第53話 シルクハットな少女 -remake-
【半二次創作】
・Twitter企画[#みんなの小説を私の文体でリメイク]より
紅井エイル様による本編「第53話 シルクハットな少女」リメイク
参照『(仮題)#みんなの小説を私の文体でリメイクする』
▶https://ncode.syosetu.com/n6400es/
#Rレオン視点 アレンジ/リメイク
メアリたちと話した次の日の夜。
今日は街に出かけて、宿に帰ってるとこだ。
ちなみに俺一人で出かけた。アゴールのよく使う通りも覚えたし問題ない。
時間は……多分だけど十八時くらいか?
街灯が少ないから地球よりもめっちゃ暗い。
今歩いている通りもかなり人通りが寂しいことになってる。
足を早めた。
いや、男を襲うやつなんていないとは思うけどさ。
そうそう、魔法の方は宿でもけっこう練習している。
時の属性を使えそうな気配はないけどな。でも他の属性の魔法は大体出来るようになったんだぜ。
魔法の何が難しいって、結局はその時の判断力だってことなんだよなー。
どんな魔法を使えばサクッと倒せるか、っていうか。だからやっぱ、魔物や人と戦ったりしないとダメなんだよ。
あ、冒険者ギルドと海賊ギルドは両方とも登録を済ませた。だからいつか、ギルドのクエストとかやってみたい。
実戦はしていないけど、アイロスの爺さんとは練習がてらに戦ったことがある。あの爺さんめちゃくちゃ強くて、俺の魔法をかき消すような感じで戦っていたんだぜ。とても勉強になったなー。
あそこを曲がれば宿だな。良かった、ちゃんと覚えてる。
「ヤアヤア、こんばんは」
誰?
「え? お、おう。こんばんは」
とりあえず挨拶を返したけど本当に誰? この女の人、全く見覚えがないんだけど。
「君、なかなかいい匂いしてるネ。美味しそう」
「は? いや、どういうこと?」
「チョットいただくことにするネ。ダイジョーブ、痛くない痛くない……」
女の人が手をかざした途端、意識が朦朧としてきた。
なんでだろう?
彼女の笑みがとびきり可愛く見える。
でも……瞼が……。
「あれ〜。なんで〜」
◆◆◆
目を開けたら知らない天井。
ここは……どこだ?
確か……可愛い女の人に声をかけられて、それで眠くなって倒れたんだっけ……?
「起きた〜? ゴメンゴメン。君、全然魔法の耐性がないんだネェ」
かなり不思議な雰囲気の女の子が顔を覗きこんできた。
あ、さっきの可愛い女の人だ。
薄い緑色から、毛先にいくに連れて銀色に染まってる髪が目に入る。
長さは腰くらいか?
カールはしてないけどふわっとした感じだ。
斜めに流れる前髪が左目だけ隠している。
顔はかなり色白。
ちょっとおっとりした顔で、少しだけタレ目っぽい? 赤い瞳は大きいけど半開き。眠そうだ。
「えっと……君は……?」
「ハハッ。普段は自己紹介なんてしないんだケドネ〜。まァいっか。僕はミティリイル。ヴァンピールだヨ〜。さっきは君の血、チョット拝借させてもらったヨ?」
は!?
驚いて身体を起こし、彼女、ミティリイルをまじまじと見た。
身長はおそらく160くらいだな。
シルクハットみたいな薄紫色の帽子を被っている。
そこに大きなピンク色のリボンがついていて、その上もレースやら何やらで装飾がついている。
不思議の国のアリスとかに出てきそう。
服は少しゴスロリっぽい雰囲気もあるけど、なんか不思議系ロリって感じ?
胸の真ん中に、これまた薄緑色のリボンがあって、そこからぱっくりと割れたようなデザインのワンピースを着ている。
そして驚いたことに、お尻から白い猫みたいな尻尾が生えていて、耳にも大きくて白い猫耳が付いている。
つまり何が言いたいかというと、ミティリイルは絶対ヴァンピールじゃない。
ヴァンピールがこんな眠そうなはずがないだろ!
