4.可能性
「そんなわけで、リューク兄様? どうしたらよろしいでしょうか」
「ん~、なるほどなぁ。それで僕に相談したわけか――非番なのに」
さてさて、翌日である。
朝になって、私はふと鍛錬の相手として適任である人物を思い出した。
それというのが私の下の兄。リューク・ファーガソンだった。王家の騎士団に所属している彼は今日、なんとも都合よくお休みの模様。
そんなわけで、私は初めてレオくんを実家に招いた。
すると少年は――。
「――あ、あああああの! よ、よろろ、よろしくお願いします!!」
「大丈夫、レオくん? 小刻みに震えてるけど……」
完全に委縮してしまっていた。
言葉も噛み噛みで、我が兄のことを見上げている。
リューク兄様は細身ながら、レオくんの二回り以上大きい。さらには私と同じ金の髪を長く伸ばしており、他の騎士団員曰く蒼眼の金狼という異名を持っているとか。そんな人を目の当たりにしたのだから、レオくんが震えるのも当然か。
「大丈夫だよ、レオくん。食べられたりしないから……」
「なぁ、エレナ? 僕をなんだと思ってるんだい?」
そう思って少年にそう伝えたら、リューク兄様にツッコまれた。
いや、別にそういう意味では……。
「だ、大丈夫です……。今日は、よろしくお願いします!!」
「ふむ。礼儀正しい良い子じゃないか。よろしくね」
そう思っていると、二人がそんな会話をしていた。
レオくんは口を真一文字に結んで、兄様はニッコリと柔和な笑みを浮かべて。その様子を見て、私は内心でホッとし胸を撫で下ろした。
どうやらこの二人の相性は悪くないみたい。
これなら、打ち解けるのにもそう時間はかからないだろう。
「さて、それじゃ――早速始めようか。まずは、着替えようか」
「は、はい!」
そう言って、二人は着替えに向かうのであった。
私はその後ろ姿を見送り、ふっと息をつく。
「あらぁ? ずいぶんと、可愛らしいお客さんねぇ」
「お母様。はい、先日話してたレオくんです」
「あの子がそうなのぉ?」
その時だった。
お母様が後ろから声をかけてきたのは。
レオくんを見て、頬に手を当てつつ微笑む彼女。それはまるで、幼い我が子を見つめる親そのものの表情だった。どうやら、少年がお気に召したらしい。
ただ、それだとしても――。
「あの子が、将来の旦那様かしらぁ?」
――この勘違いだけは、いただけないけれども。
「ぶっ!?」
私は思わず吹き出してしまった。
いやいやいやいや。さすがにそれはなかった。
そもそも、レオくんとは出会ってまだ数日しかたっていない。こういうのは、アレだ――もっと、お互いのことを知ってから、というやつで……。
「あらあらぁ? エレナちゃん、さすがに冗談よぉ?」
「……お、お母様っ!?」
目を回していると、お母様はそうくすくすと笑った。
おちょくられていた! この(娘が言うのもなんだけど)明らかに抜けてる母に! ぐぬぬぬ、何故だか凄く悔しい……!
「ふふふっ」
「もう、笑わないで! お母様!?」
そんな、何気ないやり取り。
二人を待つ間に、私はひたすらにお母様に弄られるのであった……。
◆◇◆
「はははっ! あのエレナがあんなリアクションをするとはな!」
「リュークさん。あまり大声で笑うと、聞こえちゃいますよ?」
レオとリュークは、鍛錬時用の更衣室でそんな話をしていた。
エレナの兄であるリュークは、微かに聞こえる彼女と母親の会話がツボにはまったらしい。腹を抱えて笑い、涙を拭っていた。それを見て、レオは苦笑いである。
少年の言葉に、リュークはどうにかこぼれ出す笑いを堪えた。
そして、ようやく話を前に進める。
「いやぁ、すまない。意外とエレナにも可愛いところがあるな、とね?」
「は、はぁ……。それは、エレナさんに聞かれたらまた怖いことを……」
「まぁ、それは置いておこう。ところでレオくん――」
リュークは、唐突に真剣な表情になって言った。
「――キミ。意外と、良い身体してるんだね……」
「……へ?」
上着を脱いでいた少年は、その熱っぽい視線に目を丸くする。
リュークの浮かべている表情は、次第に笑みを含み始めた。どうやら、エレナの兄はそういった造形美に目がないらしい。気付けば、レオの身体をペタペタと触っていた。――手つきは、どことなくいやらしく。
「ひゃんっ! や、やめて下さい!?」
「いいじゃないか、男同士だし。それに、減るもんじゃないしね……」
「いや、あの、その! こういうの、男同士だから逆に危ない気もします!」
少々、貞操の危機を感じたレオは彼から距離を取った。
リュークは残念そうに、首を傾げる。
「あぁ、でも――ほんの少しだけでいい。背中を見せてくれるかな?」
「え……背中、ですか?」
そして、そんなことを言った。
今度は少年が首を傾げ、しかしおずおずと背を向ける。
「気になってたんだけど、背中のこの痣のようなモノは?」
するとエレナの兄は、興味深そうにレオに訊ねた。
「あぁ、それですか? 良く分からないですけど――生まれた時からあるらしいです。何年経っても消えてくれないので、困ってるんですよね」
「ふむ……?」
少年の答えに、リュークは顎に手を当てる。
「これは、もしかして――」
次いでそんな言葉を漏らした。
先ほどのような手つきではなく、今度は優しく、その痣に触れる。
「――剣聖の紋章? いいや、そんなまさか……」
漏らした声は、彼にしか聞こえない。
しかし、これが後に真実になることをリュークは知らなかった……。
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