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第9話 一息

 丸太の山が揺れている。

 見張りをしていた村人はそう証言していた。

 ハヤテの引く車は今にも壊れそうにギシギシと軋みながらも、確実に村へと近づいている。

 一番重要な地面と接するタイヤ部分がオーバーテクノロジーの塊であったせいで、強度だけを追い求めた作りの本体部分を完全に支えている。

 村に到着した丸太の山は、村人たちの手で加工されていく。

 一度の往復で、年に運び込まれる木材の量を凌ぐほどだった。

 村人たちは一本の木を苦労して倒して枝を打って切り分けて運ぶために数日かけて行われるのが当たり前だったが、このハヤテという来訪者は不思議な道具でいとも簡単に木を切り倒し、枝を払い、そして、()()()()()()()()運んでしまう。

 ごく短時間持ち上げるならカフェルも肉体強化で出来るかもしれないが、明らかな異質な力だ。


「……手加減されてたんだなぁ……」


 カフェルはその様をみて、ありありと実力の差を思い知った。


 運び込まれた丸太は村人たちによって加工されていく。これだけ立派な木材はなかなか手に入らないので村総出で仕事に当たる。

 皮をはいで使いやすいように切り出していく。

 ハヤテの持つエネルギーカッターはまるで豆腐でも斬るように丸太を木材へと変えていく。

 ハヤテの指示で村の周囲に堀も作られていく。

 加工された木材は強固な塀となり、堀の底には端材を利用したマキビシが撒かれる。

 数日間をかけて村の改修は進められていく。

 ガタついた建物や家具も一新され、村には革新の風が吹き荒れていた。


「しかし、ハヤテさんの道具は凄いな! 石も簡単に切り出せて思い通りの形なる。

 おかげで石窯も各家庭に準備できたし、鍛冶の道具も見違えたよ!」


「鉄の場所も魔法みたいに見つけてくれるし、ほんとにハヤテ様様だぁ!」


 分析器には簡単なセンサー、スキャナー機能がついている。

 ごく限られた機能でも、この星の生活においては魔法みたいなものだ。


「マナでこう土の精霊を呼んで聞いたりとかは出来ないのか?」


「いやいやいや、マナはそんな便利な物じゃないから……まぁちょっと土を柔らかくしたりとかは出来るから手当たり次第にやれば見つけられるけど、ハヤテの道具みたいにそこにある! みたいなことは出来ないよ」


「俺も肉体強化は得意だけど石を切ることは流石に出来ない、やっぱりアニキは凄いよ」


 マイアとカフェルはすっかりハヤテになついていた。

 村人全員がなついていると言ってもいい状況になっている。


「俺の力じゃなくて道具の力だからなぁ……」


「そういえば見張りに弓ではなくてスリングに変えたのは驚きました」


「敵も粗末なスリングを使ってたけど、本気でやるとすごいからねあれ、石さえあれば弾に困らないし、弓は技術の差が顕著に出ちゃうから、と思ったんだけど、一部の人は弓のままでいい人もいたし、でもみんなが持つことで万が一の場合に全員で対応できる方がいい。基本的には戦争は数だからね……」


 そう話しながら腰につけていたスリングで近くの木を打ち抜く。

 ひゅおっ! っと風切り音の直後にバキャン! と激しい音が響く。

 加速された石は木に当たり弾ける。もちろん木にも深くえぐり取られた跡が残る。

 これが人に向けて放たれたらどうなるか、想像に容易い。


「軽く振ってもこうだからな」


 マイアとカフェルは何度見ても軽く引いてしまう。

 本気を出したらどうなるんだろうと興味はあるが、言い出せない雰囲気がある。

 大地を切り裂き森を消し去りそうな、そんな予感がしてしまう……


 細かな生活にも豊富な木材資源や、森に行ったときに持ち帰るもので村の生活は豊かに変わっていっている。

 おまけにハヤテの持つカッターは石材の切り出しも簡単に行える。

 村人たちは耳をぴんと立てて尻尾をぶんぶんと振ってハヤテに感謝するので、ハヤテも悪い気はしなかった……というよりは、居心地が良すぎてどうせ惑星も売り物にはならないし、この自然あふれる星でのんびりと生きていくのもいいかなぁ、どうせ帰っても借金取りに終われて奴隷人生が待っているだけなのは火を見るよりも明らかだよなぁ……、と、現実逃避的に日々を送っていた。


「森に行けば木々の実やキノコなどを獲り、川に入れば魚を捕らえ、獲物を見つければ狩猟する……

 失われた素晴らしい日々の生活を、生きているという気持ちを大切に過ごす幸せよ」


 念願の風呂も作り、満天の夜空の元に浸かっていると、ハヤテはそんな気持ちに満たされている自分に気がつくのであった。


「ハヤテ、どうしたの独りで話して?」


 急な声にハヤテが振り返ると、そこには一糸まとわぬマイアの姿があり、慌てて目をそらす。

 その一瞬でも目に焼き付いてしまう美しいボディーライン、意志に背いて変化しようとする体の一部を必死で抑える努力をハヤテはしなければならなかった。


「ちょっ、マイア、何度も言うけど男が入ってる時はダメだって言ってるじゃないか!」


「いいじゃないの、ハヤテみたいなオスだったら大歓迎だからいつでも襲ってくれていいのよ?」


「また……だから勝手に入ってくるなって……」


 マイアは最近激しくハヤテにアタックを仕掛けている。

 周りの村人たちの目の輝きが本気度を増してきて、マイアも早いところハヤテを手に入れたいのだ。


「強いオスを娶るのがメスの幸せなのよ、さぁ、今日こそ覚悟してもらうからね」


「やめるんだマイア、風呂はゆっくりと浸かるべきだ。近い近い、わかったわかった!

 とりあえず風呂はゆっくりはいらしてくれ、上がったらゆっくりと話を、ま、待てどこを触って……」


「その手はこの間使われたから……逃がさないわよ……」


 手足と尾を器用に使ってハヤテに襲い掛かるマイア。


 ハヤテの運命やいかに……


 



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