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愛殺 ─あいころ─ 二次創作集  作者: 愛殺読者様
10/28

第45話 高潔な涙 -remake-

【半二次創作】

・Twitter企画[#みんなの小説を私の文体でリメイク]より

 ココナッツ様による本編「第45話 高潔な涙」リメイク


参照『企画『みんなの小説を私の文体でリメイクする』みなさんの作品を私の文体でリメイクしてみた!』

▶https://ncode.syosetu.com/n7955es/


【キャラクター】

ラムズ、メアリ



#Mメアリ視点 アレンジ/リメイク

 『13人と依授』の一階で、わたしはラムズに声をかけられた。今まで話していたリューキに挨拶をして、わたしたちは部屋に向かう。

 近くにいた怜苑やロゼリィも、もう自分たちの宿に帰ったようだ。




 わたしが先に部屋に入り、ラムズは扉を閉めて鍵をかけた。ギイっと大きな音を立ててドアは閉まり、明かりのついていない部屋内は月明かりだけが頼りとなった。

 部屋は、密室となった。


 黄色い月が窓から見えて、それが部屋を怪しく照らしている。ベッドを見やると反射した月明かりのせいか、白さだけが薄明かりの中ぼんやりと闇に浮かんで見える。



 ラムズは部屋にある、小さな棚に置いてあった服を手に取った。


「これ、着替えておけ。寝る時に着るものだから」

「え? 分かったわ……」


 いちいち服なんて着替えるとは思わなくて、人間の習慣に感嘆した。


 今まで寝る前に着替えたことなんてないから、動揺しているままに服を受け取ると、ラムズはまたわたしに綺麗にする魔法をかけた。

 全身に魔法をかけたせいか、少しよれていた服も元通りになる。この魔法、やっぱり便利。わたしも使えるようにしようかな。今度教えてもらおう。



「まだ鱗は変色しているんだろ?」

「ええ、まぁね……」

「じゃあ俺が後ろを向いている間に着替えろ」


 鱗のこと、忘れていた。服に隠れていつもは見えないから……。

 思い出すと落ち込む。だって本当に、見ていられないくらい汚かったから。身体についている鱗は段々自然治癒していくと思うけれど、治るのにどのくらいかかるんだろう。


 ラムズが背を向けたので、わたしは急いで着替え始めた。なるべく私自身も鱗を見ないようにして。

 ラムズにとってわたしの鱗は宝石と同じだから、変色した鱗を見るのは辛いんだって、ジウが言ってた。わたしの鱗のことを同じくらい悲しく思う人がいるのは、辛い気持ちがちょっとは和らぐかな。


 ──あ、さっき着ていた服よりも着やすい。たしかにこれで寝る方が身体を休めることができるような気がする。




 着替えが終わったので、ラムズに声をかける。わたしはベッドに座った。ぼふんと音がして、船に置かれているベッドより、よほど柔らかかった。


「もう寝るわ。疲れちゃった、お酒も飲んだし」

「また飲みすぎたのか?」

「飲みすぎてないわよ。この前みたいに倒れてないでしょ」

「ああ、たしかに。リューキはけっこう飲ませてくるからな。気をつけろよ」


 はあい、と適当に返事をして、倒れるようにベッドへ横たわった。ベッドは部屋の左側に縦向きに置いてあり、片側が壁にくっついている。だからわたしはラムズが寝られるようにするためにベッドの左側に体を寄せた。

 布団を掛けて、首まですっぽりと収まる。枕は一つしかなかったから、同じく枕の左側に頭を載せた。

 二人で寝るんだから、枕くらい二人分用意してくれてもいいのに。そう思った。これじゃあ船のハンモックの方がまだ寝心地いいかも。



 布団の中でラムズを見ていたけれど、彼は一向にベッドに入る気配がない。着替えてもいないし。わたしは目を細めて、訝しげな視線を投げかける。

 まだ眠くないのかな。でも後でラムズが布団に入ってきて、起きちゃうのも嫌だし。


「ねえラムズ、寝ないの?」

「俺は別に眠くないしな」

「でも寝ないと起きられなくなるわよ。せっかく空けたんだから寝たら?」


 わたしはそう言って、布団の右側をぽんぽんと叩いた。ラムズは小首を傾げている。わたし変なことしたかな、もしかしてもっと空けてほしいってこと?

