12.癒し手として。
レオくんの家へと戻る。
ガタ草を手に、私たちは大急ぎで走っていた。
そして、日が完全に落ち切る頃。彼の家へとたどり着く。すると――。
「レオ! リリアがっ!」
「え、お母さん!?」
――その前には、一人の女性が立っていた。
黒い髪に、黒い瞳。リリアちゃんがそのまま大人になったような容姿。
一目でこの人が二人のお母様なのだろうと思えた。そんな女性は、何やら緊迫した雰囲気でレオくんを認めると、悲鳴のような声を上げる。
そして、その場に泣き崩れてしまった。
「どうしたのですか!?」
その取り乱した姿に、私も思わずそう声をかける。
すると女性――二人のお母様は、青ざめた表情でこう言った。
「リリアが――」
――その続きを耳にした瞬間。
私とレオくんは息を呑んで、顔を見合わせた。
◆◇◆
少女は安らかに目を閉じていた。
それは、今までの苦しみを忘れるように。
この世の何もかもからついに解き放たれたような、そんな表情だった。
「そんな……っ!」
私は呆然とする。
手に持っていたガタ草を落とした。
膝から力が抜けていくのを感じ、気付けばそこでうな垂れる。
「リリア! ――嘘だ、嘘だこんなの!?」
「レオくん……」
しかし、今ある現実を受け入れられない子供がいた。
レオくんは慌てふためいた様子で、私からガタ草を奪い取る。そして、そのうちの一枚を千切り、まだ微かな温もりを持っているのだろう少女の口の中に押し込んだ。涙ながらに、妹の名を叫びながら、少年は何度も何度もその動かなくなった手を握り締める。
時の流れが、ひどく緩慢になったように思われた。
すべてがゆっくりと動いている。私はその中で、ふらりと立ち上がり――。
「――リリア、ちゃん」
少女の名を呟きながら歩み寄る。
リリアちゃんは、私には一度も苦しみを見せなかった。
辛かったであろうに。私と会ったあの一時だけは、笑顔だった。
それは今になって思えば、相応の苦しみをもっていたのではなかろうかと、そう思える。その中でも彼女は家族の今後を案じて、静かに願いを口にしていた。
全身を蝕むリオテリウス病に抗いながら、天使のような微笑みを私にくれた。
それこそ、まるで自らの最期を悟っていたかのように――。
「ダメだよ、そんなの……」
「……エレナさん?」
――そんなの、許されないよ。
私はそう思った。諦めるなんて許されないよ、と。
みんなに願われている。みんなに、こんなに想われているのに、と。
託された者が諦めるのは、間違っていた。他でもない、彼女からレオくんを頼まれた者が、彼の笑顔を諦めるのは間違えている。そして、それは――。
「まだ、温もりはある。だから、可能性はゼロじゃない」
――彼女の、リリアちゃんの笑顔も。
深く息を吸いこんだ。護り手が言っていたことを思い出す。
私の力があれば可能だと、その言葉を信じる。諦めるという選択肢はなかった。
きっと彼女だって、生きたかったはず。ココにいるすべての人が生きてほしいと、そう願ったように。彼女もまた、苦しみのない明日を願ったはずだった。
「汝の苦しみは、我らの苦しみ――」
――詠唱を口にする。
「祖の力は、彼の者の救いに――」
――一つ一つに、願いを込めて。
「神々は祝福する。今この時、その苦しみを解放せん――っ!」
それは、抗い。
運命に対する反抗だった。
しかし癒し手の為すは、すべてそれに違いない。
人々の願いとはすなわち、ある種で神が与えた試練への反抗だった。
「――【リザレクション】!」
光が少女を包み込む。
その暖かい輝きの中で、彼女は――。
◆◇◆
――あれから、数週間が経過した。
レオくんは私の隣で笑っている。いつもと変わらない光景だ。
そして、ギルドの掲示板の前で今日のクエストを選ぶ。さて、本日はどんな依頼が舞い込んできているのであろうか。私は次の冒険に胸を躍らせる。
「あぁ、そうだ。忘れちゃダメだよね」
そして、振り返って――彼女にも訊ねた。
「リリアちゃんは、どんな冒険がしたい?」――と。
黒髪の美少女は、いつもの笑みを浮かべてこう言った。
「私は、お二人と一緒ならどこまでも!」
それは、一つの奇跡だと語られる。
でも、私にはそれは奇跡だとは思えなかった。
だってみんなが頑張ったのだから。これは【当然の結果】だった。
今日も、冒険が始まる。
これはきっと、みんなが望んだから手に入った【運命】。
「さぁ、行きましょうか!」
元気よく、私は二人に声をかけた。
「はいっ!」
「行きましょう、エレナさん!」
返ってくるのは、そんな明るいそれ。
さて、今日はどんな物語が待っているのだろう。
私たちは、一歩を踏み出すのだった……。
ここで二章終わりです!
今後とも応援お願い致します!!
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