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3.リリアという少女






「そっか。リリアちゃんは、レオくんの妹さんなんだね」

「はい、そうなんです。いつもお兄ちゃんがお世話になってます!」


 私の言葉に、レオくんの妹――リリアちゃんは満面の笑みで言った。

 レオくんとは異なる真っ黒な髪と瞳。おそらくは、お母様の血を色濃く継いだのだろう。それらはどこか慎ましやかに、そして神秘的な雰囲気を持っていた。


「ううん。こっちこそ、レオくんにはお世話になってます」

「あははっ! お兄ちゃんったら、こんな綺麗な女の人とどこで知り合ったの?」

「なっ……!? そういうこと言うなって、リリア。エレナさんに失礼だろ!?」


 無邪気に笑う妹を叱るレオくん。

 彼の頬は先ほどから真っ赤に染まっており、瞳も微かに潤んでいた。

 その理由は分からなかったけど、そんな兄妹のやり取りが微笑ましく感じられる。私はくすりとして、何かを言い合う彼らを見つめていた。


「それにしても、エレナさん。こんな寂れたところに来て下さってありがとうございます。少しだけ、二人でお話したいんですけど――構いませんか?」

「え、私と……?」


 さて、そうしていると不意にリリアちゃんがそう切り出す。

 思わずポカンとしてしまう私。レオくんはそれをどう思ったか、ムッとした表情を浮かべてしまった。


「リリア。さっきから、勝手に――」

「――いや、いいよ。大丈夫だよ、レオくん」


 そしてまた妹を叱ろうとするので、私はそれを遮る。

 なんだろうか。リリアちゃんの目は笑っているようで、しかしその奥に真剣な色があるように思われた。決して私が貴族だから興味を示したとか、そういった遊び半分のものでなく。

 だから、私は笑顔でそれを快諾するのであった。


「……むぅ。エレナさん? もしリリアが失礼なことしたら、遠慮なく言って下さいね! お願いしますよ?」

「はははっ、お兄ちゃんったら。心配し過ぎだよ~!」


 けれどもレオくんは納得してないらしく、最後にそう言って外へ出ていく。

 その背中に、なんとも兄妹らしい遠慮のない言葉を投げかけるリリアちゃん。その光景がまた微笑ましく思えてしまった。でも、それもそこまで――。


「さて。行きましたね、お兄ちゃん」


 ――レオくんの気配が消えると、スッと声のトーンを落としす少女。

 その雰囲気は、先ほどと比べて一段と大人びて感じられた。その空気をまとったまま、リリアちゃんは儚げな笑みを浮かべてこう口にする。


「すみません。お兄ちゃん、子供っぽくて――でも、優しいんですよ?」


 まるで、妹ではなく姉のような温かさで。

 そこにいたのは、リリアちゃんであって彼女ではなかった。


「改めて、お礼申し上げます。話はいつもお兄ちゃんからうかがっています。とても強くて、綺麗で、そして優しい人だって」

「あ、あはは。レオくんったら、そんなことを……」


 そして向けられた真っすぐな言葉に、今度は私が頬を赤らめてしまう。

 なんだろう。そんなに褒められるようなこと、したっけ……?


「ふふふっ。やっぱり話に聞いてた通り、真っすぐな方なんですね?」

「え、それって。私のこと?」

「はい、そうですよ」

「はは、は……」


 どうやら、私よりもリリアちゃんの方が一枚上手のようだ。

 微笑む少女に、私もまた笑うしかなかった。しかし、不思議と不快ではない。

 それがこのリリアという女の子の人柄なのだろう。柔らかな物腰に、たおやかな仕草。それは身分とかそんなの関係なしに、彼女の優れた素養だった。


 でも、いつまでもそんな話をしている時間はない。


「それでは、そろそろ――本題に入りましょうか」


 ふっと、少女は声色を変えた。

 私は年下のはずの彼女を前に、緊張感を覚える。

 思わず固い唾を呑み込み、ただただ次の言葉を待った。すると――。


「え……?」


 ――少女は、おもむろに深々と頭を下げたのである。

 そして、こう言った。




「どうか、これからも兄のことをよろしくお願いします」




 静かに、しかし強い意思を込めて。




「私が、いなくなっても……」――と。




 それは、いつまでも耳に残る言葉だった。

 私はその場で動くことも出来ず、ただ立ち尽くすだけだった……。



 


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<(_ _)>

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