もっとなんか、こう、セクシーなお姉さんじゃねえの!?
「その……嘘だよな?」
「嘘? 本当だヨ〜。信じてくれないノ? じゃあお腹空いているし、またいただこうかなァ」
ミティリイルはそう言うと、ベッドに足をかけた。
そして俺をぽんと押してまた寝かせる。
ニコリと笑った。
といっても眠そうな顔でできる精一杯の笑み。
ゆっくりと開けられた真っ赤な口の中でギラリと牙が光る。
「それジャア、いただきマース」
覆い被さってきた。
そして、俺は首を噛まれた。
もちろん抵抗することも出来たさ。でもさ、女の子に押し倒されるなんて経験は滅多にできないじゃん?
もちろん俺はロゼリィのことが好きだよ!
でもロゼリィは最近俺のことを避けているみたいだし、たぶん恋愛はしないのかもしれない……。
まあ諦めモードってやつに入ってるよな。
正直な話、最初から無理だなとは思ってた。だってとんでもなく高嶺の花だぜ、ロゼリィ。
好きな人のことを考えて現実逃避してみたけど、うん、これは無理だ。
だってさぁ、俺の胸にミティリイルの胸があたっているんだぜ!?
気持ちいい……。
しかも耳に息がかかる。
ヤバい、異世界最高ー!
抵抗する気が失せたからそのままミティリイルに身を委ねた。
「んッ……はァ。これくらいで、いいカナァ……。んんッ……」
あ、ちょっと俺のレオンが……、その……。
まさかミティリイルに気付かれてないよな?
密かに腰を動かした。
ミティリイルはまだ吸っている。吸われても全く痛くはない。
それよりもなんていうか、全身が痺れてきてぼーっとしてくる。で、宙に浮いた感じでフワフワしてくる。
吸われているところは敏感になっているのか分からないけど、かなり気持ちいい。
本当に気持ちいい。
「ッはァ! おしまいネ。美味しかった〜。アリガト。これで本当にヴァンピールって分かった〜?」
ミティリイルは体を起こし、腰の上に跨がったままで自慢げな顔でそう言った。
早くどけよ!――なんて無粋なことは口にしない。そんなことは思ってもいないからな。
尖った牙も、赤黒い瞳も、たしかにヴァンピールらしいといえばらしい。
でも俺の中のヴァンピールの女の子ってこんなイメージじゃなかった……。
こんなんじゃなかったけど、これはこれで、可愛い。
「おう……。信じなくてごめん。ちょっと見た目の雰囲気が違すぎてさ」
「ソウ〜?」
「そもそも、なんで猫耳を付けているんだ?」
「あァこれネ。僕ケットシーの獣人に憧れているんだ〜。かわいいジャン。だからそれの真似だヨ」
たしかにケットシーの獣人はかわいいよな。
ミティリイルも十分可愛いと思うけど。
俺の上に座ったまま、ミティリイルはコテっと首を傾げた。
可愛い。
「えっとォ〜。君の名前は?」
「俺は怜苑・川戸。人間だ」
「うんうん、分かるヨ〜。ダッテ人間じゃなかったら血を飲まないからネ〜」
「たしかにそれもそうか。いや待って、そうだよ、なんでいきなり襲われたんだ?! 」
「違うんだヨ〜。いつもなら、その場でちょっと魅惑魔法をかけて、パパっと飲んで、そのままバイバイってするノ。でも君が倒れちゃうからさァ」
「そういえば俺に魔法耐性がどうとか言ってたな……」
下からミティリイルを見上げる。重くはないけどさ……なんだかイケナイことをしているような気分になる。
彼女の服はさほどセクシーなわけじゃないが、例のど真ん中のリボンの上から覗けば、たぶん谷間が見える。
でも今は上に乗っているせいで見えない。
