11.護り手からの依頼
そこにあったのは一体の美しいドラゴンだった。
鱗は虹色に輝き、神々しい光を放っている。先ほどまでのヘドロに満ちた竜はそこに在らず、赤い目をした彼の竜は静かにこちらを見つめていた。
敵意などはない。むしろ、好意に満ちたモノであった。
「エレナさん!」
「レオくん、大丈夫だった!?」
「エレナさんこそ、怪我はありませんか!」
湿原を駆ける少年は、しきりに私の身を案じてくれる。
そのことに感謝を述べたいところではあったが、今はそれどころではない。
私はレオくんの問いかけにはハッキリとは答えられず、ただただ呆然と光を見つめていた。そんなこちらの様子に気付いたのだろう。彼もそちらの方向を見た。
そうしているとドラゴンはおもむろに、こちらへ首を下げてくる。
――助かったぞ。そこの人間よ。
そして、そう言った。
相も変わらず頭の中に響くそれである。
しかし苦しみに満ちたそれではなく、安らかなモノであった。
「貴方は、いったい……?」
こちらが問うと、ドラゴンは答える。
――我はこの国を守護する存在。護り手だ。
「護り手……。つまり、神様?」
ドラゴンの言葉に、首を傾げるレオくん。
だがドラゴンは小さく笑い、それを否定した。
――違うぞ少年。我はあくまで護り手、神に使わされし存在だ。
「なる、ほど……?」
あ、これ納得したフリだ。
レオくんの様子を見ながら、私はそう思った。
まぁ、かくいう私もあまりの展開について行けていない。ただとにかく分かるのは、このドラゴンがそこらに生息している魔物とは違う、ということだった。
「でも、どうしてそんな護り手の貴方があのような姿に?」
――ふむ。良い質問だぞ、人間の娘よ。
私の言葉に、護り手たるドラゴンは頷いた。
そして、こう語り始める。
――我は数千年に渡り、この国を見守ってきた。しかし、な……昨今になって国の中に異分子が紛れ込んだらしい。
「異分子……?」
聞き返すと、護り手はもう一つ頷く。
――端的に言えば、神に反抗する存在だ。魔族といえば、通りが良いか。
「魔族――人の姿をした魔物、という認識しかありませんが……」
――なに、それで良い。つまりは人間に害を為す存在だからな。
ドラゴンの噛み砕いているのか噛み砕いていないのか、どちらか良く分からない話に、私は首を傾げてしまった。しかし、とりあえず国の中にその『魔族』がいる。
そして、このような事態を引き起こす原因を作った。
要するに、そういうことか。
――人間たちよ。我からの頼みだ。その魔族を取り除いてほしい。
「え……。私たちが、ですか!?」
一人で状況を整理していると、不意にドラゴンはそう言った。
私が驚くと、重ねて彼はこう語る。
――今、お主たちの心を読んだ。リオテリウス病なるモノを治したいのだな?
それに食いついたのは、レオくんだった。
少年は一歩前に出るとこう叫ぶ。
「なにか、ご存じなのですか!?」
彼の声に、護り手は答えた。
――リオテリウスは、おそらく魔族の生み出した病だ。我はその気に当てられ、あのような姿に変えられてしまった。その魔族の生み出す空気の淀み、それが原因だ。
「治す方法は! 治すには、どうしたら良いのですか!!」
――そこの娘の力が鍵となろう。この湿地帯には、我の力が宿りし霊草がある。それを体内に取り込むこと、そしてそこの娘の力があれば、あるいは……。
「護り手様!?」
「どうされたのですか!!」
そこまで語ったところで、ドラゴンの姿が薄らいでいった。
私とレオくんは彼に駆け寄ろうとするが、叶わない。彼のドラゴンは静かに、最後にこう言い残して消えていった。
――休息が必要だ。だが、魔の手はそこまで迫っている。頼むぞ……。
そして、一陣の風が吹く。
私たちは思わず目を覆った。次に目を開けた時、
「いない? 夢、じゃないよね?」
「大丈夫、だと思います。ボクも、はっきり憶えています」
そこには、綺麗になった湿原が広がっていた。
レオくんと顔を合わせて、自分たちが見ていたモノについて確認を取る。
どうやら、夢や幻ではないらしい。私たちが見聞きしたそれは、たしかに存在したモノ。そして、思わぬ役割を受けたことが分かった。
それは、この国を揺るがす一大事……。
この時からだった。
私とレオくんの、魔族との戦いが幕を上げたのは。
そして、それは次第に国を越えて、世界の命運へと繋がっていく。
しかし、この時の私たちはそんなこと、理解できるはずもなかった……。
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