜の海』
▶https://ncode.syosetu.com/n7989er/
・『第44話 愛と恋 後編』の続きとして、原作の流れや設定を変えて。
※二次創作は、あくまで書いてくださった方のイメージするキャラクター、ストーリーです。作者が公式設定として認めたわけではなく、紹介しているという形であることにご注意ください。
【キャラクター】
レオン、ラムズ、メアリ
#Rレオン視点 IF/青春/メアリ×レオン?/壁ドン
一人で出るには危ないと思いつつも、俺は外の空気にあたりたかった。理由は特にない。けれど、先程のラムズの様子と言葉が、なんだか頭の中で何度も反芻していた。
ラムズがなにをしようと関係ないことだけれど、気になって仕方がなかった。
──恋に落とすのは俺の知り合いじゃない。
ラムズはそう伝えてきたけど、やっぱりその相手はメアリなんじゃないだろうか。
そろそろ戻ろうかと『13人と依授』の宿屋の正面に向かうと、貴族を思わせる淡い水色のドレスに身を包んだメアリと鉢合わせた。海賊のボーイッシュな印象を湛えたイメージが頭の中で定着していたため、以前の姿が一瞬フラッシュバックする。
「メアリ、どうしたんだ? こんな時間に」
スカートの裾をはためかせてこちらにやってくるメアリの後ろを見やれば、ラムズが続いていた。
ラムズは駆け足で来たメアリと歩調を合わせずに続いて、四メートルほど後ろを歩いていた。
メアリはその言葉を聞くと俯き、俺から視線を外して答えた。
「ガ、ガーネット号に忘れ物しちゃって……」
たしか今のガーネット号は魔法で縮小され、ラムズの手元にあるんだったよな。
それをわざわざ解除させるなんて、ラムズは大した器じゃないか。
「え、そのために今から船を元に戻すのか?」
「う、うん。どうかしたのかしらね、ラムズ。機嫌がいいのかな……」
メアリは後ろからやってくるラムズを意識して小声でそう話す。ますます怪しい気がする。ラムズはわざとメアリに優しくしてるのか? つまりラムズが恋に落とす相手はメアリ──?
ラムズは作為を含んだ口調で俺に話しかけた。
「レオン、メアリには俺がついてるから早く宿に戻れ。襲われても知らないぞ」
その視線は同時に、邪魔者は消えろとも語っているような気がした。
俺はなぜ、この時こんなことを口走っていたのかわからない。なんとなく、俺も船に入りたいと思った。
いつになく、飄々とした口調で言った。
「いや、俺も行くよ。実は自分のカトラスおいてきちゃって。ばかだよな」
ラムズは強く俺のことを睨んだが、殺気はどうにか感じられなかったのでよしとした。
俺は不服なラムズにもう一押しした。
これでなんとかしてくれ。
「金のボタン全部あげるから、な、お願い!」
「本当か?!」
宝石においては、俺はラムズのことを信頼している。学ランのボタンがすっからかんになろうと、今は知ったことではなかった。
◆◆◆
「ラムズは船の前で、変な奴が来ないか見張りをしてくれていると嬉しいな」
「ああ」
おまけに外観をカモフラージュする魔法までしてもらった。すぐ戻るからな、と心の中で呟く。
メアリは航海をしていた頃よりも綺麗な赤髪を揺らしながらスタスタと瓶の中から出された船へ入っていった。
乗り込むときは、スカートの中が見えるんじゃないかってどきどきしたけど。
久々に乗り込んだ船。夜の静けさが広がる海と調和を取って、ぎしりぎしりと大きく音が鳴る。
金網の巡らされたハッチという船倉に続く蓋をメアリに代わって開け、二人して入った。
狭い部屋に詰められた大砲に圧倒されながらも、カトラスの収納ケースにそれらは幾重も突き刺さり、うちの一本を金属の音を立てて引き抜いた。
メアリは黙ってそれを見ていた。
「メアリは忘れ物取りに行かなくていいのか?」
カトラスを腰につけメアリの顔を見ると、パチパチと瞬かせた切れ長な目と目が合った。
この時メアリが話す内容なんて想像もつかなかった。
「私の忘れ物は、レオンの忘れたカトラスだったの」
「へ?」
「レオンが丸腰で歩いてるの見て、私びっくりしちゃった。エディに予備を貸してもらっているみたいだけど、世話係の私の面倒見が足らなかったなって」
「俺のために? メアリって優しいんだな……」
「そう? 頼まれた仕事を全うしているだけよ」
謙虚な振る舞いをするわけでもなく、いつものどこか猫みたいに冷たい瞳で俺を見ていた。
むしろいつものメアリだった。
なんだかふいにラムズとの会話が頭に浮かんだ。
俺はラムズに『好きな女の子の秘密や特別を見い出せ』と言ったが、俺たちは今ちょうど密室にいる。
いわばメアリの女の子らしさを見ることができるいい機会なんじゃないか。
少し変わったやり方で、けしかけてみることにした。
「メアリってさ、歌が上手いんだろう? ちょっと聴いてみたいな」
「どうして、突然そんなことを言いだすの?」
それは至極当然な反応で、メアリは目を細めて小首を傾げた。
「ラムズには探し物が長引いたって言えばいいよ。二人きりになれる機会なんてなかなかないからさ」
