5.解決策の一つ
「ふむ。リオテリウス病、か……」
「アレンお兄様。なにか、情報はございませんか?」
その日、私は帰宅してからリビングでくつろいでいた上の兄――アレンお兄様に、リリアちゃんのことを相談した。お兄様は眉間に皺を寄せながら、考え込む。そして、短く刈り込んだ金の髪を掻いた。ちらりと私を見る赤の眼差しは、申し訳なさそうな色が浮かんでいる。
「すまないな。王宮でもたびたび話題に上がっているんだが、解決法らしいモノは見つかっていないんだ。お前も知っているだろう? ――王女様も、同じ病だと」
そして、出てきたのはそんな返答だった。
分かっていたことではあるけれど、私は少しだけ肩を落とす。
王宮に勤めているアレンお兄様なら、この問題について詳しいのではないか。そう思ったのだが、やはりこの病についての情報は少ないようだった。
「それでも、少しの可能性でも良いんです。――なにか、少しでも」
「そうは言っても、なぁ……」
だが、私はせめてもの成果が欲しくて彼にすがり付く。
お兄様はまた悩み込み、唇を噛んだ。
「研究されている以上は、何かしらの可能性が示されることもあるでしょう?」
「たしかに、な。エレナの言う通り、いくつかの学説はある――しかし、どれもこれも決定打に欠けるのが実情だ。しかも、失敗すれば患者の身体に大きな負担がかかってしまう……」
だから、なかなか実証段階には進まないのだと。
アレンお兄様は私を諭すように言う。それに、私は押し黙るしかなかった。
するとそんな私を見て、お兄様はポンとこちらの頭を軽く撫でながらこう言う。
「気にするな。それだけ、大切に思っているのだな。仲間の妹さんを」
「……はい。でも、安っぽい同情なのかもしれません」
「そんなことはないさ。エレナは、いつも真剣だ」
「ありがとう、ございます」
気落ちしている私のことを気遣ってくれる、優しいアレンお兄様。
彼は昔からこうだった。誰にでも平等に接し、かつ落ち込んでいる相手を見つけたら引き上げる。こんな性格だから、王宮でも重用されているのだろう。
我が兄のことながら、誇らしく、素敵な人物だと思われた。
「あぁ、そう言えば。思い出したぞ!」
そんなことを考えていると、不意にアレンお兄様はそう言った。
「先月のことだ。最も可能性は低いのだが、患者への負担が最も少ない方法が提唱された。ある薬草を煎じるという荒唐無稽なモノだが、あるいは――」
「――聞かせてください! その薬草とは、どんなモノなのですか!?」
私はその言葉に食いつく。
おそらく、それは民間療法的なモノだった。
しかし試せる方法があるなら、すべてを試そう。――帰り道で、私はレオくんとそう約束したのだった。それを破るわけにはいかない。
「ガタ草、というモノだ。それこそ、国の外の湿地帯に大量にあるような草でな。そのため、王宮では見向きもされなかった話なんだ」
「国の外の湿地帯にあるガタ草、ですね? 明日、早速行ってみます!」
そうと決まれば、準備をしなければならない。
思って私はスッと立ち上がり、自室へ向かおうとした。すると――。
「あぁ、待て。その前にその湿地帯の持ち主に許可を得なければならない」
――そんな焦る私を諌めるように、アレンお兄様はそう言った。
あぁ、たしかに。無許可で他人の土地に入ったら、それはそれで問題だ。
彼のその指摘に納得して、しかし私は首を傾げた。そういえば、あの辺りの土地を管理している貴族はいったい何家だったか。
その答えは、お兄様からすぐにもたらされた。
でも、それは想定外の名前で――。
「あそこの管理をしているのは、エレナの学友だったフランソワ家だ」
「え……?」
――私は一度、完全に思考停止してしまうのであった。
フランソワ家、って。もしかして……。
「……レイラ・フランソワ?」
口にして、確信する。
間違いない。彼女以外に、この国にフランソワという一族はいない。
だが、そうなると。私は彼女に頭を下げないといけないわけであって……。
「うわぁ……」
自然と、そんな声が漏れてしまうのであった……。
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