表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/29

8.貴族令嬢として







 国の東にある喫茶店。

 そこで、レオは硬直していた。


「あらら。そんなに硬くなってしまって――緊張してますのね」

「そ、そんな……大丈夫、です。お気になさらず」

「無理なさらないで? ほら、力を抜いて」

「あぅ。すみません……」


 少年はレイラに導かれるままに着席する。

 身にまとうのは、いつものようなボロの服ではなかった。

 白の燕尾服の上着に、裾の短い黒のパンツ。膝小僧を出しているその姿には、少年らしさと同時に由緒正しき雰囲気が漂っていた。元々の素材がいいためであろうか。貴族の集まるその店の中において、レオは良い意味で目立っていた。


 貴婦人たちが皆、彼を見て小声で話す。

 あの麗しき少年はいったいどこの家の子供なのだ、と。


「あぅ――えっと、やっぱりボク、浮いてますよね?」


 しかし、それを勘違いしたレオは消え入るような声でそう言った。

 小さくなっていく背中。弱々しい雰囲気。だが、そんな姿がまた愛らしい。そう思えてしまうほどに、今の少年には魅力があった。

 そのことをどこか誇らしげに、レイラはくすりと笑う。


「大丈夫ですわよ。誰がなんと言おうと、私がレオ様を守ってみせますわ」

「あ、ありがとう、ございます……」


 そしてそんなことを言われるものだから、なおのこと彼は恐縮してしまった。

 レオのその反応にまたレイラは微笑み、小さく手を挙げて手短に注文を済ませる。ウエイターは音もなく現われて、去って行った。

 彼女はそこで少年を改めてマジマジと見つめる。

 続けて自画自賛するかのように、恍惚としたため息をつくのであった。


「はぁ……。本当に、愛らしいですわ」

「そう、でしょうか?」


 そう言われ、ようやくレオは面を上げる。

 自身の予想外の一言に困惑した彼は、周囲のことなど忘れてしまった。


「えぇ、本当に。このまま、私のモノにしてしまいたいくらいです」

「そ、それは……」


 ……無理です、と。

 そう少年が言おうとしたら、レイラが人差し指を立てて止めた。

 レオは相手のその仕草にきょとんとする。桃髪の令嬢は、クスリと笑ってからどこか遠くを見つめるのであった。そして、こう話し始める。


「私の家は、貴族の中でもそこまで栄えている方ではないのです。そして、私は一人っ子。だから常に、親からあるプレッシャーを感じて生きてきました」


 スッと、声を抑えるようにして。


「それは、名家の嫡男に嫁ぐこと、です」


 そう言った。

 自分には、そうするしか道がなかったのだ、と。


「だから、本当の恋をするつもりなんてありませんでしたし、しないものだと思っていました。それなのに、どうしてですかね――貴方に、私は恋をした」

「レイラさん……」


 それは、法螺吹きと呼ばれた彼女から出た本音。

 嘘偽りなき、真実だった。


「でも、それもすぐに終わります。レオ様は妹様のためにこうしているだけ。一時的な契約関係――それは、重々承知致しておりますわ」


 そこまで話して、ふっと息をつく。

 レイラはその後に柔らかく微笑んで、こう続けた。


「さぁ、そろそろ終わりにしましょう? 湿地帯へ入る権利は、お与えします。それにレオ様にはこれから、微力ながら金銭的支援も致しましょう」

「え……? でも、お金に余裕はないって……」


 その言葉に、レオは驚く。

 しかし、それを打ち消すようにしてレイラはこう言った。


「大丈夫です。もうそろそろ、色々なところに投資したお金が戻ってくる頃合いですわ」――と。


 自分は今まで、エレミオの家の財産をただ食い潰したわけではない、と。

 彼女はそう語ってみせたのだ。


「ですから、心配はなさらず。リオテリウス病は国難の一つでもあります――それの解決に貢献できるなら、望外の喜びですわ」

「…………………………」


 レオは話を聞いて、押し黙る。

 そして、突然に立ち上がってこう言うのであった。


「まだ! ――まだ、終わりませんよレイラさん!」

「え……?」


 急に大きくなった彼の声に、今度はレイラがきょとんとする。

 彼女は、少年のことを見つめた。するとそこにあったのは――。


「行きましょう! 今日は一日、ボクと思いっきり遊びましょう!」


 ――レオから差し出された、小さな手。

 レイラは呆然。しかし、数秒の後には泣きながら笑って、


「……はいっ!」


 その手を取るのだった……。



◆◇◆



 その様子を眺めていた私は、言葉を失っていた。


「まさか、あのレイラがそんなことを考えていたなんて……」


 意外な事実。

 周囲から後ろ指をさされながら、それでも今の地位にたどり着いた彼女。その背景にあったことに、私はただただ言葉を失することしかできなかった。

 これをエレミオはどう思っただろう。

 そう思った私は、隣にいるレイラの相方を見た。すると――。


「――何をやっているんだ、エレナ。二人を見失うぞ」

「あ……」


 そこには、すでに背を向けて二人を追う青年の姿。

 私は一瞬だけ言葉を詰まらせた。だけど、


「そう、ですね」


 なにも言わず、彼の言葉に同意する。

 これはきっとレイラとエレミオの問題だった。

 それなら、もう部外者の私が口出しすることではないと、そう思った。


「ホントに、アイツは馬鹿だ……」



 けれども、最後に聞こえたエレミオのそんな言葉。

 それに私は一言だけ、こう答えるのであった。




「えぇ、エレミオ。貴方の言う通りです」――と。




 


もし面白いと思っていただけましたら、下記フォームより評価お願い致します。

また、下記リンクからは新作に飛ぶことができます。


応援よろしくお願い致します!!


<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悪インがいい人だった。 [気になる点] 。。。投資が戻る前に婚約破棄されかねない。(エミリオはやる男!) まあ、親には話が通ってるのかな?  1st婚約破棄が親の許可済みか知らんけど。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