 気持ち左にずれたら、ラムズはベッドに腰掛けた。ぎしりとベッドが軋む。


 ラムズは私の瞳を見ていた。

 心配になって、もう少し待ってみても、ラムズは座っているだけで一向に寝ようとしない。 まだ狭いと思っているのかしら。でもわたしはもう壁のギリギリまで来ているんだけどな。


「寝ないの?」

「そんなに寝てほしいのか。そこまで言うなら、じゃあ寝てやるよ」


 ラムズは面白そうにわたしを見たあと、隣に寝転んだ。布団はかぶってない。

 そこまで言うならってよく分からないけど、あとで起こされるよりいいわよね。とりあえず横になってくれてほっとした。わたしは疲れているから、できれば朝まで寝ていたいの。

 船では交代制で寝るせいで、いつも少ししか寝られない。夜に三時間寝たら交代して、また昼頃に寝たりとかね。長い時間寝続けることってあんまりないわ。今日はせっかく、たくさん寝られる日なの。



 それにしてもベッドが狭いわね。ちょっと動いたらラムズに当たるし。もしもラムズが寝相悪かったらどうしよう? あ、でも、わたしの方が壁側だから、ベッドから落ちる心配はないか。

 ラムズはしばらく仰向けで寝ていたけど、わたしの方を向いて、枕の上で頬杖をついた。


 ……なんだろう?


「メアリ、サフィアという男の話、どうなった?」

「え、あぁ……」


 そういえば、いつか教えようかなって思ってたんだっけ。

 わたしは身体をもぞもぞと動かした。布団に足が当たる。布団に入るって行為も、わたしには今も違和感しかない

 最初に陸を歩いた時は大変だったわよ。というか歩けなかった。頑張って練習したの。すごいでしょ?


 ベッドで寝ることも、陸を歩くことも、跳ぶことも、毎日太陽に照らされることも、全部、変な感じがしている。下半身が人間になってからもう二年経つけど、わたしはまだ慣れなかった。


 そして、海が恋しかった。


 視線を下に落として、いつだってあの快適さを思い出すことができる。わたしはあの場所が好きだ。思い出すと同時に、胸がちくりと痛んだ。

 でも、これも全てわたしが悪かったんだ。だって『人魚の呪い』の話は知っていたのに、人間を好きになったんだから。どうして好きになっちゃったんだろう。ううん、そんなの分かってる────。



 あと二年で見つけられるかな。よく思い出してみれば、やっぱりサフィアは貴族だったような気がする。貴族のことは陸に上がってからもあまり分かっていないけど、でも普通の人より豪華な服を着ているってくらいは知ってる。そして彼も、そうだったと思う。

 それに彼と最後に別れた時、やってきた衛兵たちが彼のことを守っていた。人魚は危険だから、ってね。その衛兵の一人に、攻撃されそうになったことも覚えてる。



 考えたくなかったけれど、やっぱり彼は貴族なんだと思う。でもそうしたら、どうやって見つけたらいい。海賊が、しかも半分人魚のわたしが、どうやって貴族と繋がりを持てばいいの──。わからない。


