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2.仲間が出来ました






 【依頼板】には、様々なクエストが書かれた紙が貼りだされていた。

 私は人の波を掻き分けながら、ボンヤリとそれを見上げる。魔物の討伐に、鉱石の採掘、さらには薬草の採集。他には隣の国までの護衛、などというのもあった。

 今回、私が探しているのはとりあえず近場でのクエストだ。


「……それで。やっぱり、初心者となると薬草採集、とかがいいわよね」


 ひとまずは、この国――リディアからは出るつもりはない。

 その上で今の私に出来そうな依頼となると、やはりそんな簡単なモノになるのであった。しかし、見ていて気付くことが一つある。それは、パーティー人数制限、というモノ。なにやら、一部のクエストを行うには複数人で受注しなければいけないらしい。


「あぁ、そうなると。最初は誰かと一緒に行った方がいいのかな……」


 だったら、まずは仲間集めか。

 でも、こんな駆け出しをいきなり入れてくれるパーティーなんて……。


「そんな簡単にはいかないわよね。それなら、今日は大人しく薬草を――ん?」


 と、そう考えた時だった。

 後方から、何やら怒号が聞こえたのは。


「ふざけんじゃねぇぞ、このガキが!!」

「すみませ――うわっ!?」


 そこにあったのは、一人の少年が大人の冒険者に足蹴にされる光景だった。

 少年は尻餅をつく。その際にどうやら、ついた手首を捻ったらしい。私は痛がる彼の姿を目にした瞬間、まるで放たれた矢のようにそこへ駆け寄っていた。


「キミ、大丈夫? ――ちょっと見せて」

「え、お姉さん……誰?」

「いいから、ほら……」


 半ば強引に、私は少年の手を見る。

 すると分かったのは、完全に骨が折れてしまっていることだった。患部は赤紫色に変色して腫れている。このまま放って置けば、決して良くないことは明らかだった。そのため、私は本で学んだ【治癒魔法ヒール】を試みる。


「――――――――」


 意識を集中すると、淡い光が生まれた。

 そして少年の傷を癒していく。


「あれ、痛くない……?」


 しばらくすると、彼は不思議そうに呟いた。

 どうやら私程度の力でも、治癒できるモノであったらしい。

 ホッと息をつく。だがしかし、まだやるべきことが残っていた。


「貴方たち、こんな小さな子に暴力を振るうなんて何を考えてるのですか!?」

「あァん? なんだ、よく見たら貴族の嬢ちゃんじゃねぇか。なんでそんな奴が冒険者ギルドなんかにいるんだ? ――あぁ、依頼者か」

「違います! それに、話をはぐらかすんじゃありません!」


 それは、少年に危害を加えたことへの追及。

 しかし男の冒険者は、何が悪いんだと言わんばかりの表情を浮かべた。


「何が悪いってんだ。コイツは今日のクエストで下手を打ったんだ――一歩間違えば、俺の仲間が死んじまうような、そんなミスをな?」

「ち、違う! アレはボクのミスじゃない! 貴方が――」

「――あぁ!? うるせぇな! この、何も出来ないボンクラが!!」

「うわっ……!」

「やめなさい!」


 そして、苛立ちが湧きあがったのか。

 またもや少年に暴行を働こうとしたので、私がその拳を手のひらで受け止めた。


「なっ――!?」


 男はそのことに何故か驚き、目を見開く。

 が、すぐに歯をむき出しにして怒りをあらわにした。


「いいか、貴族の嬢ちゃんよ。このガキの味方をするんだったら――それ相応の負債を背負ってもらうぜ? こいつが今までやらかしてきた分のな!」


 男は腕を振り払って言う。

 それは、私に対しての挑戦のようにも思われた。


「分かりました。それなら、甘んじて受けましょう……」


 私も頭に血が上っていたのか、それを真正面から受け止める。

 そして、こう宣言するのであった。



「それなら。今回失敗したクエスト、私が達成してみせましょう」――と。



 向こう見ずにも程があると、そうリューク兄さんにも言われそうな勢いで。

 しかし、この時の判断は決して間違いではない。そう思った。



◆◇◆



「あの、お姉さん。本当に良かったんですか……?」

「ん? 大丈夫ですよ。これでも私、色々と訓練はしてきたんですから」


 街を歩いていると、少年がどこか申し訳なさそうに訊いてきた。

 それに私はあえて元気に答える。そして、そこに至ってようやく少年のことをしっかりと観察するのであった。


「そう言えば、キミ――名前は? 私の名前は、エレナ・ファーガソン」

「え、えっと……レオ、です。レオ・テレイラ」


 少年――レオくんは、元気なく名前を口にする。

 色素の薄い髪に華奢な身体つき。円らな赤の瞳をし、継ぎ接ぎだらけの服を身にまとっていた。こう言っては何だが、見るからに貧しい。そんな子だった。

 しかし顔立ちは整っており、いずれは美少年になると思わされる。


「そっか、レオくん。これからよろしくね?」

「え、あの……え?」


 私が手を差し出すと、レオくんはキョトンとした。

 どうやら少年は、この手の意味が分かっていないらしい。


「これから、私たちはパーティーを組むんです。だから、握手!」


 だから私は言葉にして彼に伝えた。

 すると少年は困惑の色を浮かべ、しかしすぐに唾を呑み込んだ。

 そして、ゆっくりではあったが私の手を取る。それを確認した私は、大きく頷いて改めてこう言った。


「よろしく、レオくん!」――と。






 それが私の最初のパーティーメンバー、レオくんとの出会い。

 私の冒険の始まりを告げるモノであった……。



 


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