9.【剣聖の紋章】
レオくんは炎の剣を手に立っていた。
私はそのことに目を疑う。彼のまとう覇気は、今までの比ではない。
未熟な自分でも分かるほどに、そこに立っている少年の力は物凄いモノだった。
「レオくんに、何が――」
「――【剣聖の紋章】だよ。エレナ」
「えっ、リューク兄様?」
震えている私に、声をかけてきたのはリューク兄様。
彼はどうやら街の警邏中だったらしく、騎士団の鎧を身にまとっていた。
そして、腰に差していたはずの剣がなくなっている。どうりで、見たことがあると思えば、レオくんの手にした剣は騎士団のそれだったのだ。
だけども、そんなことよりも気になることがあった。
「兄様――【剣聖の紋章】、って?」
そう、それは聞き慣れない言葉。
まったくの不勉強で申し訳ないが、私にはチンプンカンプンだった。
そんなこちらに、リューク兄様は何故か興奮したような笑みを浮かべて説明する。声にはどこか、熱を込めて――。
「――一種の才能、とでも呼べばいいのかな。世界には神々から特別な力、【紋章】を授かって生まれてくる子がいる。それの持つ先天性の力は計り知れない。今回、レオくんの背中に刻まれていたのは【剣聖の紋章】だ。つまり彼は、魔法使いではなく剣士としての才能に恵まれていた、ということさ」
「それって、要するに今のレオくんは……」
私はそこまで聞いて、改めて少年の方を見た。
剣を構える彼には、力みというモノがない。無駄がない、とでも言えばいいのだろうか。初めて持つそれのはずなのに、妙に堂に入っていた。
これが、その【剣聖の紋章】の力なのか……。
「でも、予想外だったよ。魔法使いとしての鍛錬が、相乗効果となって実を結ぶなんてね。アレは、あの炎の剣は、彼だけの特別なモノだ」
リューク兄様は、そう言った。
そんなことがあるのか、と私は思う。
しかし、それよりも今の自分にできることはまだあるはず。そう、それは――。
「――レオくん! 私の力も、受け取って!!」
治癒魔法だ。
私は意識を集中させて、レオくんへと魔法を飛ばす。
すると彼の身体にあったありとあらゆる傷が、あっという間に消えていった。
「……ありがとう。エレナさん」
そう、礼を言うレオくん。
彼はすぐに前を向き、炎の剣を構えた。
そして、始まる。ここから、少年による独壇場が――。
◆◇◆
――この治癒魔法は、間違いない。
そう思ったレオは、ほんの少しだけ振り返ってエレナに礼を言った。
だがしかし、すぐに前を向き直りカイウスを見据える。するとそこにいたのは、あまりの事態に表情を強張らせる男の姿だった。
「お前、その剣は――いいや。なんだ、その力は!?」
そして、そう叫ぶ。
やはり仮にもAランクの冒険者ということだろう。
今のレオの持つ力量に、困惑の色を浮かべるのであった。
「なんてことないですよ。ボクはボクでしかない――意地を捨てたんです」
それに対して、少年は泰然自若。
動じることなくすべてを受け入れ、同時に理解していた。
初めて手にするのに、妙に馴染むこの剣の感触。さらに、それをいかに扱えば良いのか、ということを。呼吸をするように自身のうちに溶け込んでいくそれに、少年は懐かしさに近い何かを抱いていた。
自分の生きる道は、ここにあった。
そう、少年は思う。
燃え盛る剣を構えて、カイウスを睨む。
「くっ……! 調子に乗るなよ!?」
「乗ってませんよ。ただ、少しだけ――」
レオは相手に向かって、こう言った。
「――楽しく、なってきたかもしれません」
微かに口角を上げて。
レオは、ふっと息をついた。
そしてその直後、世界は一変する。
新たに生まれた剣聖に、世界は震撼することとなった――。
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