蛇と宝石
【二次創作】
阿東ぼん様による二次創作
▶ https://mypage.syosetu.com/1133581/
※二次創作は、あくまで書いてくださった方のイメージするキャラクター、ストーリーです。作者が公式設定として認めたわけではなく、紹介しているという形であることにご注意ください。
※改行のみ夢伽のほうで調整しております。
【?】
阿東ぼん様が作り出した蛇のキャラクターとラムズが出会い、戦うお話です。蛇のキャラクターの事前知識がなくとも楽しめます。
【キャラクター】
ラムズ
三人称視点 IF / 戦闘
人間としての自覚と、現実の姿は、あまりにもかけ離れていた。
森の中、彼はその長い体を木に巻きつけて音もなく移動し、獲物の頭上に忍び寄る。皮と筋肉と骨で形成された体を瞬時に爆発させ、目に留まらぬ速さで咬みつき、牙から毒を流し込む。それで獲物は死ぬ。
彼は蛇の化け物だった。
彼の日課は獲物を取り食事をすること。それと美しい石を集めること。
生命活動だけでは頭がおかしくなりそうだったので、人間としての自覚を保つために始めた。その甲斐あって寝ぐらには随分と蒐集品が溜まっており、中には断面に宝石らしき鉱物が埋まっているものもある。
ある日、彼のもとに客がきた。白い髪の美青年で、宝石まみれの海賊だった。海賊は彼を見つけると少しも怯まず近付き、しばらくじっと見つめた。
「……どの使族かまではわからんが、まあいい。おい、言葉はわかるのか?」
彼は驚いた。自分の知性に関心がある他者は初めてだったからだ。
しかし、蛇に発声器官があるはずもなく、彼にできるのは頷くことだけだった。海賊にはそれで充分だったようで、立て続けにこう言ってきた。
「お前が溜め込んでいる原石を寄越せ。そうすりゃ痛い目を見ないで済む」
彼は一気に警戒レベルを最大まで高めた。
蒐集品は自分にとって人間らしさの象徴だ。それを奪われるのは人間として殺されることに等しい。そんな思考回路が火花を散らし、筋肉に熱を入れ、牙に毒を滴らせた。
海賊は顔色を変えない。不気味に思いながらも彼は顎を開く。頭くらいなら丸呑みにできそうだ。
動き出した矢先だった。
言いようのない不安──否、恐怖に身を貫かれた。
『この男に喧嘩を売るのはまずい』と、人間ではなく蛇としての生存本能が警鐘を鳴らした瞬間だった。だがそれに屈するのはやはり人間性の喪失に等しい。
彼は理性を以て突撃した。
「ちっ、面倒な」
海賊の唇が震える。蒼い瞳は照準のように彼を見定めていた。刹那、光が迸った。衝撃と熱が彼を襲い、耐え難い痛苦をもたらすと共に痺れを残す。
雷だ、と彼の中の人間が言った。
逃げろ、と彼の中の蛇が言った。
──お断りだ。
逃走よりも闘争を選んだ。
木を這い登り緑の中に姿を隠す。人間としての覚悟だけでは足りない。蛇としての特性を活かさねば勝ち目はない。
海賊は少しばかり眉間に皺を寄せただけで動こうとしなかった。またカウンターを見舞うつもりか。ならば、と彼は海賊の頭上で尻尾を振るった。
枝が悲鳴をあげて折れる。海賊はステップひとつでそれを避ける。彼は繰り返し枝を薙ぎ払うが、海賊には掠りもしない。
やがて地面が枝まみれになり平坦な足場が減ってきた。九割が埋め尽くされたところで、初めて枝が海賊の衣服に引っかかった。
この時をずっと待っていた。彼は地面に降り、枝の隙間を縫うように身をくねらせる。枝によって相手の動きを制限し、こちらの動きは読ませないようにする作戦だった。
海賊の反応は目論見通り先ほどに比べて遅れている。あとは喰らいつくだけ。それで彼は人間としての尊厳を守れる。
「無駄だ」
再び、閃光。
周囲の枝が一瞬にして焼き払われる。彼もまた雷撃の餌食となり、体を黒く焦がしながら吹き飛んだ。
彼の決意など海賊には関係なかったのだ。どんな意思も力が伴わなければ意味を成さない。力こそが正義であり法である。
勝敗は、決した。海賊の勝利だ。
「枝を撒いて自分に有利な状況を作るところはよかったぞ。だが相手が悪かったな」
海賊が指先を向けてくる。次にあの電撃を喰らえば確実に死ぬ。彼はわずかな逡巡を経て財宝を差し出すことにした。
「……? ついてこい、と?」
首肯。
体に鞭を打って寝ぐらまで這いずる。
「ほう、これは」そうして海賊は石の一つを手に取り、「タンザナイトか! なかなか手に入らない貴重な原石だ」
別人のように嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お前がこれを持っていたのは運命だったのかもしれんな」
急に喋るようになったな、などと思いながら彼は首を傾げてみせた。
「タンザナイト……その石言葉は『誇り高き人』だ。お前はきっと宝石に認められたんだろう」
海賊は陽の光を反射した海みたいに煌びやかな蒼の瞳で笑う。
「だから俺も覚えておくぞ。蛇よ、お前はまさしく人間だ」
──それが海賊の残した最後の言葉だった。
原石はすっかり奪い去られた。けれど、彼の胸には言いようのない充足感が到来していた。
他者からの承認。初めて人間として認めてもらえたこと。それが新たな財宝になったからだ。
ゆえに彼は生涯忘れないだろう。
宝石が大好きな、とある一人の海賊のことを。