 どうしてあんな馬鹿なことしちゃったんだろう。彼と何度も会ったりなんて、しなきゃよかった。1回だけならきっと恋に落ちることなんてなかったのに。

 人間の足なんて────。

 彼と、出会わなければよかった。



「メアリ」


 低く冷たい温度の声が、わたしの耳に触れた。そのあと、頬にひんやりとした何かがつーっと動いた。ラムズの手だ。

 彼の手が湿っているのを感じて、わたしは自分が泣いていたことに気付く。それに気付いたら、また涙が零れた。

 目尻から落ちた雫が一筋の線を作って、ラムズがそれに触れた。あまりに冷たい指に、わたしの瞼がパチパチと瞬く。 


 わたしはラムズの手をどかした。

 ラムズの冷たい体温に熱が伝わる余裕もないほどに、彼の手は芯から冷たい。


「……あんまり、見ないで」

「暗いから見えない」

「……でも泣いてるの、分かったんでしょ」


 布団をもっと上までかぶって、わたしはそうくぐもった声で呟いた。

 泣き顔を人に見られるなんて。人間の足ってだけでもう人魚として恥晒しなのに。わたしって本当、ダメね。

 この前鱗が変色していた時も涙が止まらなかった。ノアが気を遣って出ていってくれたから、まだ良かったけど。

 そしてわたしの鱗はまだ、みるに耐えない姿だ。



「見られたくないのか」

「……ええ」

「人魚はみんな涙を見せない?」

「え? あぁ、たしかにそうかも。誰の泣いた顔も見たことないわ。みんな泣かないのかもね」

「人魚は高潔っていうからな。だから誰かに泣いているところを見せたくないのかもしれないな」

「そっか。そんな話聞いたことあるかも。でも、こんなに泣き虫なのって、嫌よね」

「水の神ポシーファルは、悲しみの神だとも聞いた」

「そっか……。じゃあ、仕方ないのかな」

「ああ、気にするな。サフィアのことを話さないのも、同じ理由か?」

「うーん、その。誰も協力してくれなくなっちゃうかなって」

「……そうか」


 布団から顔を出したわたしの耳元に、ラムズの冷たい息がかかる。本当のことを言うと、寒いわ。

 わたしは話そうか迷った。ラムズは人間じゃないみたいだから、もしかしたら軽蔑しないかも。むしろ助けてくれるかもしれない。あの時もそう言ってくれたものね……。


 そっか。だって、今まで一人で探していても見つからなかったんだ。それなら違うやり方を取る方がいいはず。同じ失敗を繰り返すのは良くないわ。


 ──やっぱり、話してみよう。



「……あのね」

「ああ」

「わたし、足が人間でしょ」

「そうだな」

「『人魚の呪い』なの」

「呪い?」

「うん。あと二年以内に解けなかったら、人間になっちゃう」

「ああ」

「身体の鱗が消えて、使族が変わっちゃうの」

「……なるほど」

「わたし、人間の足なんて嫌なの」

「人魚でありたいからか?」

「うん。人魚なのに、変でしょ。人魚じゃないわ、こんな姿」

「それで?」

「だから、戻したいの。でも戻すためには──」

「ああ」


 瞼から、また涙が落ちた。そしてもう止まらなくなって、はらはらと涙が零れていく。歪んだ視界が、故郷である海の中にいるみたいに連想させてより涙を誘う。

 嫌なの、本当に嫌なの。

 いつも夜に泣いてたのは、そのせいだったの。

 ラムズに涙を見られるくらいなら、ちゃんと直しておくんだった。船の中じゃみんなイビキをかいて寝ているし、こんなに近い距離でもないし、宿ではただ一人。直す必要はないから心のままに泣いてた。


 ──あーあ、嫌だなあ。人間の足なんて……。



 ラムズは、また手を伸ばしてわたしの頬に触れた。涙を拭ったあと、彼はわたしの身体を横に向ける。

 月の光は、なんだか忍び寄るみたいにしてラムズの顔を照らしていた。髪の毛がダイアモンドのように煌めく。あんまり綺麗だから、涙を乾かし、わたしはそれに見とれた。

 ラムズは宝石が好きだけれど、彼自身もそれのようだった。


 ラムズはわたしの頭にポンと手を載せた。



「戻すために、どうするんだ?」


「…………サフィアを、殺すの」



 憤怒が混ざり、ラムズを睨んでいるかのような形になった。

 彼の髪の毛は、依然光っているままだった。

 サフィアへの怒りの気が途切れた頃にまた涙が溢れて、視界が水浸しになった。ラムズはわたしの顔に、そっと触れた。彼の顔は無表情のままだけど、なんとなく優しい瞳をしているような気もする。

