4.リオテリウス病
「今日は、ありがとうございました」
「いえいえ。また、来ても良いかな?」
「はい、もちろん! 今度は母のいる時にでも!」
すっかり日は落ちて。
私とレオくんは国の東まで歩いていた。
こちらは大丈夫だと言ったのだけど、彼の方が心配だからと。そういう流れでついてきてもらうことになった。そして、もうかなり安全な道まできたのでお別れ、ということになったのである。
結局、レオくんのお母様は帰ってこなかった。
夜遅くまで働いているとのことで、今日も緊急で仕事が入ったらしい。
「それにしても、リリアとは何を話してたんですか?」
「ん、リリアちゃんと?」
さて、そんなところで。
レオくんは唐突にそう切り出した。
それを受けて私は、彼の家で、妹のリリアちゃんと話した内容を思い出す。時間の経った今でも、ハッキリとその空気を感じられる会話だった――。
◆◇◆
――少女の口にした言葉は、ひどく悲しいそれ。
私は絶句して、何も返すことが出来なかった。
「すみません。急に、こんな重い話をしてしまって」
こちらの様子を察したのか、リリアちゃんはそう言って微笑む。
それを聞いてようやく我に返った私は、そんなことないと、空元気のように首を左右に振った。しかし私の頭の中には、そのフレーズが残響している。
呼吸は無意識に速くなり、唇が不自然に乾いていった。
「どういうこと、なの……?」
その中で、どうにか絞り出したのはそんな台詞。
私の震えた声に、リリアちゃんは微笑みながらこう答えた。
「私、病気なんです。リオテリウス病――って、聞いたことありますか?」
「リオテリウス病……って、あの?」
そして、その答えを聞いた私はさらに唖然とする。
リオテリウス病――それは先天性の病であり、また同時に不治の病とも言われていた。その病をもった子供は、免疫細胞に異常を来たし、また臓器も破壊されていく。進行性のモノであり、最期はもがき苦しみながら死を迎えるという。罹患した者の平均寿命は十歳に満たない。
王宮治癒師が総力を挙げるも、解決に至らない病の一つだった。
「そんな、嘘でしょ……?」
私は信じられずにそう漏らす。
だって、目の前の少女はあんなに元気そうに笑っていたのに……。
「今日は、たまたま発作が起きてないんです。いつもだったら、寝たきりで――だから、こうやってエレナさんにお話できて本当に良かった」
リリアちゃんは、今度は年相応に無邪気な笑みを浮かべた。
本当に、まるで心から今日の幸運を神に感謝しているかのように。自身にこんな過酷な試練を与えた神を、まったく恨んでいないかのように。
その姿はまさしく、天使そのものだった……。
「……………………っ!」
そんなの、あまりに辛すぎる。
これは決して同情なんかではない。そう、これはある種の怒りに近かった。
理不尽だ。あまりに理不尽だ。身近な人がそれに罹らないと実感できないのが人間の性だけど、綺麗事だと言われても良い。私はどうしても許せなかった。
話を聞くしか出来ない、自分という存在が……。
「だから、私がいなくなったあと――レオをよろしくお願いします」
リリアちゃんは、最後にそう言って静かに頭を下げる。
私は震える拳を握りしめ、無言で立ち尽くすことしか出来なかった。
◆◇◆
「……エレナさん、どうされたんですか?」
「え、あぁ。ごめん、ちょっとボーっとしてた」
レオくんに声をかけられ、私は我に返る。
どうやら結構長い時間、黙り込んでしまっていたらしい。
少年は小首を傾げながらこちらを見上げていた。その無垢な眼差しに、私はリリアちゃんを思い出してつい、視線を逸らす。
すると、それをどう受け取ったのか。
レオくんはふっと息をついてから、こちらに背を向けた。そして、
「話したんですね、リリアは……」
そう言い当てる。
少年は振り返って、潤んだ瞳をこちらに見せた。
「すみません。要らない心配をおかけしてしまって」
「そんなことないよ! ……でも、ううん」
彼の言葉に私は声を詰まらせる。
こういう時、なんて言えばいいのか分からない。
それでも、何かを伝えないといけない。そう思った。だから――。
「――二人で探そう!」
「え……?」
私はレオくんの手を取る。
そして、ハッキリとこう伝えたのだ。
「私たち――私とレオくんで、治す方法を探そう!」――と。
それは、もしかしたら勢い余りの夢物語なのかもしれない。
でもこの時の私は、それ以外に進むべき道はないと、そう確信していた……。
今日の19時に新作上げます!
また、20時に次の話上げます!
なお、今から書きます!(ぉぃw
<(_ _)>




