7.振り回される少年と、気になる青年
「あの、ボクと歩いてるだけで――その、楽しいですか?」
「うふふっ。レオ様は心配性なのですね。私は楽しいですわ」
レオはレイラの顔を覗き込みながら、不安げに訊ねる。
すると彼女は大丈夫だと、そう言って満面の笑みを浮かべるのだった。
どうしてこの令嬢がこんなにも楽しげなのか、その理由が分からない少年は首を傾げて疑問符を浮かべる。しかしそんな彼の様子も愛おしいのか、レイラは身悶えるのであった。
日が昇り、もうじき昼食という時間帯である。
そんな時間に、彼らがまず向かったのは服屋だった。
貴族御用達のその店には、子供服から公の場で着るようなそれまで、幅広く揃えられている。中に入るとレイラはすぐに店員を呼び付けた。
「この子に似合う服を仕立てて下さいまし。金額に糸目は付けませんわ」
「はい、畏まりました」
「えっ……?」
その会話に、レオは困惑の色を浮かべる。
思わず声を上げるも、それを聞いたレイラはにっこりと笑った。
「気にしなくて大丈夫ですわ。これは、今日のお礼です」
「いやいやいや! それにしても、こんなところの服なんて着れませんよ!?」
彼女はそう言うが、元々貧しいレオは大慌てである。
どう考えてもここに並んでいる服の数々は、一着で彼の生活費を遥かに凌駕していた。しかしそんなことお構いなしに、レイラは次々に服を物色していく。
そして、とっかえひっかえに少年の服を着せ変えるのであった。
「あわわわわっ!?」
レオはそれに目を回す。
それでも、レイラの目の輝きは増すばかりだった……。
◆◇◆
「うわー……」
私は店の外から、その様子を眺めて声を漏らす。
あれでは完全にオモチャだ。レオくんの身に降りかかった不幸、それはそれは大きなモノであるように思えた。せめてこれ以上がないようにと、私は祈る。
「でも、それにしたって」
だがそれと同時に、レイラの浮かれっぷりに目を持っていかれた。
彼女とは学友ではあったが、あのような表情を見たことがない。いつもニコニコとしてはいた。しかし、その目の奥には常に野心があり、素直な笑みなんて見たことがなかったのである。
「ふむ。なるほど、アレが恋、か……」
まじまじと見ながら、私はそう呟いた。
こちらもそれを経験したことはなかったけど、ふむ――なるほど。
恋をすると女性は変わると聞いたけれど、たしかにその通りのようだった。
「それにしても、イキイキしてるなぁ」
「あぁ、まったくだ。ボクのことを置いて、彼女はいったいなにを……」
「気にしなくてもよいのではないですか。貴方ももう、彼女に対しての感情は冷めてしまっているのでしょう?」
「それはそうだが、そうじゃないんだ。色々と、ね……」
「難しい問題ですね」
「そうだね。うむ」
「………………」
「………………」
…………ん?
私は自然に言葉を交わしながら、疑問を抱いた――誰? と。
「って、エレミオ? どうして貴方がここに……」
隣を見た。
するとそこにいたのは、軽薄そうな淡い青髪をした青年――エレミオ。
彼はかじり付くように店内を覗き込んでいた。ムッとした表情が、どこか滑稽に感じられてしまうのは気のせいだろうか。
「今日は元々、ボクとの用事があったんだ。それを彼女はすっぽかした。何故かと思ってきてみれば、あのような貧民にお熱とは、ね……」
「貧民って、私の仲間を愚弄しないでくださいますか?」
エレミオはそう言った。
今度は私が彼の言葉にムッとするが、どうにかそこで留める。
今ココで口論をしては、つけていることが二人にばれてしまうからだった。
「……まぁ、とりあえず。そんなに気になるのですか?」
気持ちを切り替えて、私はエレミオに問いかける。
すると彼は――。
「気になるさ。彼女の使っている金は、我が家の金でもあるからね。――無駄使いしないか、こうやって監視する義務がボクにはある」
「はぁ……『義務』、ですか」
――そんなことを言った。
私は彼の口振りに引っ掛かる部分を覚え、繰り返す。
なんだろうか。エレミオの言葉には棘があるものの、怒りや憤り以外の別の感情があるように思われた。あえて追及することはなかったが、気になるそれに私は首を傾げる。――まぁ、気にしても仕方ないか。
そう思い直して、私は店内に気を配った。
すると、
「あ、不味い。出てきますよ!」
ちょうど、二人が買い物を終えて出てくるところであった。
私とエレミオは物陰に身を隠す。
「この後は、どうするつもりですか?」
「追いかけるに決まっているだろう。何を言っているんだ、キミは……」
その時に、今後の方針について訊ねると、返ってきたのはそんな言葉。
なるほど。どうやら、彼も気になっているようだった。
「分かりました。それでは、行きましょうか」
ならば不本意ながら、行動を共にすることとしよう。
そんなこんなで、私は久しぶりにエレミオと肩を並べることになった。
彼は相も変わらず、不機嫌そうではあったが――。
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