6.夢
今回は、全編レオくん視点(三人称)です。
――レオの父は、魔法使いだった。
決して強いわけではなく。また、決して弱いわけではなかった。
つまりは、どこにでもいる冒険者。ただし、正義感には満ち溢れていた。レオはそんな父の背中を見て育ち、いつしか自分もそんな冒険者に、魔法使いになりたいと願うようになっていたのである。
「明日、か……」
少年は寝床に転がって、穴だらけの天井を見上げて呟いた。
自分が決めたこと。だが、それにしても無茶な選択をしたものだと、彼は思う。
それでも、あの時のカイウスの口振りがどうにも腹立たしかった。エレナを、人をモノ扱いするあの態度が。たとえ自分よりエレナの方が強いと自覚していても、レオは彼女を守らなければならない。そう、心の底から思ったのだった。
「それにしても、剣士――か」
ふと、レオはリュークに言われたことを思い出す。
考えたこともなかった。たしかに、どうにかしたい一心で身体は鍛えてきたが――そのことでまさか、剣術を勧められるとは思ってもみなかったのである。
だが、少年は思った。なにかを守るために、自分のこだわりはどこまで押し通して良いモノなのか、と。勝てる見込みがあるなら、剣を手に取っても良いのではないか、と。そう考えるのだ。
「いや。まずは、明日のことを考えよう」
しかし彼は前を向くこととした。
まずは、明日の戦いの考えることこそ、大切なのだと。
ゆっくりと目を閉じて、深く息を吸って吐き出した。そして、次第にレオの意識は闇の中に落ちていく。深い深い、意識の闇の中へと――。
◆◇◆
――そして、翌日を迎えた。
少年はギルドを訪れる。すると、そこにはすでにエレナの姿があった。
金の髪をなびかせ、丁寧な所作で会釈をした彼女はニッコリと微笑む。言葉はなかった。ただそれでも、なるべくレオのことを安心させようとしているのは、手に取るように分かった。
「行きましょう。エレナさん……!」
そして、少年は一人の戦士となる。
力強く守ろうと思った人にそう言って、拳を握りしめた。
「えぇ、行きましょう」
すると、そこに至ってエレナも口を開く。
少しだけ首を傾げて、その綺麗に整った顔に決意を宿して。
その言葉、表情には、少年に自分の命運を託そうとする意志があった。
「――――――――」
そこで改めて、少年は目を閉じて深呼吸をする。
ここから先は後戻りできない。元よりするつもりなどなかったが、再び覚悟を決める。彼女の目の前で、恩人である彼女を守るため、自分は戦うのだ、と――。
「――――よしっ!」
そして、レオは頷いた。
戦いへと赴こう。小さな小さな大一番へ。
少年は歩き出した。
ついに、その歩みからは迷いが消えたのだった――。




