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第8話 ハヤテ始動

 昼を過ぎるとぼろ雑巾のようにぶら下がっていた獣人達も皆起きて村の後かたずけに従事する。

 ハヤテはマイアとカフェルと一緒に村の中を案内されていた。


「水が出ている場所を見つけられたのは私たちにとって幸運だったわ、急な斜面は背後も守ってくれるし。

 周囲の見通しもいいし、それでいて森も近くて、先祖がこの場所に村を作ってくれたことは本当に幸運」


「でも、あんな近い森でパラス族に出会ってしまうなんて……やっぱり最近パラス族が活発になっているって言うのは本当なのかも」


「……俺は二人ぐらい逃がしてしまっているが、復讐とかされたりしないのか?」


「復讐とかは無いと思う、ただ、この近くに獲物がいるって言うのは……」


「パラス族は何でも食べるけど、特に私たち人型の生物を好むの、狡猾な奴らは、私たちが集団で暮らしていたら、ひっそりと監視して確実に滅ぼせる準備をして襲ってくる。

 無理と判断したら襲わないこともあるけど、防備の外に出たものをしばらく襲ったりするわ」


「つまり、今の護りだと……襲ってくるかもな……」


 ハヤテは近くにある村を囲っている木の柵を揺らしてみる。

 簡単にギシギシと揺らいで外すのも壊すのも容易と感じた。


「壊れたところは直すんだけど……」


「木材はかなり男手がいるから、なかなかそこまでは……」


「……そうだな、これで襲われたら俺にも原因があるだろう。

 しばらくは村の守りを強化する手伝いをするよ」


「べつにハヤテさんのせいじゃないのよ?」


「いや、カフェルにはもっといろいろと教わりたいし、それに、やれることをきちんと対策しないで問題を起こすのは、俺の主義に反する」


 ハヤテは一度決めると動きが早い。

 荷物輸送に使っていたカートを簡単に改造して、丸太を輸送するために前輪と後輪の距離を延ばす。

 持っている道具を使ってあっという間に形態を変える様に獣人達は驚いてしまう。


「俺たちが使う道具と比べ物にならん……」


 エネルギーカッターは、文字通り別次元の道具だ。


「皆の道具ってどんな感じ?」


 獣人達が使っていたのは鉄製の道具だったが、どうやら不純物も多く、刃を出す技術も低い。

 確かにこの道具を使っていては作業の効率は悪いだろうな、とハヤテは思う。


「鍛冶は誰かやっているのか?」


「一応刃を研いだりは俺がやっている」


「作業場を見せてもらえないか?」


「ああ、もちろんだ。こっちだよ!」


 すでに村人からカフェルとの立ち合いで力を見せて信頼されているハヤテ。

 村人たちも喜んで協力してくれる。

 

 鍛冶師の仕事場は粗い石から細かいの目の石まで、先祖から受け継がれてきた貴重な石たちがきれいに置かれていた。

 

「なるほど、確かに小型の刃物なら丁寧にやればなかなかだろうけど、作業が多くなると時間がかかりすぎるんじゃないか?」


「!? あ、ああ。ハヤテさんの言う通りだ!」


「よし、森に行くついでに手を考えておく、ありがとう」


「あ、ああ! 気をつけて行ってくれ!」


 ハヤテはレンジャー実習などで彼らの科学技術からすれば古典的な方法も数多く学んできている。

 いろいろな状況下で生き残るためには、人間が過去から連綿と受け継いできた技術の数々を知り、それを状況に合わせて使用していけることは非常に実用的だからだ。

 進んだ科学技術に依存しきると、今回のような不慮の事故の後に何もでき無くなってしまう。

 もちろん、ハヤテはそういった訓練をプロとして学んできているので、普通の人間とは異なっている。


「それじゃぁ、ちょっと森まで行ってくる」


「こないだ手ひどくやられたパラス族はしばらくは襲ってこないだろうが、森には危険もある。

 まぁ、君とパフェル、さらにマイアがいれば問題ないだろうがな」


 村のまとめ役の獣人らに見送られ、ハヤテは村から森へと移動する。

 村の立地状況は悪くない、少し小高くなっている丘、背後は切り立った山を背負っており、敵に攻められた場合いち早く確認できるし、守る方向を制限できる。

 ハヤテは現状に用いれる準備を頭の中で構築しながら必要な物資の当てをつけて行く。

 

「分解するのは早まったなぁ……これに乗って降りるって手もあったな……」


 形態が変わってとても人間を乗せられる形ではなくなった馬車を綱で引きながらハヤテは冗談を言う。


「結構揺れるから……酷い乗り心地になると思うわよ……」


 乗車経験者は語る。


「ハヤテさん、もう少しマナの流出押さえられますか?」


カフェルが弓をつがえながら静かに話しかけてくる、ハヤテは習った通りにマナを抑えていく、野生の動物にはマナが荒ぶっているとそれを感じ取って逃げ出してしまうものがいるそうで、マナを抑えながらマナを使って弓を射るような高等な使い方をするそうだ。


ヒュッ


矢を放つ風斬り音が静寂を切り裂くとカフェルがハヤテに向き直る。


「いいお土産ができましたよ」


カフェルは草原に獲物を見つけ、あっという間に狩って見せたのだ。獲物は鹿に似た動物で、草原まで出てくるのは珍しいらしく、マイアもカフェルも大喜びだった。

皮も角も骨も使えるし、何よりも美味しいらしく、素晴らしい土産を手に入れられた。


「これは目的の方も頑張らないとな」


森についたハヤテは、張り切るのであった。

と、言ってもエネルギーカッターを利用して木々を斬り、荷車に乗せる。ただそれだけだ。

ナノマシンなのかマナによるものかはいまだにわからないが、軽々と丸太を担いで次々と組んでいく。

周囲で蔦状の植物を見つけて高々と組み上げていく。

マイアとカフェルが鹿の血抜きをして戻ってくる頃には荷車に高々と丸太の山が作られて二人を驚かせた。


「さ、一旦帰ろうか?」


近くに自生していた梨に似た果実を二人に投げながらハヤテは車を引く縄を体に巻き付ける。

台車が丸太の重みで軋んでいるが、もっともベースとなる部分には宇宙に耐える素材を利用している。

ハヤテの馬鹿力に引かれて丸太の山はゆっくりと動き出す。


「……夢じゃないよね?」


「夢じゃないみたいよ?」



二人の口のなかには齧った実の甘さが広がっていた。


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