その代わりというかなんというか、下が際どい感じだ。タイツだしワンピースだし……。
もうちょい、もうちょい……くそっ見えないか……。
胸はけっこうデカい。
ロゼリィほどじゃないから、うーん……多分Dくらいかな。ヴァニラくらい。
メアリよりは大きいな。
人魚ってほぼ裸同然なのに、割かし小さめのメアリって、ちょっと同情するわ。こんなこと口が裂けても言えねえけど。
ミティリイルは眠そうな瞳をパチパチ瞬かせる。
「魔法耐性がないっていうのは、魅惑魔法や状態異常にほとんどかかったことがないってことだヨ」
「言われてみれば、俺そういうのかけられたことないや」
「じゃあ僕が君の処女を奪っちゃったんだネ。ハハハ〜」
処女……ね。
女の子からそういう言葉を言われるとちょっとドキっとする。
ミティリイルは頭のシルクハットをきゅっと押し込んだ。
さっき血を飲んでいる時にズレてしまっていたらしい。
そしてミティリイルは、ようやく俺からどいた。
ベッドからぴょんと飛び降りる。まるでネコみたいだ。
俺も身体を起こして部屋を見渡した。ここはどこかの宿屋みたいだ。
ミティリイルの家の部屋にしては物が少なすぎる気がする。
俺が今泊まっている宿屋と同じく、木の机と椅子、小さな窓がついている。床には彼女の荷物が散乱していた。
あれは……槍?
「レオンだっけ? どこから来たノ?」
「あー」
海賊って言っちゃっていいのかな。一般人にはどう思われてるんだろう。まあいっか。
「海賊船で、ちょっと……」
「海賊船? レオンは海賊なんだァ。なかなかイカしてるネ」
一応好感触みたいで良かった。
ミティリイルは、ふんふんと頷きながら俺のことを見ている。イカしてると言ったわりには、眠そうなままだ。可愛いけど。
腰に刺さったカトラスの方に視線を向けられた。
「あぁ、これ? 俺はまだ新米だから、全然カトラスは出来ないんだよ」
「そっかァ〜。いつか戦っているところとか見たいナ。ちなみに僕はソロの冒険者なんだ」
「一人なのか? 誰かとやらないの?」
「ウーン。パーティは組みたかったけど、ヴァンピールだとなかなかネ」
「ヴァンピールって人間に嫌われているのか?」
「ン〜。微妙なところかなァ〜。好きな人も多いんだけど、好きな人が苦手なんだヨ、僕。眷属にしてーって言ってくるからサァ」
「そういえばヴァンピールの血を飲むと眷属になるんだっけ?」
「ウンウン。その話してもいいけど、帰らなくていいノ〜?」
「あ、そうだった! ごめん。また会えるかな?」
慌ててベッドから立ち上がった。
「会ってもいいよォ。あんな魅惑魔法で倒れちゃう人間なんて、久しぶりだしチョット面白かったからネ」
ミティリイルは部屋の扉を開けて、そのまま廊下へ出る。
俺を外まで送ってくれるみたいだ。
今更だけど、どうやって俺のことを運んだんだろう。
全然力は強そうに見えないし、ヴァンピールってそんな能力もないよな……?
魔法かな?
なんか想像するとかなりシュールだ。
ミティリイルは、俺が襲われた辺りまで送ってくれた。
靴は薄緑色で、先がくるんと丸まってる。どこかの妖精みたいな靴だな。見た目はほんと、不思議な感じだ。
「じゃあ、またネ〜。まだまだ宿にはいるから、いつでも来ていいヨォ。血の提供、待ってる〜」
「お、おう」
俺はちょっと笑って、彼女の方へ手を挙げた。
ミティリイルはゆっくり小さな手を振っている。そのあと、タタタッとネコのように素早く駆けて道の角に消えていった。
彼女の宿の場所は覚えた。明日か明後日にでも、また訪ねてみよう。