3.無理難題に対して
――どうして、こうなったのか。
私は頭を抱えていた。いいや、それでも一番困惑しているのはレオくんだろう。
彼はいま、隣で呆然自失としていた。それもそのはず。アレほどまでに一方的に、かつ高圧的に『決闘』を宣言されたのだから。しかも、いつの間にか承諾したとして国中に流布されているのだから、驚きだった。
「ボク、どうすればいいのでしょうか……」
そう、涙目で呟くレオくん。
その居た堪れない表情に、私は思わず唇を噛んでしまった。
「どうするも、こうするも――」
――私も分からないよ。
その言葉を、必死に呑み込んだ。
正直な感想ではあるが、これをいまの彼に伝えては絶望しかない。
「……とりあえず、作戦を練りましょう」
なので、こう口にした。
だがしかし、これといって思い浮かばないのが現状。
表情に出さないよう気を配りながら途方に暮れた私は、ひとまずこれまでの経緯を思い返すのであった……。
◆◇◆
『――はい、決闘?』
『あぁ、そうだ。俺――カイウス・アインツヴァイは、この少年レオに決闘を申し込む。勝った方がエレナくんをパーティーに入れる権利を得る』
『な、なにをそんな勝手に……!?』
唖然とする私であったが、意外にもレオくんは反論の声を上げた。
しかし、カイウスの次の言葉で黙することになる。
『なにも勝手ではない。俺は手に入れたいモノは、力づくにでも手に入れる。それこそ我が信条であり、冒険者カイウス・アインツヴァイの在り方だ!』
『いや、思い切り矛盾しているではありませんか!?』
代わりに、声を上げたのは私。
といってもそれは、反射的に口をついて出たツッコみだった。
『エレナくん。キミにとっても悪い話ではないだろう? 私のもとに来れば、一定の地位を保証しようではないか。それは、一人の冒険者として手に入れられる物では、なかなかないぞ』
『そんなモノ、私は望んでませんし! 勝手に話を進めないで!?』
『まぁ、なんて粗暴な口振り。無礼な人でしょうか!!』
『カイウス様の申し出を断るなんて!!』
さて。そんなやり取りをしていると、取り巻きの女性たちも参加してきた。
どうやら彼女たちは、カイウスの親衛隊に近い存在らしい。彼の申し出に反発する私に対して、ブーイングの嵐が鳴り止まなかった。
『………………』
なんだろうか、これは。
私は間違っていない。その確信があるはずなのに、完全に気圧されていた。
しかし、その沈黙をカイウスはどう勘違いしたのか。一つ大きく頷いてこう宣言するのであった。
『うむ。それでは、レオくん――明後日を楽しみにしている!』
『え、ちょっ……!?』
――明後日!?
勝手に日程まで決めて、去って行ってしまった!
『レオくん、どうしよう……』
私は苦笑いをしつつ、少年を見た。
すると、そこにあったのは――。
『――――――――――』
立ったまま意識を失っているレオくんの姿だった……。
◆◇◆
そんな感じであった。
いま、私たちはギルドの談話室で話し合っている。
けれども結論は出ないまま。レオくんも、すでに戦意喪失状態――。
「――でも、許せません」
「え……?」
だと、思っていたら。
唐突に少年の口から聞かれたのは、そんな言葉だった。
見ればどこか、今までにない強い視線を向けるレオくんの姿。
「あの人――カイウスさんは、エレナさんを『モノ』扱いしていました。ボクには、それがどうにも許せないんです。どうしても、です……!」
そして、彼が口にしたのはとても男らしい一言だった。
幼い顔立ちの彼。だが今だけは、あのカイウスの何倍も格好良かった。
「レオくん……」
そんなレオくんに、私は思わず胸が苦しくなる。
なんだろうか、この気持ちは。いいや、今は置いておこう。
せっかくの彼の申し出だ。それに、こちらが迷っていては申し訳ない。
「分かった。時間はないけれど、特訓しよう!」
「……はい!」
だから、私も前を向くことにした。
私なりに出来ること。それは、何かしらがあるはずだった。
それを探そう。諦めるのはまだ早い。それに――。
「――あの勘違い男に、お灸を据えてやりましょう!!」
こっちだって、腹が立っているのだから!
私とレオくんはお互いに手を取り合った。せっかく、しがらみのない自由の職に就いたのだ。こんなところで、手放してなるモノですか――!
そんな一日の終わり。
あまりに急展開な決闘への準備が始まるのであった……。