1.レイラ・フランソワ
ここから第二章です。
「それで? 今日は、いったい何なんですか――エレミオ」
「いやぁ、うん。先日のことを謝罪しようと思いましてね?」
「はぁ、そうですか。それはご苦労様です」
レオくんの決闘の翌日。
私の元に、元婚約者が訪れていた。
元婚約者ことエレミオは、顔に包帯を巻きながら玄関先で正座している。そこにはすでに、貴族としてのプライドのプの字も感じられなかった。
なんだろうか。ここまで来ると、哀れに見えてきた……。
「先日は私めの暴言により、エレナ様を不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。不肖ながら、この身をもってして何とか謝罪したいと思い、馳せ参じました。こちらに帰ってきてくださると大変に嬉しいのですが――」
「――あぁ、それは無理」
けれども、それはそれ。これはこれ。
あまりに哀れに見えていたとしても、彼のもとに戻るという選択肢はなかった。なので、そこは頑として受け入れずに突っぱねる。するとエレミオは――。
「――そんなぁ!? やっぱり、キミは鬼だ! 鬼畜だ!!」
滝のような涙を流しながら、面を上げるのであった。
なにやら私を罵倒する言葉が聞こえてきたけど、今回は聞かなかったことにしてあげよう。そんな、心の広さを見せつけていると、そこへ来訪者が現れた。
それは、桃色の髪をした美女。青い綺麗なドレスをまとい、花柄の日傘をさしていた。コツコツと、ヒールの音を鳴らしながらやってくる。
「あら、こちらにいらっしゃいましたのね? エレミオ様」
「ひぃ――レ、レイラ!?」
その女性――レイラ・フランソワは、ふんわりとした顔立ちに、笑顔を浮かべながらエレミオに声をかけた。それに対して、彼は悲鳴を上げる。
びっくり仰天。その言葉が似合う動きで、エレミオはその場で跳ねた。
距離を詰めるレイラ。後退るエレミオ。それを見つめるだけの、私。
「エ、エレナ! 助けてくれ!! ――我が家の財産はもう……っ!」
「あら、エレナさん。お久しぶりですぅ~! 『うちの人』を預かっていて下さったのですね? ありがとうございますわ」
「いえいえ。引き取りにきて下さって、こちらこそ感謝です」
「うふふふっ」
「あはははっ」
さて、そうしていると。
レイラは私の存在にわざとらしく気付き、そう声をかけてきた。
しかし、私はそれを気にした風もなく軽くあしらう。正直なところ、もうこの二人には関わりたくはないのであった。帰るなら、早く帰ってほしい。
そう思っていると、そこにさらに一人やってきた。
「おはようございます。エレナさん!」
「あぁ、おはよう。レオくん!」
それは、私のパーティーメンバーの少年。
彼は明るい表情で、こちらに挨拶をするのであった。
「ん、この人たちは……?」
レオくんは、エレミオたちを見てそんなことを言いながら首を傾げる。
三人は顔を合わせて、沈黙した。そして――。
「――きゅんっ!」
そんなことを言ったのは、レイラ。
彼女は突然に目をハートマークにして、口元を隠した。
それを見て、私は気付く。――あ、こいつ。堕ちたな、と。
「え? どうしたんですか、お姉さん?」
「い、いえ! なんでもありませんわ! 帰りましょう、エレミオ様!!」
不思議そうな表情を浮かべるレオくんに、明らかに動揺したレイラ。
彼女は突然、エミリオの首根っこを引っ掴み、引きずって行ってしまった。
「なん、だったんでしょうか……」
「気にしなくて、いいと思うな」
呆然と、その光景を眺める少年。
私はそんな彼に、静かにそう答えるのであった。
その日は、そんな感じで始まった。
エレミオはいったいどうなるのか――それは、また今度。




