~冒険者になりたいです!~
――ちょっとだけ時間をさかのぼって。
これは私とレオくん、そしてリリアちゃんがパーティーを組むことになった過程。その時のちょっとした出来事についてのお話である……。
◆◇◆
リオテリウス病を克服してから、リリアちゃんは本当に元気になった。
そう。本当に元気になったのだ。
本当に――。
「二人とも! これくらいでバテてたら駄目だよ!」
「ぜぇ……ぜぇ……っ!」
「まって、リリアちゃん……」
――元気すぎるでしょ、これ!?
私たちは今、国の外れにある丘にハイキングにやってきていた。
その道中なのだが、今までの鬱憤を晴らすかのようなハイテンションで突っ走るリリアちゃん――そんな彼女の背中を追いかけている。
丘まではおおよそ一時間程度。
しかし少女は、その時間を半分に縮めようか、というペースで進んでいた。
「ねぇ、レオくん――リリアちゃんって、こんなに体力あったの!?」
「知りませんよ!? ボクも、なんでこうなってるのか分からなくて……」
私とレオくんは膝に手を当ててうな垂れながら、そんなことを話す。
彼が答えた通り、今のリリアちゃんのスタミナは異常だった。端くれとはいえ冒険者二人を置き去りにしていくなんて、先日まで病人だったとは思えない。
しかも、彼女はまだまだ余裕綽々、といった雰囲気だった。
「あれ、リリアちゃんの皮を被った別の誰か、とかじゃないよね?」
「ははは……怖いこと言わないでくださいよ」
私は思わずレオくんにそう言ってしまう。
でも彼も完全に否定できないのか、苦笑いを浮かべてしまった。
それくらいに、今日のリリアちゃんは様子がおかし――もとい、元気すぎる。あとになって倒れたりしなければいいのだけれど、と。私はそう思うのであった。
「置いていくよ? ――私、先に行ってるね!」
「あ、待って! リリアちゃん!」
「こら、リリア!」
そんなことを考えていると。
彼女はこちらの心配もよそに、どんどんと先に行ってしまった。
私たちは仕方なしにその背中を追いかける。その先にある、小さな敵の陰に気付かずに……。
◆◇◆
丘に到着し、私たちは各々に持ってきた弁当を広げていた。
サンドイッチにおにぎりに、その他にも色々な食事が並んでいる。緑の原っぱに、風が吹き抜けていく。日差しは少しだけ強かったが、それでも気持ちの良いものだった。――うん。これは、とても良い休暇だ!
「ボク、ちょっとだけお手洗いに行ってきますね」
「あぁ、うん。行ってらっしゃい」
ふと、その時レオくんがそう言った。
私は背伸びをしながら、それに応える。少年が立ち去り、そしてリリアちゃんと二人、その場に残される形となった。不快ではない沈黙が続く。
だがそれをおもむろに破ったのは、リリアちゃんだった。
「エレナさん。……本当に、ありがとうございます」
「え?」
突然の感謝に、私は面食らってしまう。
呆けている私にリリアちゃんは、重ねるようにこう言った。
「エレナさんがいなかったら、こうやって外を知ることは出来ませんでした。あのボロボロのお家の中で、何も出来ずに――いなくなっちゃうところでした」
少女は『死』という言葉を濁して、膝を抱える。
なるほど。私は自分のやりたいことをやった、それだけだけど――もしかしたら、リリアちゃんにとっては大きなことなのかもしれない。
だから、静かに彼女の言葉を聞きながら、優しく頷いた。
「あのですね、それで――お願いがあるんですけど、いいですか?」
「ん? お願い……?」
そうしていると、少女は唐突にそんなことを口にする。
お願い、とは何だろうか。首を傾げ、言葉を待った。
すると彼女の口から出たのは――。
「――私も、冒険者になりたいんです」
「え、リリアちゃんが……!?」
そんな、驚くべきことだった。
まさかこの少女が、冒険者になりたいと口にするとは……。
「でも、危ないよ。レオくんだって、きっと反対すると思う」
思うところはあった。
でも、この答えしかでなかった。
しかし私の言葉に、リリアちゃんは首を左右に振る。
「それは分かっています。でも、これまでお世話になった方に恩返ししたいんです――それに、せっかく『自由』になったんでもん。好きに冒険したい!」
「リリアちゃん……」
潤んだ瞳に込められているのは、固い決意。
そして、彼女の口から飛び出した『自由』という言葉が胸に響いた。
そういうことか。どうして私が、彼女にあそこまで感情移入したのか、その理由が分かった。彼女は私と似ていたから。形は違えど、縛られていたのだ。
そうして今、こうやって『自由』を手に入れた。
それなら、私にはもう――。
「分かった。レオくんに相談しよう?」
「エレナさんっ!」
――止めることはできない。彼女は、私と同じだから。
だから、せめて私に出来ることはしてあげよう。まずは、彼女でも出来るクラス、それがなにかを考えることにしよう。そう思った。
その時だった。
「う、うわぁぁぁぁあっ!?」
「レオくん!?」
少年の絶叫が聞こえたのは。
私は慌てて、彼の声の下方向へと振り返った。すると――。
「え…………?」
――そこには大型の蜂の魔物、クインズビーが三体。
武器を持たない剣聖たる少年は、涙目でこちらへ向かって駆けていた。
「た、助けてエレナさん! 魔法、魔法で!!」
助けを求めるレオくん。
しかし、
「ダメ! もっとじかんを稼いでくれないと!!」
あまりに距離が近すぎる。時間がなさすぎる。
詠唱をするには、あまりに間がなかった。
だが、
「お兄ちゃん、エレナさん! ――ここは任せて!」
「え、リリアちゃん!?」
声を上げたのは意外にもリリアちゃん。
彼女は、お弁当に付いていた三人分の食事用ナイフを掴み――。
「お兄ちゃん、伏せて!!」
――――――投擲した。
鋭い風切り音と共に、狙い過たず。
ナイフは、クインズビーの眉間にそれぞれ突き刺さった。
断末魔。消失する魔物たち。
私と、伏せたというより転んだレオくんは、呆然とその様子を見ていた。
「ふぅ……っ!」
ちらりと見れば、そこには小さくガッツポーズするリリアちゃん。
そのたくましい姿を見て、思った。
あ、心配無用だ、この子――と。
苦笑いしつつ、私は一つ頷くのであった。
そして、この翌日から私たちのパーティーは三人になる。
これが、リリアちゃんが仲間になった事件の顛末であった……。
ここまでで第一部完結とします!
応援して下さった皆様、ありがとうございます!!
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