 ラムズはしばらく、何も言わなかった。



 わたしは小さな声で、ごめんと謝った。こんな悪い雰囲気にして、申し訳なくなったのだ。人を殺すために探しているなんて、やっぱりラムズも軽蔑したのかもしれない。


「なぜ謝る?」

「軽蔑……したかなって」

「今更だろ。俺が宝石を盗まれて殺しているのも、軽蔑されていてもおかしくはない」

「それ、気付いてたんだ」

「まあな」


 ラムズはふっと唇を歪ませた。

 ラムズはわたしの頭から手をどかして、さらさらになったわたしの髪を撫でた

 海の中じゃ髪は揺れているから、あんまりこういうことをされたことがない。陸ならではな経験だ。頭に手を乗せて動かされるのって、不思議な感覚。


「……協力、してくれない? きっと貴族だと思うの。貴族の知り合いなんて、いなくて」

「ああ、分かった。俺もあまり多くはないが、当たってみるよ」

「ありがとう」


 ラムズはわたしの頭の方を見て、そのまま髪を撫でている。だから目は合わない。

 不思議な感覚はわたしの頭を撫で続け、内に浸透していくようだった。これにもいずれ慣れてしまうのかな。今のわたしは陸に住んでいるから。

 彼の瞳をじっと見た。青色の眼は濁り一つなく澄んでいて、朝の海みたいだ。わたしも同じ青色なんだけどね。わたしの目なんてこんなに綺麗だったかな。

 ラムズの海の色をした目はわたしの心を少しずつ落ち着かせた。



 わたしはふと、ヴァンピールについて思い出した。青い瞳とは対照的なイメージがあるけど、むしろだからこそ思い出したのかもしれない。


「ねえラムズ」

「なんだ?」

「ラムズってヴァンピールなの?」


 ラムズは一瞬髪を触っている手を止めた。でも、またすぐに動かす。表情からは何も読み取れない。


「どうしてそう思う?」

「だって……いつか言ってたわ。ブラッドを飲んでるって。ブラッドって、血のことでしょ」

「ああ。そうだな」


 ラムズはわたしの髪を触りながら、じっとそれを見ている。何かを考えているみたいだ。

 あの時ラムズが船長室で飲んでいたあれ。ドロドロしていて、色も赤黒くて、本人の言う通り、あれはブラッド──血だった。

 ラムズはやっぱりヴァンピールなんだ。だけど教えたくないのかな、自分がそれだって。


 ラムズはすっと髪を梳いたあと、口を開いた。


「ああ、俺はヴァンピールだ」

「……そっか。ヴァンピールって、魔力が無限だったのね」

「リューキに聞いたのか」

「ええ」

「そうだな、無限だ」

「わたしの血は飲みたくないの?」

「飲みたい」


 どきりとした。わたしの台詞に被せるように、ラムズはそう言った。髪の毛を触るのをやめてわたしの事をじっと見下ろしている。

 ラムズから目を逸らす。人魚の血でも、いいのかな。もしかして人間の血が……混ざっているのかな。


「まあ、今は大丈夫だ。腹も減ってないし」

「血は全部は飲まないんでしょ?」

「ああ。だから飲まれても死んだりしない」

「普段はどうしてるの?」

「テキトウに飲んでる」

「美味しいとか、あるの?」

「んー、あるかな。メアリのは、美味しそうだな?」


 ラムズはそう言って、わたしの頬をさらりと撫でた。ひやりとして、全身に鳥肌が立った。彼はもう寝ろ、と言って仰向けになる。



 しばらくして、わたしも天井の方を見た。冷たい手だったはずなのに、ラムズに触られていた髪や頬が、僅かに熱を持っている気がした。

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