「レオン、なんだか今日変」
「いいじゃん、メアリの歌声が聞きたいんだよ」
メアリは訝しげな目を俺に向け、横に逸らし、いいけど、とぼそりと言った。
この子、恥ずかしそうにする様子はできるよな。
俺はメアリの心理が、ラムズと話をしてから気になって仕方がなかったのだ。
〜♪
小さく蚊の鳴くような声から、密室の船倉に木霊する程の音量まで広がった。
メアリも次第に楽しそうにしている。
聴いたことのないその唄は、すぐに俺の共感を掴み、メアリよりよほど小さな音量で鼻歌を口ずさみ、その空間は長引いた。
瞬間、船が大きく揺れた。
壁を背後にしていたメアリは背中を打ち、その前にいた俺はメアリの顔のすぐ横に大きく手を着くこととなった。
両者共々に目を瞑ったが、俺はすぐさま開いた。
だってメアリの顔が目の前にあったから。
不可抗力とはいえあと少しで顔が触れそうなくらい近づいていて、俺は心臓が痛くなった。
バクン、バクンと、心臓は俺の体に静止命令を出した。
「海が……反応しちゃったみたい」
メアリは申し訳なさそうに言った。
申し訳ないのは俺の方で、女の子に壁ドンしちゃったしラムズと今日あんな話をしたのにこんなことになっちゃって、爆発寸前だった。
「行こう、ラムズが待ってる」
自分からラムズを待たせようと言い出したくせに、俺は一目散に出口に向かったのだった。
☆『愛した人を殺しますか?――はい/いいえ』の翻訳者『夢伽莉斗』が、この続きをなんとなく予測して書いてみました。あくまで愛殺原作ではありませんが、この流れから言えばおそらくこんなことが起こったんじゃないでしょうか。
────────────────
俺たちが船から降りると、開口一番ラムズが言った。
「おい、歌ってたのか? なぜあんな所で?」
ドキドキする胸はまだ収まらない。隣のメアリはもう気にしてないみたいで、飄々とした顔で立っている。俺が返事をする前に、彼女が口を開いた。
「分かんない。レオンがなんか頼んできたの。よく分からないわよね。レオン、何だったの?」
──やばい。なんか二人に責められる流れになってる。困るって。俺は冷や汗をかきながら、にへらと口を歪めた。
「いやーなんとなく? 歌を聞きたいなーって……」
「変なレオン」
「お前は歌が好きなのか?」
「それは──」
いや、ここはそういうことにしておこう。ラムズの視線に肩を竦ませて言い直す。
「そうそう。そうなんだよ。女の子の歌声って綺麗だろ。それに人魚の歌なんて絶対綺麗だと思ったんだ」
よくもまぁこんな嘘がツラツラと……。でも、そうだ。実際人魚の歌ってのは気になる。メアリの歌声は本当に綺麗だったし、聴いておいて損ではなかった──はずだ。ラムズはまだ訝しげに俺を見ていたが、ようやく視線を外した。
「メアリ、船で何があった? 揺れてたよな」
「歌のせいで海が反応したの。海のことを思って歌ってたからかもしれないわ」
「それで船が揺れたのか、なるほど。他には?」
「あとはなんにも。ただレオンが倒れかかってきてびっくりしたけど」
ラムズは俺の方を見た。眼が嗤ってる。上から下まで視線を動かしたあと、メアリに言う。
「メアリ、こいつは人間だ。それは分かるな」
「分かるわよ」
「つまり人間のこいつは、お前に対して変なことを考えている可能性が高い。俺よりも他の人間よりも、まず一番にこいつを警戒しろ」
「は? どういうこと?」
「言ってみればレオンはお前を性的な対象として見てるってことだ」
なんかさっきからグサグサ来るんだけど……。晒し者にされた気分だ。ラムズは分かってて言ってる。絶対に。こんなことを言われたら俺がメアリに嫌われるじゃんか!
え、まさかそれを見越して言ってる? 俺はラムズにまだ怯えていたはずだけど、なぜか口をついて言葉が出た。
「おいラムズ、嫉妬かよ?」
「……はあ?」
「俺がメアリといい雰囲気になったから嫉妬してるってことだよな?」
「嫉妬? 嫉妬はフェアリーの持つ感情でしょ?」
一人だけ何もわかってない馬鹿──コホン。言い直す──ちょっと頭の弱い子がいる。ラムズは呆れた顔でメアリを見たが、すぐに俺の方へ向き直った。
「たしかに嫉妬深いのはフェアリーの特徴だ。あともちろん、人間も持ってる。他の使族も、恋愛をすればその感情を持たないわけじゃない」
「それで? ラムズは?」
今のは俺だ。ラムズは目を細めて俺の方を見る。唇を奇妙に傾けて言った。
「残念ながら俺に嫉妬の感情はない。お前とメアリに何があろうと気にしない。だが今回はお前の思惑通りに事が運んだから、嫌がらせをしただけだ」
自分でそれ言うか、ふつう。なんか腹が立ってきた。ラムズって俺のこと絶対嫌いだよな。
俺はラムズに言い返す。
「本当に嫉妬しないのかよ?! 俺がメアリにちょっかい出してもいいのか?!」
「ああ、どうぞご勝手に?」
ラムズはニヒルな嗤笑を瞳に載せて、俺に背を向ける。とうのメアリだけは、何が起こったのか分からず、目を白黒させて俺たちを見ているだけだった。