2.カイウス・アインツヴァイ
「貴方は、何をおっしゃっているのですか……?」
「はっはっは! この俺に声をかけられたのだ。思わず呆けてしまうのも仕方あるまい! 俺のパーティーから誘いを受けるなど、嬉しくて言葉もないはずだ!!」
「……………………」
……何言ってんだ、コイツ。
私は思わずそんなことを思ってしまった。
カイウスは大きな声でそう言うと、その美しい顔にニタリと笑みを浮かべる。この言葉遣いからして分かるのだが、どうにも自信過剰な人物らしい。――どこかの誰かさんを思い出した。
「それでは、返事を聞こうではないか!」
沈黙をどのように受け取ったのだろう。
赤髪の美形剣士は、したり顔でそう口にした。
「いや、急にそんなこと言われても……」
「うむ、分かるぞ! 俺には分かる! あまりに幸福な出来事に困惑しているのだな! なに、心配するな。今までの女もみな、そうだったからな!!」
こちらが唖然としていると、さらに重ねてそう言うカイウス。
彼はうんうんと、自分で納得したように何度も頷いてから、改めて私を見た。
「それでは後日、答えを聞くとしよう。色好い返事を期待しているぞ!」
そして、最後にそう言い残して去って行く。
よく見れば、彼の行く先には多くの女性冒険者が待っていた。
「………………なに、あれ」
その様子を見て。
私は、死んだ声でそう言った。
するとそれに応えたのは、意外にもレオくん。
「カイウス・アインツヴァイ――有名なAランク冒険者ですよ」
「……Aランク冒険者?」
彼は少し挙動不審に、小声でこちらにそう話した。
こちらが頭の上に疑問符を浮かべていると、さらに説明してくれる。
「冒険者には、最高でSランクから最低のEランクまであるんです。カイウスはSランクの一つ下のAランクなので、かなりの強者、ということになります」
「……へぇ。アレが」
たしかに、他の冒険者とは違う印象だった。
色んな意味で。
「それに加えて、です。カイウスはあの有名な貴族、アインツヴァイ家の子息でもあります。なのでこの国のギルドでもある意味で特別な存在なんですよ」
「へぇ~……貴族、ねぇ」
私はしかし、生返事しか出来なかった。
言ってはなんだが、とてつもなく興味がなかったのである。
Aランク冒険者であろうと、貴族出身であろうと、ここにいる以上はみな平等のはず。自由を謳う冒険者が、そのようなしがらみは関係なかった。
だから、私は本当に興味が持てなかったのである。
ただ一つだけ、気になることがあったとすれば――。
「――アインツヴァイ、って。どこかで……」
聞いた覚えがあった。
まぁ、思い出せないのならその程度、ということに違いなかった。
◆◇◆
「レオくん、そこで大きく深呼吸して? そう、ゆっくり……」
「は、はい……」
私とレオくんは二人で、森の只中にいた。
それというのも、魔法使いとしての特訓のため。
昨日の戦闘の時に思ったのだが、彼は決して魔法が使えないわけではなかった。ただしかし、緊張によって集中力が途切れてしまう。そこが難点であった。
「さぁ、もう一回。ゆっくりでいいからね?」
「ふぅ……!」
それを確信した私は、レオくんに簡単ながら詠唱のコツを伝授する。
そして、彼はようやく――。
「【フレア】……っ!」
――その言葉と同時に、大きな発破音。
目の前にある大きな岩に、火炎弾が直撃した。
轟、という音と共に。頑丈そうに思われたそれにも、大きな亀裂が走る。
「うん。上出来だね! もっと集中力を高められたら、きっと破壊できる!」
「ほ、本当ですか!?」
私の言葉に、レオくんはパッと表情を輝かせた。
愛らしい年下の男の子のそれに、思わずキュンとしてしまう。が、いまはそういう場ではないので、咳払いを一つ。お手本として、こちらも【フレア】の詠唱をした。そして――。
「【フレア】――っ!」
――並び立っていた、もう一方の岩に目がけてそれを放つ。
すると、けたたましい爆発音と共に。大岩は粉々に砕け散るのであった。
「す、すごいっ! エレナさん、魔法も使えるんですか!?」
「あぁ、いや。昨日の夜にちょっとね、お兄様から魔法の入門書を借りて勉強してみたの。それをとりあえず、実践してみただけで……」
「それで出来ちゃうなんて、やっぱり凄いですよ!!」
こちらが謙遜すると、レオくんは首を大きく左右に振って言う。
私の得意とするところは治癒魔法なのだけど、これだけ喜ばれるなら――今後のためにも、攻撃魔法の勉強をしておくのも悪くないのかもしれなかった。
ふむ。護身術の鍛錬以外にも、となるとなかなか大変になるわね……。
「やぁ! 奇遇じゃないか、エレナくん!!」
「え……?」
そんなことを考えていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえた。
声の方向をみると、そこにいたのはカイウス。彼は取り巻きの女冒険者たちを引き連れ、ニヤニヤとして歩み寄ってきた。四~五人は連れていたかな……。
「なんだ、そこの子供は。そういえばギルドでも一緒にいたと思うが……」
そこに至って、カイウスはようやくレオくんの存在を認識したらしい。
彼は眉間に皺を寄せて、顎に手を当てた。
「えぇ、彼はレオくん。私のパーティーメンバーです」
「なに!? パーティーだと!!」
私が答えると、何やらカイウスは声を荒らげる。
そして、何を思ったのか――。
「――決闘だ!」
そんな宣言をするのであった。
「は……?」
「へ……?」
私とレオくんは同時に間の抜けた声を発する。
しかし、これがまた面倒なことになっていくとは……。
「エレナくんを賭けて、決闘だ!!」
思ってもみなかった――。
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